上 下
448 / 846
第十二章

一番避けたい事態に……

しおりを挟む
「芽依ちゃん。相模原さん。お兄ちゃんを連行してきたよ」
「北村君? 北村君なの?」 

 相模原月菜が駆け寄ってきた。

 一方、芽依ちゃんの方は動かない。というより、僕同様動けないのだろう。

「や……やあ……久しぶり……」

 我ながら、ぎこちない挨拶だな……

「久しぶり? そうか、君は生データから作られたのだったわね」
「君にふられたのが高校三年の時……僕の体感時間では六年ぶりかな」

 別に攻めるつもりで『ふられた』と言ったのではないが、相模原月菜は一瞬顔をしかめた。

「やはり君は生データから作られたのね。電脳空間サイバースペースの君とは、何度もその事について話をしたのにな」

 話をしたのか? まあ、二百年も時間があったのだから……

「話をして、もう一度つきあおうという事になったのだけどな」

 え? そうなの?

「北村さん! 騙されないで下さい! 電脳空間サイバースペースで相模原さんと話をしたのは事実ですが、そんな事にはなっていません」
「ちっ」

 相模原月菜は芽依ちゃんの方を向いて舌打ちをする。という事は嘘か……

「冗談よ、冗談。電脳空間サイバースペースでは『僕は香子が好きだ。もう君とはつき合えない』とはっきりふられたわ。それで私も君の事は諦めた」
「諦めたというのも嘘です! 相模原さんは、度々誘惑しようとしていました」

 相模原月菜は顔をしかめて、芽依ちゃんの方を振り向いた。

「香取さんの腰巾着は黙っていなさい!」
「誰が腰巾着ですか!」
「腰巾着が気に入らないなら、金魚の○○○と言ってあげましょうか?」
「なんてお下品な。北村さん聞きましたか? 相模原さんは男性の前でも、平気で下品な事を言う人ですよ」
「う! 違うのよ! 北村君! 今のは弾みで言っただけ。普段の私は、こんな事は言わないわ」

 頭痛が痛い。ミールとPちゃんの喧嘩だけも大変なのに勘弁してくれ!

「おい、サガミハラ。いつまでも内輪話をしていないで説明してくれないか。私がヤベとコブチだと思って戦っていたこいつらは何者なのだ?」

 エラに説明を求められ、相模原月菜は振り向いた。

「この金のロボットスーツは、北村海斗君。私の彼氏です」
「元彼です!」

 芽依ちゃんが間髪を入れずに訂正する。

「その男とおまえの関係などどうでもいい。とにかく、そいつはヤベではないのだな。では、こっちの女は?」
「彼女は森田芽依さん。リトル東京の元市長で、現在は防衛隊最高司令官である森田 たもつ氏の娘です」
「なに!? それならそうと先に言え!」
 
 突然、エラが芽依ちゃんの前にひざまずいた。あの居丈高なエラにしては信じられない態度だな。

「申し訳ない! モリタ氏の御息女とはつゆ知らず、とんだ無礼を働いた。許してほしい」

 エラに謝られて、芽依ちゃんは狼狽えた。

「え? え? え? なんで謝るのですか?」
「申し訳ない! 申し訳ない! 申し訳ない!」
「ちょ……エラ・アレンスキーさん。そんな一方的に謝られても困るのですけど……」

 いつも一方的に謝って、僕を困らせている君がそれを言うのか。

「では、許してくれるか?」
「ええっと……事情が分からないのですけど……」
「事情なら先ほど話したが、私は帝国に復讐するためにリトル東京に行き、是非その戦力に加わりたいと希望している。しかし、手ぶらでは受け入れてもらえないと思うので、モリタ氏の娘……つまり貴女に狼藉を働いたヤベを討ち取って、その首を手土産にしようと思っていた。ところが間違えで、よりにもよって貴女を攻撃してしまった。許してほしい」

 間違えに便乗して、エラを始末しようとしていたなんて……今更言えんな。

「ああ! その事でしたら、気にしていません。ま……間違えは誰にでもある事ですから……はは……」

 桜色のロボットスーツに隠れている芽依ちゃんの表情は見えないが、きっとひきつりまくっているのだろう。

「そうか。許してくれるのか。メイ殿は心が広い」
「はい。許しますから、とにかく顔を上げて下さい」
「では、ついでに頼みたいのだが、帝国艦隊を追撃する部隊に私も加えてほしい」
「……そ……それは……」

 一番避けたい事態に……どうするか……?
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

乾坤一擲

響 恭也
SF
織田信長には片腕と頼む弟がいた。喜六郎秀隆である。事故死したはずの弟が目覚めたとき、この世にありえぬ知識も同時によみがえっていたのである。 これは兄弟二人が手を取り合って戦国の世を綱渡りのように歩いてゆく物語である。 思い付きのため不定期連載です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

処理中です...