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第十六章

ジンギスカン

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 小部屋の中で肉を焼くと臭いがこもるので、全員で通路に出ることにした。

「しかし、君の刀はいろいろと便利だな」

 そう言って僕は、地下通路の壁に水平に刺さっている橋本晶の万能剣 《雷神丸》を指さす。

 ちなみにこの刀はロボットスーツ専用の刀で、生身の時に使う刀は別にあるらしい。

「リトル東京の技術者が趣味に走って……いえいえ、腕によりをかけて制作した特注品ですので。戦う以外にも、このように戦場での料理に使えます」

 発熱している《雷神丸》の上では、ヒツジの肉がジュージューと音を立てて焼けていた。みんなはその周りを囲み、焼けた肉を紙コップに入れたショウガ醤油に浸して食べている。

 通常の日本刀よりかなり幅が広いと思っていたが、こういう使い方もできるのか。しかし、こんな使い方して刀が痛まないのか?

「広場の方に、帝国兵が作っていた畑もありましたので、お野菜も頂戴して参りました」

 そう言って橋本晶はタマネギを取り出して空中に放り投げると、脇差しを抜いて目にも止まらぬ早さで振り回す。

 細切れになったタマネギが、雷神丸の刀身の上にポトポトと落ちた。

「やはり、肉だけでは栄養が偏りますから。ところで隊長。ヘルメットは取らないのですか?」
「いや、ちょっとヒツジの臭いが苦手なので……」

 なので、僕は時々息を止めてからバイザーを開き、羊肉を食べていた。味は旨いのだが、この臭いはどうにも苦手だ。

「橋本さん。お野菜もあるのですか?」
「はい、森田さん。畑から適当に引っこ抜いてきました」

 橋本晶は野菜類の入った大きなカゴを指さす。

「これなら、ユキちゃんも食べられるかしら?」

 芽依ちゃんは、名前も分からない葉物野菜をカゴから取り出して、子ヤギに差し出した。

「メェェェ」

 子ヤギは喜んで野菜を食べる。

「可愛い! 芽依ちゃん。あたしもやっていい?」
「良いわよ。ミクちゃん」

 しかし子ヤギを可愛がるのはいいのだが、そういう事をしながらでもヒツジの肉は食べるのだな。

「ふむ。なかなか美味い肉じゃな」

 いつの間にか、ジジイが部屋出てきて《雷神丸》の上で焼けている肉をフォークでつついていた。  

「ジジイ。考え事はもういいのか?」
「まだ途中じゃ。しかし、腹が減っては戦ができぬからのう。ところで、この肉はどうしたのじゃ?」
「橋本君が、ヒツジを狩ってきた」
「ふむ」

 ジジイは芽依ちゃんの方を向く。

「これを食べ終わったら、次はメガネっ娘が抱いているヤギを食べるのか?」
「いやああああ!」

 ジジイがそう言った途端、芽依ちゃんが悲鳴を上げる。

「なんでユキちゃんを食べようとするんですか!?」
「ジジイ。あのヤギは……」

 手短に経緯を説明する。

「ふむ。子ヤギの方からドアをノックしてきたのか。まさかそんな事はないと思うが、子ヤギ型のドローンではない事は確認してあるのだろうな?」
「それは最初に疑った」
 
 Pちゃんに調べさせたが、金属反応はまったくなかった。本物のヤギだ。

 盗聴器が仕掛けられている様子もない。

「ふむ。そうか。ところでなぜヘルメットを取らないのだ?」
「いや。ヒツジの臭いが苦手で……」
「そうか。では、臭いの入ってこない小部屋へ来てくれんか。おまえに聞いてもらいたい事がある」
「ヘルメットのままではダメなのか?」
「ダメじゃ」
「エロい話ならつきあわんぞ」
「学術的な話じゃ」
「学術的? ああ! 一応あんた科学者だったのだな」
「わしを何だと思っとるんじゃ!」
「変態ジジイだと思っている」
「ふん。まあ変態であること認めるが」

 認めるんだ。

「わしがこれから話すのは、ワームホールとプシトロンパルスの関係性についてじゃ」
「え?」

 意外とまともな話題だな。

「どうじゃ、興味あるじゃろう」
「そりゃあ興味あるけど、僕の専門は化学だが良いのかい?」
「基礎的な物理学を理解していれば十分じゃ」
「そういう事なら」

 僕はジジイと一緒に小部屋に入っていった。
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