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第十二章

カミラ・マイスキー

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 二人の喧嘩が降着状態になったところ見計らってミールに話しかけた。

「ミール……それで、さっきエラの隣にいた女は何者なのかな?」
「そうでしたね。あの女は、カミラ・マイスキーと言って帝国の薬師です。ナーモ族ともよく取引するので、ナーモ語が分かるようです」

 薬師か。話の状況から見てそうだと思ったが……

「あたしは一年前に、帝国に潜入したことがあるのです。帝国語はその時に覚えました」

 ミールの話では、当時、南方諸国と帝国はまだ開戦していなかったが、一触即発の状態。
 そんな時に、ナーモ族の商人がレッドドラゴンの肝臓を帝国に密輸しようとしている事が発覚した。
 商人は捕えられたが、帝国が何の目的でレッドドラゴンの肝臓を手に入れようとしていたかを探るためミールは帝国に潜入したのだ。

「まあ、レッドドラゴンの肝臓なんて、魔法回復薬を作るために決まっていますけどね。帝国は薬の開発に成功したのかを探るためにあたしは潜入したのです。そして、帝国内で商人から肝臓を直接買い取っていたのが、カミラ・マイスキーという民間の薬師である事を突き止めたのです」
「民間? そのカミラ……なんたらは軍の関係者じゃないの?」

 あかん……やっぱり名前覚えられない。しかし、さっき脱走したとか言っていたよな。あの女も脱走兵と思っていたが……

「カイトさん。カミラ・マイスキーですよ。あの女は軍の委託を受けて薬を開発していたのですが、上手くいってなかったようです。入手困難なレット・ドラゴンの代用品になる物を使おうとしたのですが、尽く失敗していました」
「よく調べ上げたな」
「簡単ですよ。あの女が眠っている間に……いえ、眠らせている間に、分身を作ってすべて聞き出したのです」

 そうか。ミールはその手が使えたのか。

「ただ、あたしも潜入前に回復薬の製法を勉強していたので分かりましたが、カミラの研究はかなりいいところまで進んでいました。レッドドラゴンの肝臓が手に入ったら、確実に成功していたでしょう」
「成功しなかったの?」
「はい。あたしが成功させませんでした」
「何をやった?」
「帝国への潜入する際に、捕まえた密輸商人を一人連れてきたのです。その商人の分身を作って、レッドドラゴンの肝臓をカミラの元に届けさせたのですが、その時に荷役竜の肝臓と混ぜておきました。ただ、数日後には混ぜ物がある事に気が付いたようです」
「それで、薬は完成したの?」
「いいえ。研究が続けられないように、さらに手を打ちました」
「今度は何をやった?」
「カミラの分身に、犯罪行為をさせました。もちろん、証拠が残るように……」

 無実の罪で逮捕されたのか……なんか可哀そう。

 あ! 

「ひょっとして、脱走というのは軍隊じゃなくて、刑務所では……」
「まさか。冤罪だし、とっくに釈放……されてないかも……」
「確認しなかったの?」
「カミラが逮捕された後、あたしはすぐに帝国から脱出しましたから、その後どうなったかは……そうだ! キラが知っているかも知れないから、後で聞いてみましょう」
「しかし、いったい、どんな犯罪行為をやったの?」
「貴族の子供を誘拐して、身代金を要求した後、子供にカミラの顔を覚えさせてから解放……」
「それ……かなり罪が重いと思うけど……」
「ですよね。一ヶ月や二ヶ月じゃ出られませんね」
「日本でも誘拐は重罪だから、数年は刑務所入りだ。まして帝国、それも被害者が貴族なら死刑という事も……」
「いくらなんでも、それはないかと……」

 ミールは顔を引きつらせていた。

「とにかく、カミラの事は分かったから、打ち合わせをしよう」
「はい」

 ちなみに、《海龍》に残っていたキラに、事件がその後どうなったか聞いてみたところ、カミラ・マイスキーの冤罪は晴れることはなく、終身刑になったらしい。
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