上 下
385 / 846
第十二章

乗合竜車 2

しおりを挟む
 とにかく、話が終わったようなので翻訳ディバイスを日本語⇔ナーモ語に戻した。

「カイト」

 ん? ミールが僕の耳(本来の方)に口を寄せた。片言の日本語で話しかけてくる。

「ナーモ語……聞かれる……日本語で……」

 エラはナーモ語が分からないはず。という事は、隣の女……

「あの女を知っているのかい?」
「一年前……会っている……ナーモ語……会話した」

 翻訳ディバイスのスイッチは切った方がいいかな?

「あんたら……」

 隣に座っているナーモ族の中年女性に話しかけられた。
 
「何か?」

 やはりこういう事があるからスイッチは切れないな。

「あの帝国人の女を、刺激しちゃだめだよ」
「はあ? 別に刺激なんか」
「さっき、あいつの目の前でカップルがいちゃついていたら、突然怒り出して雷魔法を使ったのだよ」

 それで、みんな遠巻きにしているのか。

「連れの女は話が分かるみたいだが、怒らせると自分も宥められないから、刺激しないようにと言っていた。だから、二人ともあいつの前でいちゃいちゃしちゃだめだよ」 
「大丈夫です。そんな事はしません」
「ええ! したかったのに」

 ミールが不満そうに言う。

 十分の一サイズとは言え、どっちにしてもPちゃんがいては無理だろう。

 背後でエラが何か言った。

 翻訳ディバイスを日本語⇔帝国語に変更。

「いつになったら、ロータスに着くのだ?」

 連れの女が答える。

「後十五分ほどですから」
「まったく、なんで私が乗り合い竜車なんかで」
「仕方ないでしょ。馬だと、目立ちすぎます。ロータスには帝国軍がいるのですよ。だいたい、なんでドローンを落としたのですか?」
「いや……なんでって、ドローンに見つかったら拙いだろ」
「隠れてやり過ごせば良かったのです。落としたりしたら、そっちにドローンを落とせる能力のある者がいると分かってしまうでしょ。こんなところに日本人や台湾人がいるはずがない。そうなると、脱走したあなただという結論に達して、ロータスの町で馬に乗って来る者を待ちかまえているはずです」

 そうか。エラの奴、ドローンを帝国軍の追っ手が差し向けた物と思っていたのだな。

「乗り合い竜車なら、大丈夫だとでも言うのか?」
「ナーモ語を話せないあなたが、乗り合い竜車なんかに乗れるはずがないとみんな思っているはずです。私と行動をともにしていることは、誰も知らないはずですから」

 この女、何者だろう?

 まあ、いい。ミールが知っているみたいだから……

 それより、帝国軍がいると分かっているのに、なんでこいつはロータスに?

 程なくして、竜車はロータスの町中に入っていった。

 町の中心部に近づくに連れて、人通りが増えてくる。

 その光景を見ていてエラは言った。

「検問なんか、やっていないではないか?」
「ううん。敗走中なので、そんな余裕がなかったのかもしれませんね」
「まったく。だったら馬でくればよかった」
「その馬をどこにつないでおくつもりです? 私達が取引をしている間に、つないでいる馬か帝国軍に見つかったりしたら、あなたがいることがばれるのですよ」

 取引? 何を取引するというのだろう?

「取引さえ終わればこっちのものだ。帝国軍など私の実力で蹴散らしてやる」
「忘れないで下さい。ブツが手に入っても、私が加工しないと使えないのですよ」
「そうだった」

 加工? ん? ミールが僕の袖を引っ張った。

 本来の耳を、ミールの口元に寄せる。

「取引……レッドドラゴン……肝」

 レッドドラゴンの肝!? そうか!

「魔法回復薬の材料か?」

 僕の問いにミールはコクコクと頷く。

 エラの奴、脱走した時に魔法回復薬を持ち出せなかったな。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

乾坤一擲

響 恭也
SF
織田信長には片腕と頼む弟がいた。喜六郎秀隆である。事故死したはずの弟が目覚めたとき、この世にありえぬ知識も同時によみがえっていたのである。 これは兄弟二人が手を取り合って戦国の世を綱渡りのように歩いてゆく物語である。 思い付きのため不定期連載です。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...