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第十六章

本物のカルル・エステス

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 橋本晶は僕の方を向いた。

 僕もバイザーを開いて顔を見せる。

「なんだかおかしな気分ですが、あなたと直接会うのは初めてなのですよね? 隊長……いえ、北村さん」
「ああ。初めまして……というべきなのだろうね。いつ、ここへ?」
「北村さんと森田さんが飛び立ったすぐ後に、私を乗せたジェットヘリが《海龍》に降りたのです。馬 美玲さんとは、リトル東京で面識がありましたのですぐに話は付きました」

 続いて橋本晶は、イワンの方を向いた。

「その球体機動兵器の中にいるのは、カルル・エステスさんとお見受けします」
「いかにも。久しぶりだな、橋本晶……おっと、俺と面識があることを、同僚には知られたくなかったのだったかな?」

 そうか。橋本晶は、カルルと喫煙所でよく会っていたのだったな。ただ、喫煙の事をロボットスーツ隊の仲間には隠していた。

「かまいませんよ。カルル・エステスさん。私が喫煙者であることも、リトル東京の喫煙所で、あなたと世間話をしていたことも、北村さんと森田さんには打ち明けました」
「なに!? それで海斗に、酷いことを言われなかったか?」
「いいえ。特に何も……」
「なに!?」

 イワンのスピーカーが僕の方を向く。

「海斗! ずるいぞ! 俺がタバコを吸うと『臭い! あっち行け』と汚物扱いしていたくせに、相手が美女だと言わないのか!」

 え? いや、それを僕に言われても……

「それを言ったのは、先代の僕だろう。たぶん電脳空間サイバースペースで二百年過ごす間に、そういうイヤミな性格になったのじゃないかな? オリジナルの僕は、タバコに寛容だよ」
「寛容だと? うそつけ! 矢納は、会社の事務所でタバコを吸ったら、おまえに罵詈雑言を浴びせられたと言っていたが……」

 はあ?

 確かに、矢納課長の部下に配属された時、課長は事務所でタバコを吸っていたが……

 あの時、僕は『事務所内は禁煙ですよ』と軽く注意しただけで、決して罵詈雑言を浴びせてなどいない。

 まあ、あの人の事だから僕の言った『事務所内は禁煙ですよ』が、罵詈雑言に脳内変換された可能性は十分にあるな。

 そういえばあの後、課長が事務所を出て行ってから、女子社員達が僕のそばへ寄ってきて『よく言ってくれたわ』『みんな我慢していたのよ』とか口々に言っていた。最後におつぼね様らしき人が『これからいろいろと大変だけど、頑張ってね』と言っていたが……

 みんながそういう事を言ったという事は、矢納課長の喫煙をうっかり注意すると後でネチネチと報復されるという事だったのかな。

 実際にされたし……

 その事を言うと……

「なるほど。矢納が誇張していただけが……まあ、あいつは息をするように嘘をつく奴だからな」

 カルルは納得したようだ。

「カルル・エステスさん。戦う前にあなたに聞いて欲しいことがあります」
「なんだ? 橋本晶」
「返事はいりません。聞いてもらうだけで結構です。なぜなら、私が話しかけたいのはあなたではありません。あなたの中にいる、本物のカルル・エステスさんに話を聞いて欲しいのです」

 なに!?
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