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第十二章

クマよりも恐ろしい奴

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「こんな事もあろうかと、ロッドさんの籠に、人型ドローンを入れておいたかいがありました」

 人型ドローンだったのか? しかし……

「Pちゃん。そのドローン、わざわざ自分の顔に似せて作ったのかい?」
「いいえ。すでにお聞き及びと思いますが、私が普段使っている人型筐体は市販品を改造したもの。顔はオプションで着いていた物で、モデルは二十二世紀初頭の人気アイドル パトリシア 小内おさないです。そしてこの人型ドローンも、同じ顔がオプションとして着いています。現在、私の本体は《海龍》にいますが、衛星回線を通じてこのドローンとリンクしていますので、くれぐれも二人切りなどと錯覚しないように。いいですね。ミールさん」
「イヤなお人形さんですね」
「それより、ミールさん。ご主人様の尻尾の動きを見て発情したように見えましたが、ナーモ族にそんな習性ありましたか?」
「別にそんな習性はありません。あたしは尻尾萌えなのです」

 尻尾萌え?

「ただでさえ好きなカイトさんに、尻尾なんかついたらますます好きになって当然でしょう」

 僕の猫耳萌えと同じか……

「ミール。それは分かったけど、僕の尻尾は作り物なんだ。怪しまれないかな?」
「カイトさん、それは大丈夫です。ナーモ族の中には、事故や戦争で尻尾を失う人は少なくないのです。それで義尻尾を着けている人も多いのですよ。中には本来の尻尾を服の中に隠して、オシャレ尻尾を付ける人も」
「そうだったのか。じゃあ誰かに聞かれたら、義尻尾と言っておけばいいんだね」
「そうですけど、カイトさん。尻尾について聞かれる事はないと思います」
「なんで?」
「尻尾が作り物だと分かっても、あえて質問するのはマナーに反しますので」

 そういうものなのか?

「まあ、マナーを知らないお子様だったら、指をさして『ママ。あの人の尻尾変だよ』ぐらいの事は言いますが、すぐに保護者が『シイッ! 指差すんじゃありません』と注意してくれます。何も心配はありません」

 とにかく、尻尾が怪しまれる事はないという事だな。

 僕はエシャー達の方を振り向いた。

「それじゃあエシャー。撤収するときはここで落ち合うことにして、君達は近くの森に隠れていてくれ。ミールが笛を吹いたら、ここに迎えに来てほしい。もし、二日経っても呼び出しがなかったら群れに戻ってくれ」
「分カッタワ。カイト」

 エシャー達は飛び立って行った。
 
 さてと……

 改めて、岩山の周囲を見回した。
 西の方は見渡す限り雑草と灌木だらけの荒地。
 その中を、一本の街道が西から東に向かって通っている。
 東に目を向けると、その街道の先に町が見えた。
 あれが港街ロータスなのだろう。
 双眼鏡で見ると、二階建てから四階建てぐらいの木造建築が立ち並んでいる。
 町はずれまでここから一キロほど……

「じゃあ、ミール。Pちゃん。早速岩山を降りて町へ向かおう」
「待ってください。カイトさん。あれを」

 ん? ミールの指差す先に双眼鏡を向けると、一台の大きな竜車が街道を東に向かっていた。

「あの竜車がなにか?」
「あれ、乗り合い竜車ですよ。お金を出せば乗せてもらえます」

 バスみたいなものか。それはありがたい。

 早速僕達は岩山を降りて、街道に向かった。
 街道に出たところで、Pちゃんにはミールの腕にしがみ付いてもらう。
 人型ドローンなんか見られたら、地球人とばれてしまうのでPちゃんには人形のふりをしてもらう事にしたのだ。

 程なくして、二頭の使役竜に引かれた車がやってくる。

 ミールが手を振ると、竜車は僕達の前に止まった。

 中は座席があるのかと思っていたが、覗いてみると床に直接座るらしい。
 それはいいが、すでにかなりの人が乗り込んでいる。
 満員じゃないかな?

「あたし達、二人ですけど乗れますか?」

 ミールの質問に御者は引きつった笑みを浮かべて答えた。

「後ろの方は空いているから、後の乗り口から乗ってくれないかな」
「分かりました」

 料金を払って僕らは車の後に向かった。
 車体の横を歩きながら、ふと思う。

 なんでこんなに混んでいるのに、後ろの方は空いているんだろう?
 昔見たアニメで、混雑しているバスの後の方がなぜか空いているので、主人公が人ごみをかき分けて後ろに行ったら、そこにクマの母子がいたなんてシーンがあったけど、まさか、一番後ろの席にクマでもいるんじゃないだろうな?
 いやいや、そもそもこの惑星にクマなんかいないし……

 だが、車の一番後ろでは、クマよりも恐ろしい奴が胡坐をかいて座っていた。
 
 エラ・アレンスキー!? なぜここに……
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