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第六章 逃走

ボイスレコーダー

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「……マーフィの追跡をかわすため、あたし達はチャフをばら撒きながら発進した。途中行く手を阻むキラー衛星を蹴散らしながら、一路第五惑星を目指したのである」
 あたしは、ボイスレコーダーを止めた。
 ワームホールを出発して二日目の事だ。
 録音内容をチェックしていると、仮眠室にサーシャが入ってくる。
「美陽。随分と年代物のボイスレコーダー使っているわね」
「新しいボイスレコーダーが壊れちゃってね。お婆ちゃんからお守り代わりに持たされた奴を試しに使ってみたの。まさか、六十年前の機械がまともに動くとは思わなかったわ」
「ていうか、なんで、そんな古い物を持っていたの?」
「話せば長くなるけど聞きたい?」
「第五惑星に到着するまで時間は腐るほどありますわ。長い話は大歓迎よ」
「こんな話知ってる? 月の溶岩洞窟の中に異星人の作ったワームホールがあったって?」
「知ってるわ。有名なトンでも話だし」
「そんなトンでも話がどうして出てきたか知ってる?」
「たしか……月の溶岩洞窟で行方不明になった隊員がいて……数年後にその隊員が残したボイスレコーダーだけが見つかって、その中に『ワームホールを見た』という証言があったとか……でも、その後いくら探してもワームホールは見つからなかった。そもそも、行方不明になった隊員だって本当にいたのか分からないし。どうせ作り話でしょ」
「作り話じゃないよ」
「なぜ、そう自信を持って言えますの?」
「だって、行方不明になった隊員て、あたしの曾お爺ちゃんだから」
「うそ!? という事は、そのボイスレコーダーって……」
「溶岩洞窟で見つかった奴よ」
「なんですって! なんでそんな骨董品を待ち歩いてるの?」
「だからね。宇宙に出るとき、お婆ちゃんに持たされたのよ。お守りにもってけ」
 でも、本当の理由は違う事をあたしは知っていた。
 このボイスレコーダーが見つかったのは溶岩洞窟の中。
 しかし、曾お爺ちゃんの遺体はどこにもなかったという。
 だからお婆ちゃんは思ったのだ。
 曾お爺ちゃんはもしかすると、異星人のワームホールを抜けて宇宙のどこかへ行ってしまったのではないかと……
 もし、宇宙のどこかで曾お爺ちゃんが生きていて、あたしがばったり出会う事があったら、ごのボイスレコーダーを見せれば自分が身内だと証明できる。そう思って持たせたかったらしい。
 でも、はっきりそれを言っちゃうと、あたしが持っていかないのじゃないかと思って『お守りに持って行け』と言ったのだ。
 実際、お父さんに持たせようとしたら『宇宙人のワームホールなんてどうせ爺ちゃんが酸欠状態で見た幻覚で、遺体なんてどうせ瓦礫の下に埋もれているんだ』って言って持って行ってくれなかったらしい。
 と、この前お母さんに会った時にボイスレコーダーを見せたら、その時のことを話してくれた。
「そういえば」
 あたしが話し終わったとき、サーシャは何かを思い出したかのように言った。
「そのボイスレコーダーが見つかった事件があったと同じ頃、教授が月基地にいたかもしれないわ」
「本当?」
「エキゾチック物質収集のために頻繁に月に行ってた頃だから」
 後で聞いてみるか。 第五惑星に着くまでどうせ暇だし。
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