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第一章

夢人 3

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 ううん、困ったものだ。
 畳の上に横になっている自分の身体を、幽体離脱した僕が上から眺めていると、心配した他の柔道部員や近くで活動していた他のクラブの部員までが寄ってきていた。

「水原、大丈夫か?」
「おい! 救急車呼べ」
 
 久保田さんとしては、周りに気づかれない様にこっそりやったつもりだったようだが、目撃者が意外と多かったせいか、大騒ぎになってしまった。

「あれ? 水原さん、また落とされたのですか?」

 声の方を見ると一匹のウサギがいた。
 
 このウサギ、ただのウサギではない。
 超研の小学生部員、神楽かぐら まいが操る赤目あかめという式神だ。
 ちなみにうちの学校は幼稚園から高校まで一貫校。
 一部のクラブでは、小中高の部員が所属している。
 それはともかく、僕は赤目に話しかけた。

「赤目。こんなところで何をしている?」
「なんか体育館が騒ぎになっているから、様子を見てこいと舞様から言われました」
「そうか。見ての通りだが、今夜の野外UFO観察会までには戻っていると、舞ちゃんに伝えといて」
「呑気ですね。下手すると、このまま生き返れかもしれないのに」

 自分でも呑気だと思うのだけど、一度幽体離脱してしまうと『そんな事どうでもいいや』という気持ちになってしまうんだな。

 そんな事をしているうちに、僕はいつのまにか暗闇の中にいた。

 臨死体験をする時、最初は暗いトンネルの中を通るという。


 芥川龍之介の『杜子春』では、このトンネルを暗穴道あんけつどうと呼んでいた。

 たいていの人の場合、このトンネルを抜けるとお花畑になるのだが、僕の場合は少し変わっている。

 これまで四回臨死体験をしたけど、僕の場合はトンネルを抜けるとお花畑でなくて雪景色になるんだ。

 いや、冗談じゃなくて本当に……

 ちなみに、僕は川端康成なんて読んだことはない。
 でも、いつもトンネルを抜けると雪国になってしまう。

 霊界の姿は見ている人の思いが具現化すると、久保田さんが言っていた。
 という事は、僕は雪景色に憧れでもあるのだろうか?

 しかし、どうせなら僕好みの可愛い女の子が具現化すればいいのに……
 
「ねえ! そこにいるのは誰!」

 突然、背後から声をかけられた。

 女の子の声のようだ。
 
 声の方を向くと、暗闇の中を光の玉が猛スピードでこっちへ向ってくる。

 な……なんだ? こんな事今までなかったぞ。

 人魂か? いや、光の玉の中に人がいる。
 暗穴道の中で、他の霊に出会うなんて聞いた事ないぞ。

 顔がはっきり見えるほど近づいてきた。

 女の子だ! しかも可愛い。

 ショートカットの髪に、広瀬すずを思わせる美少女。
 近所の公立高校の制服を着ている。
 
 まさか……僕好みの女の子が具現化したのか?
 だとすると、彼女は人間じゃないのか? 式神のような存在?
 それなら、会話をしてみれば分かる。
 舞ちゃんが使役している赤目は長い年月を経て様々な陰陽師に使役され続けていたので普通の会話ができるが、生まれたばかりの式神はまともな会話ができない。
 と、舞ちゃんに聞いたのだが……

「や……やあ、こんにちわ。君……誰?」

 もし、彼女が僕の願望が具現化した式神なら、僕にとって都合のいい、普通の女の子なら絶対に言わないようなありえない答えをするはず……『あなたが好き』『付き合って下さい』とか。いや僕だって決してもてないわけじゃないから、クラスメートからコクられるという事ならあるかもしれないが……なかったけど……初対面の女の子からそれは絶対にないはず……さて、彼女はなんと答えるか?
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