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第一章

珠美 2

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 そこにいたのは、背丈が、あたしと同じくらいの髪の長い女の子。セーラー服を着ているから、学生だと思うけど、変わっているのはその顔。
 いや、別に特に美形とか、不細工とかいうわけじゃない。そもそも、素顔が見えないのだ。白い奇妙な仮面をかぶっているから、口元以外は見えない。石だか、プラスチックだか材質の分からない白い仮面は、彼女の顔の大半をおおいかくしていた。わずかに、両目のところに開いた穴から見える可愛らしい目と、仮面の下から覗いている口元だけが見える。
 
 なんのつもりでかぶっているのか、知らないけど、怪しすぎる。
 しかし、あたしの姿が見えるという事は、彼女は、ただの変人ではないという事だ。

「あたしの姿が見えるの?」

 あたしはたずねた。

「ええ、見えるわよ。おかしい?」
「おかしいって、一応あたし、これでも幽霊なんだけど……普通の人には見えないんだけど……あなた、ひょっとして、霊能者?」
「いいえ、違うわ」

 彼女はあっさりと否定した。

「じゃあ、どうしてあたしが見えるの?」
「だって、わたしも浮遊霊だもの」

 浮遊霊!?

 なるほど、確かに周囲の人達には、彼女の姿が見えていないらしい。
 だいたい、こんな怪しげな仮面をかぶっている女の子が町中に立っていたら、目立ってしょうがないはず。なのに、誰も彼女に気が付いていない。
 そうか、浮遊霊なんだ? 

 ん? 浮遊霊? という事は……

「あの……あなた、ひょっとしてオバケ?」
「あんたねえ、自分を棚に上げて、よくそんな事言えるわね」
「あ……ご……ごめんなさい」

 いかん、マヌケな事を聞いてしまった。
 気を悪くしたかな? 彼女。 
 しかし、仮面のために表情が分からない。

「まあ、いいけど」

 ホッ、それほど怒ってはいないみたい。

「わたしはミイ。よろしくね。見たところ、あなた新参者のようね。名前は?」
「あたし、辻村珠美。さっき気が付いたら幽霊になっていて……」
「気が付いたら? あなた、自分がなんで死んだのか、知らないの?」
「うん。マヌケな話だけど、タクシーの中で居眠りしているうちに、気が付いたら幽霊になっていたの」
「ふうん、でもそういうひとって、けっこう多いわよ。あなたみたいに、自分が幽霊になった事を自覚するならまだまし。自分が死んだ事に気が付かないで、何年も、酷いのなら何百年も、彷徨っているひともいるわ」
「へぇ」
「まあ、わたしもひとの事言えないけど。自分が死んでいる事なんか、分かっているくせに、いつまでも未練たらしく、現世を彷徨っているんだから」
「ねえ、ミイ。あなたのフルネームは?」
「え?」

 あれ? あたし、なんか変な事聞いたかな? 彼女、首をかしげているけど。

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