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第六章

カルカ国

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 ダサエフが生きて帰り着いてしまった、となるとミケ村への再侵攻もありうる。
 しかし、八千もの大軍を僕らだけでは……
「ううん」
「ご主人様、何を考えているのです?」
「いや……ちょっと」
「カイトさん。まさかと思いますが、城に殴り込みをかけようとか考えているのでは?」
「そんなバカな事しないよ。相手は八千人。手持ちの爆弾を全部出してドローンで爆撃しても全然足りない」
 とは言え、このまま、知らん顔して通り過ぎるというのも……
「大量殺戮兵器でも使わなきゃ無理だな」
「ご主人様。言っておきますが、核兵器はプリンターでは作れませんよ」
「んな事、分かっている」
 最初にプリンターの説明を聞いたときから、それは分かっていた。プリンターのマテリアルカートリッジに入っている元素は水素からビスマスまで。八十三番元素ビスマスより大きな元素の入っているマテリアルカートリッジはない。
 たいていの物は、それで作れるから問題ないが、ウランやプルトニウムを必要とする核分裂爆弾は作れない。
「そもそも、このプリンターには正規兵器のデータがないのだろう」
「確かにデータはありませんが、ご主人様の記憶には、かなり詳細な原子爆弾の知識があります。三次元CADでデータを作ることは可能だと推測できます」
 そういえば、学生時代に原子爆弾の事を調べて設計図とか書いたりしたな。
 なんであの時は、そんな無駄知識を増やしてしまったんだろう。
「なあ、Pちゃん。核分裂爆弾が作れないというのは分かるけど、核分裂に頼らない核融合爆弾とかは実現しなかったの?」
「実現しましたよ」
「それも、プリンターで作れないの? データがあればの話だけど」
「核分裂に頼らない核融合爆弾は三種類あります。一つは対消滅反応で点火するタイプ」
「反物質を使うのか。そりゃ作れんな。後二つは?」
「一つはミューオン触媒式核融合爆弾」
 ああ、それもプリンターじゃ無理だ。マテリアルカートリッジは普通の原子しか扱えない。
 ミューオン触媒式核融合爆弾には、普通の原子から電子とミュー粒子を置き換えた異種エキゾチック原子が必要だ。そんな物を、マテリアルカートリッジには入れられないだろう。
「最後の一つは、レーザー点火式核融合爆弾」
 レーザー点火式なら、おかしな物質は使ってないと思うけど…… 
「それも、作れないの?」
「作れない事はありません。ただ、かなり大きな装置になりますので、私たちが使っているプリンターでは無理です。もっと大型のプリンターでないと作れません」
「そうか……ん?」
 僕はミールの方を向いた。
「ミール。前に言ってたよね。帝国軍は国を一瞬にして焼き尽くしてしまう兵器を使ったって」
「ええ、言いましたが……ただ、それがどんな武器かは……何しろ三十年前の事だから……」
「それは、何回ぐらい使われたの?」
「あたしの聞いた話では一回だけです。ここから、西の方へ行った砂漠の中にあるカルカ国で、その兵器が使われたとか」
「カルカ?」
「元は小さなオアシス国家でした。それが三十年前、突然大きく発展して巨大な建物がたくさん建てられて、世界一の都市になったそうのです」
「カルカ国が、急に発展した理由は?」
「はっきりとしたことは聞いていません。ただ、その少し前に星の世界からやってきた人たちが、カルカ王に仕えるようになったという話があります。それと関係があるのかと……」

 星の世界?

 それは、帝国人や日本人の他にも、三十年前にこの惑星に来た地球人がいるのか?
 あるいは、地球人以外の異星人? 
 その人たちが、カルカの国を発展させた。
 帝国は、それに脅威を覚えて核を使った?
 しかし、核はプリンターでは作れない。
 では、核を地球から持ってきたのだろうか?
 それとも、核ではなくサーモバリック爆弾?
 あるいは、レーザー点火式水爆を作れるほど巨大なプリンターがあったのか?
「ミール。途中でカルカに寄る事はできるかい?」
「どっちかというと、カルカを通った方が近道になりますが、あたしは避けようと思っていました。通りたいですか?」
「特に危険がないなら、行ってみたい。行けば、三十年前になにが起きたか分かると思うんだけど……何か、危険があるのかい?」
「特に危険はありません。ただ、不吉な場所だから避けた方がいいかなと思っていただけです」
「よし。カルカに行ってみよう。その前に……」
 僕は画面が暗くなっているPCに目を戻した。
「目の前の問題を片付けないと……」
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