690 / 846
第十六章
不意の遭遇
しおりを挟む
不意に橋本晶は、僕らの方へ振り向いた。
「北村さん。森田さん。戦闘は可能な限り避けようとしていたのですが、第二層の様子を見ようとしたところ、不意に敵兵と遭遇しまして、やむを得ず戦闘に入りました」
不意の遭遇か。それなら仕方ない……
そこへ芽依ちゃんが、僕に耳打ちしてきた。
「第二層には、ドローンを送り込んでいたはずです。敵兵が第一層に上がってくるのが分からないはずありません」
だよね。不意の遭遇であるはずがない。
なんだっで彼女は、そこまでして戦いたいのだろうね?
「敵兵に生存者は?」
「二名ほど、峰打ちで倒しました」
さっそく、捕虜の分身体をミールに作ってもらった。
「斥候が第一層を偵察したところ、誰もいないという報告を受けました」
捕虜の分身体が、何があったかを話し始める。
「私は一個小隊を率いて、第一層へ向かうように命令を受けました」
どうやらこの男は小隊長らしい。
「私は部下たちとともに、第一層へ向かう傾斜路を登っていきました」
ちなみにこの地下施設の階層間は、階段ではなく直径三十メートルほどの緩やかな螺旋状の傾斜路で結ばれるというバリアフリー設計。
ここを作った半人半馬のタウリ族にとって、階段は使いにくいのかもしれない。
一応エレベーターのような施設もあるが、現在は機能していないそうだ。
「我々は傾斜路を登り切り、先頭の者が扉をそっと開き、隙間から様子をうかがったのです」
傾斜路の出入り口には観音開きの扉がある。ノブのような物はない。元は自動ドアだったようだが、今でも手で押せば普通に開き、手を離せば勝手に閉まる仕組みだ。
「第一層には明かりがなく真っ暗でしたが、カンテラで照らしてみると何か動く物がいました。一瞬敵兵かと思いましたが、マルガリータ姫の部隊が残していったヤギだと分かって、我々は安心して第一層に入っていったのです。ところが数十メートル進んだとき、背後から、金属音が聞こえました」
金属音?
「扉が閉じた音ではないのか?」
「いえ。その音が聞こえる前に扉は閉じていました。私は何事かと振り返ると、そこに紫色の機動鎧を纏った敵がいたのです。私が戦闘命令を出す暇もなく、その者に間合いに入り込まれ、刀で切られました」
切られたと認識しているようだが、実際は峰打ちを食らったのだな。
「橋本君。彼らが振り返った金属音とは、なんだったのかな?」
「はい。彼らが第一層に入って来たとき、私は扉の陰に隠れていたのです。ところが、彼らが通り過ぎた後で扉が閉じてしまったために、慌てて別の隠れ場所を探そうとしたところ、刀の鞘が扉にぶつかり……」
それは不可抗力だな。
と思ったところへ、芽依ちゃんが耳打ちしてきた。
「鞘はプラスチック製ですから、ぶつかっても金属音など出ません。きっと抜き身の刀で扉を叩いて、帝国兵を振り向かせたのですよ」
そこまで疑わなくても……
「まあ、橋本君が無事だったのでなによりだ。僕が単独の戦闘を避けてほしいと言ったのは、敵兵の中にはロケット砲などを持っている奴もいるからだよ。一人で格闘戦をやっていると、気がつかないうちに狙い撃ちされる危険があったからなんだ」
「お心遣い感謝いたします。しかし、心配ご無用。RPG7を持っている兵士は二人だけで、そいつらは真っ先に切り捨てました。後は九九式には通用しない小銃だけですので」
「そうだったのか。しかし、すごいなあ君は。不意の遭遇で、敵の状況をそこまで見抜くとは」
「え? ああ、まあ、大したことではないですよ。あはは……」
笑いがひきつっている。やはり、不意の遭遇ではないな。
大方、傾斜路を登ってくる帝国兵の状況を、ドローンでじっくり観察して、待ち伏せしていたのだろう。
「北村さん。森田さん。戦闘は可能な限り避けようとしていたのですが、第二層の様子を見ようとしたところ、不意に敵兵と遭遇しまして、やむを得ず戦闘に入りました」
不意の遭遇か。それなら仕方ない……
そこへ芽依ちゃんが、僕に耳打ちしてきた。
「第二層には、ドローンを送り込んでいたはずです。敵兵が第一層に上がってくるのが分からないはずありません」
だよね。不意の遭遇であるはずがない。
なんだっで彼女は、そこまでして戦いたいのだろうね?
「敵兵に生存者は?」
「二名ほど、峰打ちで倒しました」
さっそく、捕虜の分身体をミールに作ってもらった。
「斥候が第一層を偵察したところ、誰もいないという報告を受けました」
捕虜の分身体が、何があったかを話し始める。
「私は一個小隊を率いて、第一層へ向かうように命令を受けました」
どうやらこの男は小隊長らしい。
「私は部下たちとともに、第一層へ向かう傾斜路を登っていきました」
ちなみにこの地下施設の階層間は、階段ではなく直径三十メートルほどの緩やかな螺旋状の傾斜路で結ばれるというバリアフリー設計。
ここを作った半人半馬のタウリ族にとって、階段は使いにくいのかもしれない。
一応エレベーターのような施設もあるが、現在は機能していないそうだ。
「我々は傾斜路を登り切り、先頭の者が扉をそっと開き、隙間から様子をうかがったのです」
傾斜路の出入り口には観音開きの扉がある。ノブのような物はない。元は自動ドアだったようだが、今でも手で押せば普通に開き、手を離せば勝手に閉まる仕組みだ。
「第一層には明かりがなく真っ暗でしたが、カンテラで照らしてみると何か動く物がいました。一瞬敵兵かと思いましたが、マルガリータ姫の部隊が残していったヤギだと分かって、我々は安心して第一層に入っていったのです。ところが数十メートル進んだとき、背後から、金属音が聞こえました」
金属音?
「扉が閉じた音ではないのか?」
「いえ。その音が聞こえる前に扉は閉じていました。私は何事かと振り返ると、そこに紫色の機動鎧を纏った敵がいたのです。私が戦闘命令を出す暇もなく、その者に間合いに入り込まれ、刀で切られました」
切られたと認識しているようだが、実際は峰打ちを食らったのだな。
「橋本君。彼らが振り返った金属音とは、なんだったのかな?」
「はい。彼らが第一層に入って来たとき、私は扉の陰に隠れていたのです。ところが、彼らが通り過ぎた後で扉が閉じてしまったために、慌てて別の隠れ場所を探そうとしたところ、刀の鞘が扉にぶつかり……」
それは不可抗力だな。
と思ったところへ、芽依ちゃんが耳打ちしてきた。
「鞘はプラスチック製ですから、ぶつかっても金属音など出ません。きっと抜き身の刀で扉を叩いて、帝国兵を振り向かせたのですよ」
そこまで疑わなくても……
「まあ、橋本君が無事だったのでなによりだ。僕が単独の戦闘を避けてほしいと言ったのは、敵兵の中にはロケット砲などを持っている奴もいるからだよ。一人で格闘戦をやっていると、気がつかないうちに狙い撃ちされる危険があったからなんだ」
「お心遣い感謝いたします。しかし、心配ご無用。RPG7を持っている兵士は二人だけで、そいつらは真っ先に切り捨てました。後は九九式には通用しない小銃だけですので」
「そうだったのか。しかし、すごいなあ君は。不意の遭遇で、敵の状況をそこまで見抜くとは」
「え? ああ、まあ、大したことではないですよ。あはは……」
笑いがひきつっている。やはり、不意の遭遇ではないな。
大方、傾斜路を登ってくる帝国兵の状況を、ドローンでじっくり観察して、待ち伏せしていたのだろう。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
乾坤一擲
響 恭也
SF
織田信長には片腕と頼む弟がいた。喜六郎秀隆である。事故死したはずの弟が目覚めたとき、この世にありえぬ知識も同時によみがえっていたのである。
これは兄弟二人が手を取り合って戦国の世を綱渡りのように歩いてゆく物語である。
思い付きのため不定期連載です。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる