上 下
334 / 842
第十一章

撹乱幕を突破せよ(天竜過去編)

しおりを挟む
 レーザーは確かに命中した……はずだった。しかし……

「効いてない」「そんな……」

 ん? 変だ。こっちのレーザーが届くなら向こうのレーザーも届くはず。それなのに敵はレーザーを撃ってこない。

チャン君! 私の後に戻って!」
「え?」

 言われた通り、僕はマー 美玲メイリン機の後に戻った。

「レーザー攪乱膜よ。ここから撃っても通じないわ。敵は私達が来る前に、レーザー攪乱膜を張っていたのよ」

 馬 美玲の言う通り、レーダーには、僕達と敵の間に雲のような影が横たわっている様子が映っていた。これが、レーザー攪乱膜?

 だから、向こうはレーザーを撃ってこないのか。

「いったい、どうすれば……」
「奴を仕留めるには、レーザー攪乱膜の内側に入らなきゃならない。でも、その前に奴らは電磁砲レールキャノンを撃ってくる。並んで行ったら、二人ともやられてしまうわ。だから、最初の予定通り私が盾になって章君を守る。章君は何としても攪乱膜の内側に入って、奴を仕留めて」
「分かった」

 僕達は金属箔の漂う宙域に入った。

「これが、レーザー攪乱膜?」
「そうよ。敵はこの辺りの宙域に、金属箔を撒いたのね……しまった!」
「どうしたの?」

 馬 美玲機がエアバックを展開した。敵が電磁砲レールキャノンを撃ってきたのか?

「章君。絶対に私の後から出ないで。出たら、あなたもやられてしまう」
「え?」

 そうか! 薄い金属箔と言っても、真空中では破壊力のあるデブリだ。
 この相対速度ではホイップルバンパーももたない。

「章君。聞いて。私の機体は、デブリでかなりダメージを受けた。もうすぐコントロール不能になる」
「なんだって?」
「章君は加速を止めて慣性航行に入って。もうこれ以上速度を上げる必要はないわ」

 僕はメインエンジンを停止させた。

「私の機体からは、爆発の危険がある燃料と推進剤はすべて投棄したわ。今は自力では動けないただの盾よ。章君は私の機体を盾にして、攪乱膜を突破して」
「分かった」
「奴を必ず仕留めてね。《天竜》で会いましょう」

 馬 美玲のアバターが消えた。

 とうとう僕一人だけ。

 今は物言わぬ球体となってしまった馬 美玲の機体が切り開いてくれる空隙を僕は進んでいた。この空隙から少しでも外れたら、僕の機体は破壊される。
 いつまで、この状態が続くのだろう?
 レーダーの画面は真っ白。攪乱膜の影響で、レーダーも効かないようだ。
 今、電磁砲レールキャノンを撃ってこられても、僕には分からない。
 突然、先行している球体が大きく揺れた。
 電磁砲レールキャノンを受け止めたのだろうか?

白龍パイロン君」

 唐突にヤンさんの声が聞こえた。

「楊さん。どこ?」
「今はアバターを出せないけど、声だけで我慢してね」
「はい」
「状況を伝えるわ。先ほど《天竜》から連絡が入ったの。敵の前衛部隊を殲滅したわ。《天竜》は無事よ」
「よかった」
「後は私達よ。もうすぐ、予備機による包囲も完成するわ」
「それじゃあ、僕はもうそっちへ戻っても……」
「いいえ」
「え?」
「白龍君には一機でもいいから、レーザー機を潰してほしいの。嫌な予感がするのよ」
「分かりました」

 攪乱膜を突破したのはその時だった。
 スラスターを噴射して馬 美玲機の陰から出ると、敵のレーザー機が丸見えだった。
 照準を合わせる。
 トリガーを引いた。
 シリンダー状のレーザー機は白熱していく。
 やがて爆発した。
 次の瞬間、僕の機体に敵のレーザーが雨のように降り注ぐ。
 僕は機体とのリンクを切って、《朱雀》に意識を戻した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

処理中です...