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第十二章

賞金首

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 テントから出てきた人物は、色あせたダンガリーシャツと膝に穴のあいたスキニージーンズをまとった三十ぐらいの女。女の首には、ドクロのネックレスがかかっている。
 
 ナンモ解放戦線の首脳部って、教養あるエリートだったのでは?

 とても教養のある人に見えないな。

『アネゴ。あいつが撤退しろとか、ほざいていますが』

 見張りの兵士からアネゴと呼ばれているという事は……

 僕は町長の方を向いた。

「レイラ・ソコロフさんって……あの人ですか?」
「違うわよ!」

 悲鳴に近い声で町長は否定する。

「あの女の名はデポーラ・モロゾフ。数年前からこの周辺を荒らし回っている野盗の女リーダーよ!」

 あの風体は確かに野盗だな。という事は、ここは本陣ではなかったのか。

「まったく、よりによってあんなのまで仲間に入れるなんて……レイラ・ソコロフは何を考えているのよ」
「そんな、ヤバい人なのですか?」
「あいつの率いる野盗に殺された人の数だけで千人は越えるはずよ。あいつの首に掛けられた賞金額は……いくらだったかしら?」

 秘書らしき女性が、町長の耳元に囁く。

「金貨百枚だったわ」
「金貨百枚!」

 とたんにミールが目を輝かせて、町長の傍に駆け寄る。

「町長さん。戦闘中にあいつの首を取ってきても、その賞金もらえますか?」
「え? ええ、払えますけど……」
「カイトさん。あいつの首を取って、結婚資金にしましょう」

 いや、ミール……今はそれどころでは……

「それでは早速」
「待ちなさい! ミールさん!」

 木札を取り出したミール腕を、アーニャが押さえる。

「今は、戦闘にならないように、撤退を呼びかけているのよ」
「ええ? でも、戦闘になりそうですよ」

 ミールが指さした映像では、兵士達がドローンに向けて銃を構えていた。

 兵士達の先頭に、デポーラ・モロゾフが進み出てドローンの方を見上げる。

『やい! てめえ! リトルトーキョーだかリトルトンキンだか知らねえがな、アタイら撤退なんかしねえよ! おととい来やがれ!』

 副官らしきモヒカン頭の男が、デポーラ・モロゾフに駆け寄る。

『アネゴ! まずいすよ! リトル東京って、帝国軍でも勝てなかったのですよ』
『バーカ! ビビってるんじゃあねえよ。アタイらには、エラ・アレンスキーが着いてるんだ。リトル東京だってコワいものか』

 エラ!?

『エラならリトル東京の奴らに勝てるぜ。レイラ・ソコロフもアタイの部下にエラがいるから、仲間に入れてくれたんじゃねえか』

 エラは、あいつの盗賊団に身を寄せていたのか?

『しかし、アネゴ。エラはこの前の戦いで回復薬を使い切ったと……』
『ああ、その心配はない。昨日、レイラ・ソコロフお抱えの薬師が、新しい薬を作ってくれたから』

 カミラ・マイスキーの事か。

 それにしても、エラのような性格破綻者を仲間入れるという事は……

 僕は町長の方を向いた。

「あのデポーラ・モロゾフとかいう女、かなり残忍な性格なのでは?」
「残忍なんてものじゃないわ! あの女は悪魔よ! 生きたまま人を切り刻んで、その悲鳴を聞いて楽しんでいるような奴よ」

 エラと気が合いそうだ。

 映像を見ると、デポーラ・モロゾフは短銃を構えている。

『やい! リトル東京の! あたいの返事はこれだ!』

 デポーラ・モロゾフは短銃を撃った。

 その銃声を合図に、戦闘が始まった。
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