僕の彼女は幽霊少女

津嶋朋靖(つしまともやす)

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第一章

夢人 2

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「ねえ知ってる? 水原君」

 久保田さんが僕にそう話しかけてきたのは、体育館に敷いた畳の上で受け身の練習をしている時……
 ちなみ、水原は僕の名前。フルネームは水原みずはら 夢人ゆうとだ。

「なんですか? 久保田さん」

 彼女が『ねえ知ってる?』と言うときは、たいていろくな事がない。

 どうせろくでもない実験に協力させようと言うのだろう。

 段ボールで作ったピラミッドの帽子を、人前で被らせらてピラミッドパワーの研究をするならまだいい。

 いや、良くないけど……

 人前であんなものを被らせられ、めっちゃ恥ずかしかったし……

 だが、彼女がここでやろうとしている事はそんな可愛い実験ではない。

 またあれをやる気だな……

「あのねえ、さっき先生に聞いたのだけど、昔絞め技で落とされたとき、三途の川の向こうまで行ったというのよ」

 絞め技とは、相手の首を絞めて失神させる技の事。絞め技で失神することを『落ちる』というが、この時蘇生処置を取らないで放置すると、そのまま死ぬ危険がある。つまり『落ちる』とは仮死状態になることだ。
 仮死状態になるのだから、その間に臨死体験をすることが多い。
 
 うちの高校の柔道教師が、落とされた時の臨死体験を部活中に延々と語ったことがある。

 ほとんどの部員は退屈していたが、オカルト大好き人間の久保田さんは分厚いメガネの奥にあるどんぐり眼を爛々と輝かせて聞いていた。

 それ以来、僕はことあるごとに彼女に絞め技をかけられて落とされるようになった。

 なぜ、僕を標的にするのか不明だが、そんなに臨死体験に興味があるなら自分で落ちればいいのに……

 そんな彼女がこんな話題を振ってきたという事は何を考えているのか明らかだ。

「今まで臨死体験の引換し限界点って、三途の川だと思っていたけど、まだ先があったのよね」
「輪廻の輪でも、あったのですか?」

 受け答えしながら、僕は彼女との距離と少しでもとろうしていた。

「違う違う。先生は楼門が見えたと言っていたわ」
「楼門て、あの二階建ての?」
「そうそう。お寺とかにある奴。そしてその門を通り過ぎたら、もう引き返せないと、なぜか先生は分かってしまったって」
「でも、霊界の様子って、見る人によって変わるのですよ」
「知ってる。だから、水原君が逝ったら、何が見えるかな? と思ったのだけど」
「逝きませんよ」
「やはりアニメヲタクだから、輪廻の輪が見えるのかな?」
「だから、逝きませんよ」
「というわけで逝ってきて」
「いやです」

 逃げようとしたが、たちまち袈裟固めで抑え込まれてしまった。
 相手は女とは言え、有段者。こっちはまだ受け身の練習をしている白帯。
 勝ち目はない。

「逝ってきてくれたら、今度上四方固めで押さえてあげる」
「いりません」
 
 彼女は袈裟固めをいったん解くと、僕が逃げる隙も与えずに片羽絞をかけた。

「いいから、いっぺん死んで来なさい」
「いっぺんじゃなくて、これで五回目!」

 そんなしょうもない理由で僕は落とされた。
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