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第十章
帰還
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「カイトさん。これは?」
ミールがドローンに、怪訝な視線を向ける。
「成瀬真須美の人型ドローンだよ。《マカロフ》から回収して来たんだ」
人型ドローンは立ち上がって、周囲を見回した。
「ここは、北村君達の乗ってきた潜水艦の上ね。何も、このドローンまで回収しなくてもよかったのだけどな」
「カルカシェルターに着く前に、成瀬さんと話しておきたい事があったので回収しました」
「話しておきたいこと? 北村君。私に愛の告白でも、してくれるのかしら?」
「ぶっ! 冗談はやめて下さい!」
う! 周囲から痛い視線を感じる。
「ち……違うぞ! 絶対に、そんなつもりで持ってきたんじゃない!」
周囲を見回すと、ミールとミク、芽依ちゃんから冷たい視線を浴びせられていた。
「僕が話したいのは、共闘を今後どうするかという事です。矢納さんはまだ二人、エラは四人残っているけど……」
「そうね。共闘は一度ここで解消しましょう。残りの粛正対象は、帝都にいるので君には手の出しようがないわ」
「そうですか。それと、エラナンバー6は倒す前に、あなたが僕にエラの秘密を話した事を知ってしまったようだ。その事は、残りの三人にもシンクロニシティで伝わっているはず。今後、残りのエラには近づかない方がいい」
「あら、私のことを心配してくれるのね。嬉しいわ」
だがら、そういう誤解を招く言い方は……
う! 僕を見るミールの目が険しくなっている。
「カイトさん。ちょっと、その人と話を変わってもらえますか」
「あ……ああ、どうぞ」
ミールがドローンの前に屈み込んだ。
「あら? ミールちゃん。私に何か用かしら?」
「誤解をしないでいただきたいのですけど、カイトさんがあなたの危機を知らせたのは、共闘関係にあったからです。あくまでも打算です。恋愛ではありませんから」
「あら、分かっているわよ。でもね、私はこれから彼を洗脳する予定だから、その後ではどうなるかは……」
「洗脳で好きになってもらうなんて、一番の外道じゃないですか!」
そこへミクが割り込む。
「そうだよ。お兄ちゃんを洗脳なんて、絶対させないんだからね」
「あら? ミクちゃんも北村君の事好きなの? いいのかしら? このままだと、ミールちゃんに取られちゃうけど」
「いいもんねえ。どうせ、これからコピー機で、お兄ちゃんを増やすんだから。香子姉の分と、あたしの分と、芽依ちゃんのと。でも、あんたの分は作ってあげない」
「ミクちゃん。コピー機をそんな事に使うのは禁忌なのだけど」
「でも、作っちゃうもんね」
「ミク、ちょっと話を変わってくれ」
僕はミクを押しのけてドローンの前に出た。
「コピー機で僕を作る件は置いといて。共闘が終わったら、仲良く喧嘩するという話だったけど、どうします? 仲良く喧嘩しますか?」
「できるわけないでしょ。こっちは撤退中なのだから」
「撤退? では、戦力はあれで全部?」
「そう。私は水門に残っていた小型装甲艦の中にいるけど、もうカルカシェルターを落とすだけの戦力はないと思うわね。残っていたとしても、最高司令官のバイルシュタインが戦死した以上、これ以上戦えないわ。まったく惜しい男を亡くしたわ」
「惜しいの? 味方殺しと言われているような奴なのに?」
「惜しいわよ。戦場では味方殺しと恐れられていたけど、平時では優しい人だったわ。帝国内では奴隷解放を支持していたし」
「奴隷解放? 帝国内でそんな意見もあるの?」
「あるわよ。もっとも、バイルシュタインは優しさから言っていただけでなく、奴隷労働に依存していては、いずれ帝国は滅びる。帝国人も働くべきだと言っていたの」
帝国にも、そんな事言う人いたんだ。
「エラと矢納を始末できたのはよかったわ。まあ、私にとってあの戦いの理想の結末は、バイルシュタインの艦隊が、カルカシェルターを攻撃して、その戦いの最中で、君がエラと矢納と戦って、私が後ろからさりげなく君が勝つようにサポートして、上手くエラと矢納を始末したら、カルカシェルターを制圧して、君を洗脳してめでたしめでたしのはずだったのだけど……」
めでたくない!
「まさか、潜水艦で奇襲をかけてくるとは思わなかったわ。無茶な戦いをするわね」
「《マカロフ》のレーザーを掻い潜るには、あれしかなかったので……」
「君の方こそ、どうするの? 私たちに追撃をかける気?」
どうしようか? 芽衣ちゃんの方を見た。
「芽衣ちゃん。ロボットスーツのエネルギー残量は?」
「二十パーセントです」
僕もそのぐらいだ。《水龍》も魚雷を撃ち尽くしたし、ミクもしばらく回復しそうにない。
そもそも、帝国軍の残存戦力がどのくらいか分からないままの追撃は危険だ。
「僕らには、追撃する余裕はない。ただし、カルカ防衛隊がドローンで追撃を仕掛けるかもしれないけど……」
「そう。それじゃあ、とりあえず私たちはこれでお別れね。私が、カルカ軍の追撃を凌げたら、また会いましょう。それまで、そのドローンは取っておいて」
人型ドローンは、ただの動かない人形に戻る。
視線を前方に向けると、カルカの廃墟がすぐ目の前まで迫っていた。
不意に司令塔のハッチが開き、中からレイホーが顔を出す。
「みんな! そろそろ潜航するから中に入るね」
女の子たちを先に艦内に入らせて、最後に僕がハッチを潜ろうとしたとき、頭上で轟音が鳴り響く。
見上げると、五機のジェットドローンが飛び去って行くところだった。
どうやら、残存部隊に追撃をかけるようだが……
できれば生き延びてくれ。成瀬真須美……
ミールがドローンに、怪訝な視線を向ける。
「成瀬真須美の人型ドローンだよ。《マカロフ》から回収して来たんだ」
人型ドローンは立ち上がって、周囲を見回した。
「ここは、北村君達の乗ってきた潜水艦の上ね。何も、このドローンまで回収しなくてもよかったのだけどな」
「カルカシェルターに着く前に、成瀬さんと話しておきたい事があったので回収しました」
「話しておきたいこと? 北村君。私に愛の告白でも、してくれるのかしら?」
「ぶっ! 冗談はやめて下さい!」
う! 周囲から痛い視線を感じる。
「ち……違うぞ! 絶対に、そんなつもりで持ってきたんじゃない!」
周囲を見回すと、ミールとミク、芽依ちゃんから冷たい視線を浴びせられていた。
「僕が話したいのは、共闘を今後どうするかという事です。矢納さんはまだ二人、エラは四人残っているけど……」
「そうね。共闘は一度ここで解消しましょう。残りの粛正対象は、帝都にいるので君には手の出しようがないわ」
「そうですか。それと、エラナンバー6は倒す前に、あなたが僕にエラの秘密を話した事を知ってしまったようだ。その事は、残りの三人にもシンクロニシティで伝わっているはず。今後、残りのエラには近づかない方がいい」
「あら、私のことを心配してくれるのね。嬉しいわ」
だがら、そういう誤解を招く言い方は……
う! 僕を見るミールの目が険しくなっている。
「カイトさん。ちょっと、その人と話を変わってもらえますか」
「あ……ああ、どうぞ」
ミールがドローンの前に屈み込んだ。
「あら? ミールちゃん。私に何か用かしら?」
「誤解をしないでいただきたいのですけど、カイトさんがあなたの危機を知らせたのは、共闘関係にあったからです。あくまでも打算です。恋愛ではありませんから」
「あら、分かっているわよ。でもね、私はこれから彼を洗脳する予定だから、その後ではどうなるかは……」
「洗脳で好きになってもらうなんて、一番の外道じゃないですか!」
そこへミクが割り込む。
「そうだよ。お兄ちゃんを洗脳なんて、絶対させないんだからね」
「あら? ミクちゃんも北村君の事好きなの? いいのかしら? このままだと、ミールちゃんに取られちゃうけど」
「いいもんねえ。どうせ、これからコピー機で、お兄ちゃんを増やすんだから。香子姉の分と、あたしの分と、芽依ちゃんのと。でも、あんたの分は作ってあげない」
「ミクちゃん。コピー機をそんな事に使うのは禁忌なのだけど」
「でも、作っちゃうもんね」
「ミク、ちょっと話を変わってくれ」
僕はミクを押しのけてドローンの前に出た。
「コピー機で僕を作る件は置いといて。共闘が終わったら、仲良く喧嘩するという話だったけど、どうします? 仲良く喧嘩しますか?」
「できるわけないでしょ。こっちは撤退中なのだから」
「撤退? では、戦力はあれで全部?」
「そう。私は水門に残っていた小型装甲艦の中にいるけど、もうカルカシェルターを落とすだけの戦力はないと思うわね。残っていたとしても、最高司令官のバイルシュタインが戦死した以上、これ以上戦えないわ。まったく惜しい男を亡くしたわ」
「惜しいの? 味方殺しと言われているような奴なのに?」
「惜しいわよ。戦場では味方殺しと恐れられていたけど、平時では優しい人だったわ。帝国内では奴隷解放を支持していたし」
「奴隷解放? 帝国内でそんな意見もあるの?」
「あるわよ。もっとも、バイルシュタインは優しさから言っていただけでなく、奴隷労働に依存していては、いずれ帝国は滅びる。帝国人も働くべきだと言っていたの」
帝国にも、そんな事言う人いたんだ。
「エラと矢納を始末できたのはよかったわ。まあ、私にとってあの戦いの理想の結末は、バイルシュタインの艦隊が、カルカシェルターを攻撃して、その戦いの最中で、君がエラと矢納と戦って、私が後ろからさりげなく君が勝つようにサポートして、上手くエラと矢納を始末したら、カルカシェルターを制圧して、君を洗脳してめでたしめでたしのはずだったのだけど……」
めでたくない!
「まさか、潜水艦で奇襲をかけてくるとは思わなかったわ。無茶な戦いをするわね」
「《マカロフ》のレーザーを掻い潜るには、あれしかなかったので……」
「君の方こそ、どうするの? 私たちに追撃をかける気?」
どうしようか? 芽衣ちゃんの方を見た。
「芽衣ちゃん。ロボットスーツのエネルギー残量は?」
「二十パーセントです」
僕もそのぐらいだ。《水龍》も魚雷を撃ち尽くしたし、ミクもしばらく回復しそうにない。
そもそも、帝国軍の残存戦力がどのくらいか分からないままの追撃は危険だ。
「僕らには、追撃する余裕はない。ただし、カルカ防衛隊がドローンで追撃を仕掛けるかもしれないけど……」
「そう。それじゃあ、とりあえず私たちはこれでお別れね。私が、カルカ軍の追撃を凌げたら、また会いましょう。それまで、そのドローンは取っておいて」
人型ドローンは、ただの動かない人形に戻る。
視線を前方に向けると、カルカの廃墟がすぐ目の前まで迫っていた。
不意に司令塔のハッチが開き、中からレイホーが顔を出す。
「みんな! そろそろ潜航するから中に入るね」
女の子たちを先に艦内に入らせて、最後に僕がハッチを潜ろうとしたとき、頭上で轟音が鳴り響く。
見上げると、五機のジェットドローンが飛び去って行くところだった。
どうやら、残存部隊に追撃をかけるようだが……
できれば生き延びてくれ。成瀬真須美……
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