上 下
454 / 842
第十二章

策士

しおりを挟む
「る……相模原さん」

 思わず下の名前(月菜るな)で呼びそうになってしまった。付き合っていた頃は、海斗と月菜で呼び合っていたが、別れた後はどう呼べばいいか判断に困る。
 まあ、向こうは『北村君』と呼んでいるのだから、こっちも『相模原さん』でいいだろう。

「相模原さん。港に艦隊がいなかった時点でおかしいと思わなかったの?」
「おかしいとは思っていたけど、偵察隊が装甲艦二隻を確認したと報告してきたので……それは北村君たちが乗ってきた船だったのね?」

 僕は無言で頷いた。

「私が偵察に行っていればよかったわね。それでも、様子がおかしいとは思っていたわ。そこで町役場に行けば何か情報が得られると思って行ったの。ところが役所に入った途端にあの娘に遭遇して……」

 そう言って相模原月菜はキラを指さした。

「エラが言うには帝国軍の分身魔法使いだそうだけど……だから、帝国艦隊は運河にでも入っていて、艦隊の主だった者はここにいると判断して、役場を占領する事にしたのよ。まあ、こっちの早とちりだったわけだけどね。こっちも聞きたいのだけど、帝国軍が逃げ出したのなら、なぜ彼女がここにいたの?」

 キラが僕たちの仲間になった経緯を話した。

「なるほど。キラ・ガルキナが帝国から亡命していたのを、エラは知らなかったのね」

 キラを防衛に残して来たことが、裏目になってしまったのか。ファーストエラはかなり前に軍を脱走していたので、その後キラがどうなったのか知らなかった。だから、役所の中でキラの姿を見て、帝国軍がここにいるという誤解を与えてしまったのだな。

「ねえ。結局これは同士討ちだったけど、これって偶然かしら?」

 どういう事だろう?

「どういう事です?」

 僕が思った事を、ミールが先に口にした。

「私たちも、北村君も、まんまと騙されて同士討ちをするはめになったのじゃないかしら?」

 何だって? 騙されたって、誰に?

「私たちはロータスの帝国軍を殲滅するのに、ナンモ解放戦線を過小評価させる策を打ったのよ。私たち相手に勝ち目がないと帝国軍が判断して、艦隊に逃げられたりしたら、船のない私たちは追いかけようがないからね。そのために町長をアジトに招待して統率の取れていないゴロツキ連中を見せたのよ」

 あれはワザとだったのか。

「じゃあ、ロータスとの同盟関係というのは?」
「あれは町長と会うための口実。本当の目的は、こっちの戦力を過小評価させて、ロータスにいる帝国軍を引きずり出すこと。帝国軍が出てきたら、このあたりで集めてきたゴロツキ連中をぶつけて適当に戦わせる。頃合いを見て、私たちは裏から回り込んで、エラ・アレンスキーの能力で帝国艦隊の木造船を焼き尽くして逃げ道を塞ぎ、その後は精鋭部隊を出して帝国軍を殲滅するはずだった」
「しかし、そこまで手の込んだ事をする必要があったのか?」
「相手がただの帝国軍なら必要ないわ。だけど、あの艦隊には成瀬真須美たち裏切り者がいる。あの人達をここで片づけておかないと、後々やっかいなことになるわ。だから、ここで逃げられないためにナンモ解放戦線をゴロツキの寄せ集め集団のように見せかけてロータスに向かったの」
「ところが、来てみたら帝国艦隊がどこにもいなかった?」
「そうなのよ。装甲艦が二隻いるという報告があったけど、装甲艦ではエラ・アレンスキーの能力でも沈められない」
「どの当たりで変だと気がついた?」
「ミールさんの分身体と遭遇した時。私はシーバ城でミールさんと会っているから、この人が帝国軍につくはずがないと分かっていたわ。だけど、サラが暴走するわ、エラはキラ・ガルキナを追いかけて行き連絡が取れなくなるわと、収集がつかなくなってきたのよ。ようやくの事で、地下核シェルターの入り口を見つけて、インターホンで通話したら、中にアーニャ・マレンコフさんがいるじゃない。ようやく、同士討ちをしていた事に気がついたわけ」
「なるほど。策士策に溺れるという奴だな」
「いいえ。私たちはもっと上手の策士の罠にはめられたのよ」
「どういう事だ? さっき僕たちが騙されたと言っていたけど、誰に?」
古淵こぶちよ」
「古淵……?」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...