上 下
353 / 846
第十一章

足は飾りじゃない(天竜過去編)

しおりを挟む
 東に向かって飛行していくうちに、やがてそれは見えてきた。
 砂嵐と言うより、光の壁だ。
 静電気によって舞い上がった塵に、太陽光が当たって輝いているのだ。
 しかし、電脳空間サイバースペースにいるときに、ライブラリーで月噴水ムーンファウンテンの立体映像を見たけど、それよりも規模が大きいな。
 ここは月と言っても、地球の月より少し重力が弱い。
 そのせいかもしれない。
 
 僕らは光の壁の前で一度着地した。

「綺麗!」

 チョウ 麗華リーホワが感嘆の声をあげたが、確かに思わず見とれてしまう美しさだ。
 しかし、これが原因で月面車が事故に遭ったという話も聞いたことがあるぞ。

「アーニャ。この宇宙機って、あれの中に入っても大丈夫なの?」
「大丈夫よ、白龍パイロン君。この機体は、静電気対策も粉塵対策も完璧だから」

 それなら、大丈夫か。

 月面に測定器を降ろしてから、僕達は砂嵐の中に突入した。
 砂嵐の中に入って分かったけど、ここではレーダーがほとんど効かない。
 隣にいるアーニャと趙 麗華の機体も見えないくらい視界も遮られている。
 ぶつからない様に気を付けないと……。

 程なくして、僕達は砂嵐を抜けた。

「レーザー攪乱膜に使えるかはともかく、身を隠すには使えそうね」

 アーニャは振り向きながらそう言うと、レーザーを砂嵐に向かって撃った。
 砂嵐の向こうに置いてきた測定器から送られてきデータによれば、レーザーの威力は十分の一以下に落ちている。

「これなら、レーザー攪乱膜としても十分に使えるわね」
「でも、アーニャ。こっちから攻撃する時はどうするの?」
「大丈夫よ、白龍君。カタログデータによるとレーザー地雷の出力は私達の百分の一の五百キロワット。さらに十分の一にまで削られたら、私達のホイップルバンパーは貫けない。でも、私達のレーザーの出力は五十メガワット。十分の一程度削られても、レーザー地雷を破壊するぐらいの威力は残るわ。その前に、敵は私達が砂嵐に隠れて近づいていることに気がつかないわね」
「なるほど」
「怖いのは敵が後に回り込んできた場合だけど、今のところ二人が上手く牽制しているみたいだし」
 
 後は、この砂嵐と一緒に移動して縦穴まで行くだけだな。
 僕達は砂嵐の動きに合わせ、西へ向かってゆっくりと移動していった。

 こういう時、宇宙機に足かキャタピラーでもあればな。

 少しだけ飛行して、砂嵐の前に着地。砂嵐が離れるのを待って、また飛行するという事の繰り返しは結構だるい。

 宇宙機に足は飾りじゃないよ。
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

乾坤一擲

響 恭也
SF
織田信長には片腕と頼む弟がいた。喜六郎秀隆である。事故死したはずの弟が目覚めたとき、この世にありえぬ知識も同時によみがえっていたのである。 これは兄弟二人が手を取り合って戦国の世を綱渡りのように歩いてゆく物語である。 思い付きのため不定期連載です。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...