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第九章

すごく強い味方が、こっちへ向っているのです(過去編)

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 未来ミクが目を覚ましたのは、それから間もなくだった。

「あれ? ここは……」

 食事の用意をしていた芽衣は、その声を聞いてベッドに駆け寄る。

「未来ちゃん!」

 芽衣は、未来を抱きしめる。

「え? 芽衣ちゃん? なんで? 芽衣ちゃんがいるという事は……ここはカルカシェルター?」
「そうよ」
「よかった。あたし、カルカシェルターに着いたんだね」
「そうよ」
 
 未来を抱きしめ、芽衣は涙を流していた。

「芽衣ちゃん。あたし達、香子姉と芽衣ちゃんを探しに、ここまで……」
「北村さんも一緒なの?」
「うん。一緒だよ」

 それから、未来は今まで経緯を芽衣に語った。所々つっかえながら……
 語り終えたところで、未来は眩暈を覚える。

「あ……あれ? あたし……どうしたんだろう?」
「魔力切れの後は、凄くお腹が空くそうよ。ご飯の用意をしておいたから」

 芽衣はテーブルを指差した。

「わあ! 凄い御馳走!」

 炒飯、回鍋肉、焼売、水餃子、小籠包、杏仁豆腐等々中華料理の数々がテーブルに並んでいた。
 途端に未来は、テーブルに飛びつき猛然と食べ始める。

「未来ちゃん。食べ終わったら、インターホンで呼び出して下さいね。私は、司令部に行っていますから」

 芽衣は部屋を出ると、香子の病室へ寄った。
 しかし、香子は眠っていたので、芽衣は書置きを残して司令部に向かう。

「なんですって!? 北村さんがこっちへ向っている?」

 芽衣の報告を聞いて、沈んでいた楊 美雨の瞳に希望が戻ってきた。

「はい。私の作ったアンドロイドも一緒です。それと、未来ちゃんの話では、ナーモ族の魔法使いが同行しているそうです」
「魔法使い?」
「それと、北村さんはプリンターを持参しています」
「プリンターですって?」
「ええ」
「それさえあれば、形勢を逆転できるわ」

 だが、ことはそう簡単には進まなかった。
 運河口からの侵入を諦めた帝国軍は、再びドームを包囲したのだ。
 しかも、帝国軍の布陣は、ドームを攻撃するというより、ドームに近づいてくる何者か妨害するためのように見えた。
 どうやら、帝国軍も北村海斗の接近に気が付き、ドーム入りを阻止しようしているらしい。
 それに気が付いた楊 美雨は、切込み隊をドームから出撃させて、帝国軍に威嚇攻撃を仕掛けた。敵の注意を、ドームにも引きつけるためである。

「えい!」

 涼やかに掛け声と同時に芽衣の投げた手榴弾は、放物線を描いてバリケード内に居座っていた帝国軍兵士の中に落ちた。
 そのまま、五人の兵士が吹っ飛ぶ。

 ドーム入り口前に桜色のロボットスーツがいる事に気が付いた帝国兵たちは、一斉に撃ち返すが、ロボットスーツには通じない。
 銃撃が治まったところへ、ドーム内から十人ほどの兵士が出てきてライフル銃の一斉射撃を帝国兵に浴びせた。

「ロケット砲はどうした!?」
「ここには無い」
「アレンスキー大尉は?」
「今、こっちへ向っている」

 混乱している兵国兵達のど真ん中に、迫撃砲が撃ちこまれた。
 そして、爆炎が治まった時には、カルカ側の兵士の姿はなく、ドームの入り口はぴたりと閉じていた。
 
 こんな攻撃が数回続き、帝国軍はバリケード内から退去したのだった。
 
「脱着」

 ロボットスーツを装置に戻すと、『修理中』の表示が現れる。
 だが、治そうにも部品が足りない。
 今ある部品だけで、できるとこまで修理するように設定したところ、完了まで三時間と表示された。

(なんとか、後、一回は出撃できそうね)
 
「メイ」

 背後から声をかけられて振り向くと、身なりのよいナーモ族の少年が立っていた。

「王子様。一人でこんなところに……」

 芽衣たちと一緒に、城から脱出した王子。カルカの町に着いてからは、町の有力者の屋敷に身を寄せていたのだが、カルカシェルターに帝国軍が迫っている事を聞きつけて、母と共に町のナーモ族を引きつれて駆けつけたのだ。
 もちろん、幼い王子に戦闘指揮など取れるわけはない。
 ナーモ族の兵士をまとめる旗頭として担ぎ上げられたのだ。

「メイ。ここは、落ちるの?」
「それは……」

 少年の真っ直ぐな瞳に見つめられ、芽衣は怯んだ。
 この子に嘘はつけない。

「シーバ城の時も、大人はみんな、城は大丈夫だと言ってた。でも、城は落ちた。今度は、どうなの? このシェルターも、落ちるの?」
「正直に申しましょう。ここは、落ちる寸前でした」
「やはり……」
「でも、ご安心下さい。今、すごく強い味方が、こっちへ向っているのです」
「本当か?」
「はい」
「そうか。味方が来るんだね? 本当だね?」
「ええ」
「メイ。頼みがある」
「何でしょう?」
「僕に、銃の使い方を教えて」
「え? 王子様。まさか、戦場に出る気じゃないでしょうね?」
「ち……違うよ」

 王子は目を逸らした。
 戦場に出る気だ。

「いいでしょう」
「本当か?」
「ただし、王妃様のお許しを頂いてからです」
「え! なんで?」

 王子は狼狽えた。

「王妃様の許可なくそんな事を教えたら、私が怒られてしまいます」
「いや……母上は許してくれると思う……たぶん……」
「では、許可をもらってきて下さいね。それまでは、銃の使い方は教えられません」
「うう……メイは意地悪だ!」
「どうしてですか?」
「母上が、許してくれないと知っていて、そんな事言っているのだろう」
「そんな事はありませんよ。王妃様だって、誠意をこめて説得すれば許してくれるかもしれませんよ」
「そうかな?」
「はい」
「では、メイも一緒に母上を説得してくれ」
「そ……それは……」

 困った、と思った時にスピーカーから呼び出し音が……

『森田芽衣様。司令部へ出頭して下さい』

 助かったという思いを隠しながら、芽衣は王子の方に向き直る。

「王子様、申し訳ありませんが、呼び出されてしまいました」
「メイ! 一緒に説得してよ」

 王子の声を背に浴びながら芽衣は司令部に向かっていった。 
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