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都市伝説の真相

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 翌日、英子は別の監視員と巡回に回っていた。今回組んだ人は、秋葉原で十年以上監視員をしているベテランの石黒さん。

 早速、英子は呪いの車について聞いてみた。

「え? それは嘘だよ」
「嘘なのですか?」
「現に俺もあの車に貼ったが、今でもピンピンしている」
「じゃあ、なぜ?」
「監視員の間で、あの車を見つけてもスルーするという暗黙の了解があるのは事実だ。だが、その理由について説明するときに、誰かが適当な事を言って、それが『呪いの車』の噂として広まったのだろう」
「なあんだ」

 都市伝説とはたいていそんなものである。

「実は俺が貼った時にな、予備写真として車内の写真を撮ったんだ。そしたら、中に人が乗っていたんだよ」
「ええ!? 車内は先に確認したのですよね?」
「もちろんしたさ。デジカメを押し当て人がいないのを確認して、ノックを何度もした。まったく反応ないし誰も乗っていないと思って標章を印刷して貼ったんだ。ところが、貼った後に後部座席をデジカメで見ると人が乗っていたのだよ。さっきまでは確かに誰も乗っていなかったのに……とにかく、人が乗っていた以上放置駐車違反にはならない。と言っても、一度貼った標章は剥がせない。仕方ないから、警察に電話して相談したら、そのナンバーの車は今後見つけてもスルーしろと言われたんだ」
「じゃあ、警察も以前からその車を知っていたのですか?」
「ああ。監視員制度ができる前から警官が何度もその車に遭遇している。確認作業を始めた時は、確かに車内に人がいなかったのに、作業が終わる頃にはいつの間にか中に人がいるんだ。まるでワーブでもしてきたみたいに……おや?」

 石黒は一台の放置駐車を指さした。それは、先日英子が見た黒塗りの高級車。ナンバーも一致した。

「石黒さん。スルーしますか?」
「いや。普段ならスルーするが、今回は君の練習もかねて着手しよう」
「いいのですか? 後で問題になりませんか?」
「大丈夫だ。この車は着手しても無駄だからスルーしているだけで、着手して問題になるような車ではない」

 石黒は車に近づき窓を軽くノックした。

「運転手さん。いますか?」

 車内からまったく反応がなかった。

 さらに石黒はデジカメをスモークガラスに押し当てて車内の様子を見た。

 車内に人がいないことを確認すると、石黒は車の写真を二枚撮って英子の持っているPDAにデータを送った。石黒がチェックリストを書き終わるのを待って、英子はPDA作業を開始する。

「乗用、普通乗用、ガイシャ、メルセデスベンツ、塗色黒」

 英子が必要なデータをそこまで入力した時……

「作業中止」
「どうしました?」

 石黒はデジカメを窓ガラスに押し当てていた。

「人が乗っているよ。さっき見た時はいなかったのに。見るかい?」

 石黒の差し出したカメラを見ようとしたとき……

「その車、私のですが」

 涼やかな声の方を振り向くと、喪服に身を包んだ二十代半ばの女が立っていた。

「運転手さんお帰りです。中止します」

 石黒はデジカメを夜行チョッキにしまった。
 英子は女に向かって……

「駐車場に止めて下さい」

 と一言告げる。

「わかりました。駐車場というところに止めればいいのですね。次からはそうします」

 女がそう言って車に乗り込んで去った後、英子はデジカメの映像を見てハッと息を飲んだ。車内にいたのは、弟の章だったのだ。

 英子が章の急死を知ったのは、巡回から戻ってからの事。臨終時刻はまさに、英子が確認作業をしていた時間であった。



 死神の車が路上駐車をする事はなくなったが、各地の駐車場に無断駐車をして駐車場会社を悩ませるようになったのは、それから後の事である。

  了
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