88 / 842
第五章
何か忘れているような?
しおりを挟む
二人に気づかれないように、こそーりと、トレーラーの屋根から降りた。
しばらく歩くと、広場で炊き出しをやっているのが目に入る。
そこで、またミールのお爺さんと村長が口論していた。
「なんて事を言う! ミールは、わしらのために戦ったのだぞ」
「だからって、皆殺しにする事はないだろう。帝国軍が怒って報復に来たらどうする?」
「怒らせなくても、わしらは十分ひどい目にあったわ」
「だからと言って、皆殺しとは残酷な。そんなだから、お前の孫は嫁に行けんのだ」
この村長、意外と人道主義だな。
「あの……」
二人が僕の方を向いた。
「帝国軍を、皆殺しにしようと言い出したのは僕です。ミールさんでは、ありません」
ミールのお爺さんが、僕の方へ歩み寄ってきた。
「おお! 誰かと思ったら、昨夜の日本の方ですな。あの鎧の下はこんな好青年でしたか」
「はあ、どうも……」
好青年ね。お世辞でも、言ってもらえると、ちょっと嬉しいかな。
「昨夜は、わしらを助けてくれて本当にありがとう。ミケ村を代表して礼をいいますぞ」
村長が、慌てて駆け寄ってきた。
「こらあ! 勝手に代表するな! ミケ村の代表者はわしだ」
「おお! そうだったのう。まあ、次の選挙までのことだが……」
「なんだとう!」
「なんにせよ、今現在の代表は、おまえじゃろ。だったら、村の恩人に礼の一つも言ったらどうなんだ」
「うるさい! 言われんでも、そうするつもりだったわい! 人が、礼の言葉を考えている間に、抜け駆けしおって」
「礼の言葉がとっさに出てこないようでは、次の村長はわしだな」
この二人、政敵どうしだったのか。
それにしても選挙って言ってたけど、村の政治は民主主義だったのか?
王国とか帝国とかあるから、てっきり封建社会なのかと思っていたけど……
村長が僕の前に立った。
「日本のお方、この度は村をお救いいただき、ありがとうございました。ミケ村の正式代表として礼をいいますぞ」
『正式』というところに、偉く力を入れてるなあ……
「いや、礼には及びませんよ」
「できれば、お礼の宴を設けたいところですが、なにぶん村がこの状況でして……」
「宴なんてとんでもない! 復興で大変でしょ。僕はここには、数日しかいられませんが、その間は可能な限りお手伝いします」
「おお! それは助かります。人手が足りなくて困っていたところですので」
やはり、人手が足りないんだな。ミールを連れていっちゃっていいのかな?
僕は、ミールのお爺さんの方に顔を向けた。
「あの、実はミールさんがリトル東京まで道案内してくれると言ってるのですが……」
「ミールから、言い出したのですか?」
「ええ。こんな大変な時に、お孫さんをお借りしては……」
「いや、あの娘が自分でそう決めたのなら、わしは止める気はない。どうぞ連れて行って下さい」
「よいのですか?」
「なんなら、そのまま嫁に、もらって頂いけますかな」
「いえ! そこまでは……」
「体良く、ジャジャ馬を、押し付ける気だな」
村長がボソっと、呟く。
ん? 朝日が陰った。
朝日の方を見ると、大きな鳥の群れ……
いや、ベジドラゴンの群れだ。
「カイト!」「ピー」
エシャーとロットが舞い降りてきた。
「カイト、タスケテ、クレテ、アリガト」
エシャーが、すり寄ってきた。
「いいんだよ。元々、僕がエシャーに、お使いなんか頼んだせいだし」
「デモ、カイト、来テクレタトキ、凄ク、嬉カッタ」
「ところで、エシャー。なんで、ベジドラゴンの群れが?」
「ナーモ族、友達。友達困ッテタラ、助ケル、当タリマエ」
「村長、ベジドラゴンが手助けに来てくれたぞ。これで、人手不足はかなり解消されたな」
「しかし、ベジドラゴンに、謝礼を出さねばならないだろ」
「出せば、いいではないか」
「村がこんな状態だぞ。何が出せる?」
「村長の家が無事だっただろ。地下の酒蔵の酒を、振る舞えばよいじゃないか」
「くく……だから、帝国兵を皆殺しにしないで、何人か捕虜にしておけばよかったのだ。捕虜を奴隷にしてこき使えば、謝礼などいらんのに……」
なるほど。帝国兵を殺したことを非難していたのは、人道主義なんかじゃなくて奴隷にできる、捕虜が欲しかっただけか。
地球で、捕虜にそれやったら、ジュネーブ条約違反……ん?
捕虜? ん? ん? なんか、心に引っかかるな。
「カイト、ドウカシタノ?」
「いや、何か忘れているような?」
なんだったっけ?
(第五章 終
「こらあ! 我々を忘れたまま終わるな!」
下着一枚で縛り倒されているドロノフたち帝国兵の事を、海斗とミールが思い出すのは、それから数時間後のことである。
(第五章 終了)
しばらく歩くと、広場で炊き出しをやっているのが目に入る。
そこで、またミールのお爺さんと村長が口論していた。
「なんて事を言う! ミールは、わしらのために戦ったのだぞ」
「だからって、皆殺しにする事はないだろう。帝国軍が怒って報復に来たらどうする?」
「怒らせなくても、わしらは十分ひどい目にあったわ」
「だからと言って、皆殺しとは残酷な。そんなだから、お前の孫は嫁に行けんのだ」
この村長、意外と人道主義だな。
「あの……」
二人が僕の方を向いた。
「帝国軍を、皆殺しにしようと言い出したのは僕です。ミールさんでは、ありません」
ミールのお爺さんが、僕の方へ歩み寄ってきた。
「おお! 誰かと思ったら、昨夜の日本の方ですな。あの鎧の下はこんな好青年でしたか」
「はあ、どうも……」
好青年ね。お世辞でも、言ってもらえると、ちょっと嬉しいかな。
「昨夜は、わしらを助けてくれて本当にありがとう。ミケ村を代表して礼をいいますぞ」
村長が、慌てて駆け寄ってきた。
「こらあ! 勝手に代表するな! ミケ村の代表者はわしだ」
「おお! そうだったのう。まあ、次の選挙までのことだが……」
「なんだとう!」
「なんにせよ、今現在の代表は、おまえじゃろ。だったら、村の恩人に礼の一つも言ったらどうなんだ」
「うるさい! 言われんでも、そうするつもりだったわい! 人が、礼の言葉を考えている間に、抜け駆けしおって」
「礼の言葉がとっさに出てこないようでは、次の村長はわしだな」
この二人、政敵どうしだったのか。
それにしても選挙って言ってたけど、村の政治は民主主義だったのか?
王国とか帝国とかあるから、てっきり封建社会なのかと思っていたけど……
村長が僕の前に立った。
「日本のお方、この度は村をお救いいただき、ありがとうございました。ミケ村の正式代表として礼をいいますぞ」
『正式』というところに、偉く力を入れてるなあ……
「いや、礼には及びませんよ」
「できれば、お礼の宴を設けたいところですが、なにぶん村がこの状況でして……」
「宴なんてとんでもない! 復興で大変でしょ。僕はここには、数日しかいられませんが、その間は可能な限りお手伝いします」
「おお! それは助かります。人手が足りなくて困っていたところですので」
やはり、人手が足りないんだな。ミールを連れていっちゃっていいのかな?
僕は、ミールのお爺さんの方に顔を向けた。
「あの、実はミールさんがリトル東京まで道案内してくれると言ってるのですが……」
「ミールから、言い出したのですか?」
「ええ。こんな大変な時に、お孫さんをお借りしては……」
「いや、あの娘が自分でそう決めたのなら、わしは止める気はない。どうぞ連れて行って下さい」
「よいのですか?」
「なんなら、そのまま嫁に、もらって頂いけますかな」
「いえ! そこまでは……」
「体良く、ジャジャ馬を、押し付ける気だな」
村長がボソっと、呟く。
ん? 朝日が陰った。
朝日の方を見ると、大きな鳥の群れ……
いや、ベジドラゴンの群れだ。
「カイト!」「ピー」
エシャーとロットが舞い降りてきた。
「カイト、タスケテ、クレテ、アリガト」
エシャーが、すり寄ってきた。
「いいんだよ。元々、僕がエシャーに、お使いなんか頼んだせいだし」
「デモ、カイト、来テクレタトキ、凄ク、嬉カッタ」
「ところで、エシャー。なんで、ベジドラゴンの群れが?」
「ナーモ族、友達。友達困ッテタラ、助ケル、当タリマエ」
「村長、ベジドラゴンが手助けに来てくれたぞ。これで、人手不足はかなり解消されたな」
「しかし、ベジドラゴンに、謝礼を出さねばならないだろ」
「出せば、いいではないか」
「村がこんな状態だぞ。何が出せる?」
「村長の家が無事だっただろ。地下の酒蔵の酒を、振る舞えばよいじゃないか」
「くく……だから、帝国兵を皆殺しにしないで、何人か捕虜にしておけばよかったのだ。捕虜を奴隷にしてこき使えば、謝礼などいらんのに……」
なるほど。帝国兵を殺したことを非難していたのは、人道主義なんかじゃなくて奴隷にできる、捕虜が欲しかっただけか。
地球で、捕虜にそれやったら、ジュネーブ条約違反……ん?
捕虜? ん? ん? なんか、心に引っかかるな。
「カイト、ドウカシタノ?」
「いや、何か忘れているような?」
なんだったっけ?
(第五章 終
「こらあ! 我々を忘れたまま終わるな!」
下着一枚で縛り倒されているドロノフたち帝国兵の事を、海斗とミールが思い出すのは、それから数時間後のことである。
(第五章 終了)
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる