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村発展編

44話 王都出兵

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 あの宴会から二週間が経ち、王都への出兵が決行される日となった。
 すでに王都は我々の軍勢が四方を囲んでいる。
 敵はろくな抵抗もせずに王都に引きこもっているのだ。なのでほとんど戦いもなくこの状態に持っていけた。
 後は王都を攻めて占領すればすべて終わりだ。城塞都市なだけあって正攻法では少々時間はかかりそうではあるが。
 だがこのまま攻めるのはよくない。こちらに理性があって正しいと思わせる必要がある。
 そのために私とアリアにリタ、そしてアダムだけで王都の正門の前へと歩いてきた。
 ようは最後通告である。ここで降伏すれば王の首で許すと言って、慈悲深いように思わせるのだ。
 あの無能な王が納得するわけがないので、ただのパフォーマンスにしかならないが。
 私は拡声器を手元に転送して、門に向かって呼びかける。

「我々はこの後、王都を攻める! だが悪魔に魂を売った王を引き渡すならば、中止して交渉のテーブルにつく用意がある!」

 王都中に響くように最大音量で拡声したが、正門に反応などはない。
 予想通りだ。これでこちらは慈悲を与えたが、相手が無視した構図が作れた。
 しばらく待った後、さっさと攻め滅ぼすのみである。

「どうせ降伏などしてこないだろうな。アリア、この巨大な壁に囲まれた城塞都市をどう攻めるつもりだ?」
「どこかの壁を魔法で破壊する。いくら強固だろうといつか壊せる」
「なるほど。別に急ぐ必要はないからな」

 目の前にそびえたつ壁を見る。レンガ造りなので燃えたりはしないが、魔法を受けてもビクともしないほどではない。
 それなりに強い魔法を撃ち続ければいずれは壊れる。
 さらに敵は四方を我々に囲まれているので満足に補給できない。
 どうしても壁を壊せないならば兵糧攻めに切り替えも可能だ。

「ちなみに私ならばヴィントの一撃で粉砕する」
「スグル基準で物ごと話さないでよ……それに今回は悪魔以外は手を貸さないんでしょ?」

 リタが私に含みを持った視線を向ける。
 彼女の言う通り、この戦いで私はあまり手を貸さないつもりだ。
 強化版木偶の棒ズ――もう木偶の棒かは怪しいが――やケチャップズは与えるがそれくらいだ。
 この戦いをもって彼女たちを私から離れさせる。悪魔についてだけは厳しそうなので別だが。
 
「私がこれ以上出しゃばっても仕方ない。それに木偶の棒ズもかなり強化されているはずだ」
「ああうん……狂うと書いて狂化な気はするけどね……」

 リタが何かを思い出しているようで遠い目をしている。
 彼女は木偶の棒の指揮官として、新機能などを徹底的に叩き込んだ。
 ぜひとも使いこなして欲しい。うまくやればスペック上は悪魔にも対抗できるはず。
 
「悪魔が何とかなるなら王都は簡単に占領できると思う。敵軍に士気があるとは思えない」
「そうだねぇ……悪魔に魂を売った王だもんね」

 アリアが的確な意見を述べる。
 国軍の兵士たちも王が悪魔と組んでいることは知っている。
 その時点でどんなに正義だと述べても嘘くさくなる。自分たちの正しさが損なわれている上、劣勢な軍の士気など考えるまでもない。
 クーデターが起こる可能性も考えていたのだが……どうやら現状は起きていないようだ。
 仮に起きていたとしても悪魔に護衛された王を殺すのは難しいが。
 
「アダムは思う、王都の民衆は悲惨であると」
「……そうだな。無能な王のせいで住んでいる場所が戦場になる」

 何となく呟いたであろうアダムに、無難な返事しつつも内心はかなり驚いていた。
 ……アダムが人を悲惨と言ったことが信じがたい。
 彼女は人間の心が読めないアンドロイドだ。命令なども応用が一切聞かない。
 例えばアリアを見ていてくれと言えば、彼女が誘拐されても見ているだけだろう。
 そんなアダムが民衆を悲惨と表現するとは……以前にアリアが連れ去られた時に私に通信を寄越したこともあった。
 どうやら彼女も自己進化しているのだろう。

「兵士たちに住民には被害を加えないように厳命する。後は少しでも早く王を捕らえる」
「それがいいだろうな。いくら上が命令しても暴走する兵士は出る」

 統率された兵士でも住民に乱暴を振るう者は現れる。
 ましてやこんな義勇軍では暴走する兵士がいないわけがない。
 何なら指揮の頭である貴族でも滅茶苦茶する者が出そうだ。
 戦場が王都という狭い場所で幸いだった。この狭い戦場ならばある程度は目を届かせることができる。
 もし国全体で散らばって戦っていたら悲惨なことになっていたな。
 
「ケチャップズに指示をしておけ。暴虐を振るう者は容赦するなと」
「そのつもり。後は貴族たちに改めて自制ある行動を命じる……気休めだけど」

 アリアが少し眉をひそめながら呟く。
 彼女にとっては王都の住民が被害にあうのは嫌なのだろう。だが戦争なのだから誰も傷つかないのは無理だ。
 彼女を慰めようとすると王都の中から轟音が響く。
 音源の方に目を向けると何と正門が開きだしているのが見えた。
 開いた門には馬に騎乗した将軍とおぼしき者が、随伴した数人の兵士と共にいた。

「我ら王都護衛団は救国の乙女たちに降伏する!」

 騎乗した男が大きな声で叫ぶ。なんとあの無意味な最後通告が有効だったのか。
 信じられん。あの王が降伏を許すなどとは思えないが。
 というよりつまらん。ここまで来たならば戦うべきだろうが。
 罠の可能性もあるが、アリアは彼らの前へと歩いていく。
 それを見て将軍らしき人物は馬から降りて頭を下げた。

「私はこの軍の筆頭である。王都は私たちに完全降伏するのですか?」
「……いえ、降伏するのは王都の周辺を守っている者たち。私が率いる軍です。王城にいる近衛騎士団や王は戦うでしょう」 
「なるほど。貴様の独断で自分の率いる軍は降伏すると」
「その通りです。虫のいい話ではあることは承知しています。ですが悪魔に魂を売った王にもはや仕えることはできない」

 将軍は頭を下げたまま真摯にアリアに願う。
 心音や精神波を見てもこいつは嘘をついていない。あの王は実際無能以下の存在だ、ついていけない者も当然出てくるだろう。
 私としてはこいつらの扱いはどうでもいいのでアリアに一任する。
 彼女はしばらく考え込んだ後。

「わかりました。では王都の門を全て開き、貴方達の軍は捕縛させていただきます」
「……寛大な処置に感謝いたします」

 アリアの命令に将軍は礼を述べた。
 信用ならない者は使わないという判断は間違っていない。
 まぁ彼女の率いる義勇軍自体に信用出来る者などほぼいないのだが。
 それでもこの土壇場で裏切る者をすぐに登用するのはな。

「王の居場所や、近衛騎士団の戦力など分かる情報は全て開示してもらいます。有益な物ならば貴方達の今後の処遇も変わります。ケチャップズの人、お願いします」

 アリアの声に応じてどこからともなく黒装束の者が現れる。
 そいつは将軍を連れてここから離れていった。周りの目のない場所で事情聴取みたいなことを行うのだろう。
 正直な話、あまり大した情報は得られないと思っている。
 まぁ敵の兵力が減ったのはいい話だ。

「後は王城に突入して王を捕らえるだけか。随分と楽な作業だな」
「……悪魔が三十って、伝説通りなら国がいくつも滅ぶんだけどなぁ。一体でも魔法使いが束になっても叶わないのに」
「伝説は盛られるものだからな。しかし城を攻めるだけならば義勇軍を使う必要はないのでは?」
「うん。出来れば私たちの手持ち戦力だけで終わらせたい」

 アリアの言葉に頷く。そこらの有象無象に手柄を与えると面倒だ。
 それに彼女の軍だけで王を倒せば箔もつく。
 これも全ては王が無能すぎるおかげだ。諸外国に牽制するために、国境に大量の軍を常に置く必要がある。
 そのため内部のクーデターにまともな戦力を割けない。
 もしまともな国ならば血みどろの内戦になっていただろう。
 
「全軍待機。まずは私の軍だけで王城を偵察する」

 アリアが伝令に指示を通達させて、私たちは正門から王都へと入っていった。  
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