上 下
197 / 220
イレイザー最終決戦編

第185話 永眠ではなく休眠だった

しおりを挟む

「アトラス様。イレイザーの調査報告書でございます」

 執務室で作業をしていると、セバスチャンが一枚の書類を渡してきた。

 一枚しかない時点で大した成果は期待できないと思いながら、その書類に書かれた内容を確認する。

 紙に記載されていたのは要約すると以下の内容だった。

 1.イレイザーを封印した岩を壊せば、その時点で奴は蘇る。ただし蘇る場所に関しては、岩を壊した場所とは限らない。

 2.イレイザーにやはり魔法の効果は薄い。具体的には魔法で発生させた氷なども、イレイザーに触れた時点で消え去る。重さによる衝撃なども無効と思われる。

 上記の結果は岩に対して実際に魔法を当てたりで試して、ほぼ確実に本体も同じ属性を持つだろうと記載されている。

 なお紙の右下にはセサルの直つけ唇のマークが……これは見なかったことにしよう。

 思ったよりも有益な情報は得たものの……やはりイレイザーが封印された岩の調査では限界があるな。

 もしやつの右腕とかが手に入ったら、セサルなら必ずもっと色々な情報が手にいれてくれるだろうに。

「……うーん。イレイザーの身体の一部でも転がってないものか……」
『心当たりがあるよ』

 俺の脳裏に久々にミーレの声が響き渡る。

 マジで? そんな物騒なものが転がってるの? 

 ミーレに心当たりがあるならば話を聞いてみようと、久々に【異世界ショップ】へと入店する。

「いらっしゃい。久しぶりー」

 いつものようにミーレがカウンターに立っている。

 そういえば最近のこいつはイメチェンしないな。以前はわりと姿を変えてた気がするんだが。

「私の姿は君の想像によるからね。そのうち髪がやや緑色になって胸が大きくなるかもね」
「なんで?」
「ご想像にお任せします」

 よく分からんが放置でよいか。それよりもイレイザーの件だ。

「イレイザーの身体の一部について、心当たりがあるのは本当か?」
「うん。正確には私が心当たりがあるんじゃなくて、心当たりのある人を知っているんだけどね」
「なんだ? 先祖伝来でイレイザーの伝承を言い伝えてる一族でもいるのか?」

 イレイザーはかなり昔に封印された存在であり、実物を見て生き残った者はいない……のだろうか?

 よく考えたらこの世界ってエルフとかいるし、物凄く長寿の人種なら生きてたり……。

「以前にスズキさんって名乗ってた筐体あるでしょ?」
「ああ、あの大して役に立たずに永眠したやつか」

 スズキさん――以前にレード山林地帯で発見した人工知能……どちらかというと人エロ知能な気はするが置いていく。

 彼は麻雀牌の筐体に偽装して、イレイザーの情報を少しだけ俺に教えてくれた。

 実際のところは魔法が効かないのと、ジャイランドがイレイザーの対抗策だったこと程度の情報だったが……今となっては微妙な情報だな。

 せめてイレイザーの封印された岩の場所くらいは教えておいて欲しかった。

 それとパイを見せやがれという記憶しかない。

「あの人なんだけど……まだ生きてるよ?」
「え?」
「いや死んだ雰囲気出してるけど。普通に充電……この場合は魔法をチャージして再起動すればまた目覚めるよ。考えてもみてよ、何で壊れてなくて電源もついたのに、一時間程度動いて永眠するのさ。壊されてかろうじて動いてたならともかく」

 ……言われてみればそうだな。

 なんか映画とかでよく、最後の力を振り絞って動き壊れる機械とか見てたから……死んだんだなぁと違和感抱かなかった。

 そういえばスズキさんに会った時にはセサルもいなかった。

 もしあいつがその場にいたら直せるとわかったのかもしれない。

「じゃああれか? セサルに頼めば直せるのか?」
「すぐ直せると思うよ。あの人凄いよね、人間とは思えないほど頭がよいし」

 ミーレからのお墨付きも得たので、スズキさんをセサルに直してもらおう。

 何度でも言うがあいつの腕と頭は信用している。性格以外は文句のつけようがないからなあいつ。

 その性格に関しても変人ってだけで悪人じゃないし。

「わかった。ならスズキさんの筐体を回収して、フォルン領に持ってこさせるか」
「それがいいんじゃないかな。打倒イレイザーで一緒に頑張ろう!」

 ミーレが拳を握って掲げた。

 元々、俺が転生したのはイレイザーを何とかして欲しいからと言ってたな。

 でもそれならもっと俺に協力すべきだと思う。

「なあ。一緒に頑張るならイレイザーのことをもっと教えてくれよ。俺達が知ってる以外のことも、色々とご存じなんだろ?」
「……ごめんね。それはできないんだ」

 申し訳なさそうな顔で笑うミーレ。

 ……うーむ。彼女がそう言ってるならば、何らかの理由で本当にできないのだろう。

 大方あまりこの世界に手だしできない、とかそんな話かな。

 そもそもミーレが何とかできるならば、俺を転生させずに彼女自身で解決できるはずだ。

「それは残念。じゃあその代わりに【異世界ショップ】バーゲンとか開いてくれない?」
「無理! それにそんなことしたら、安売り時以外でもったいなくて買えなくならない?」
「うっ……否定できない」

 確かにミーレの言う通りだ。

 【異世界ショップ】でバーゲンされたら、安売り時以外では買いたくなくなるだろう。

 その結果として何か緊急事態が発生しても、商品を買い渋って動きが遅れる可能性も出てくる。

 わりと俺ってケチだもんな……容易に想像つく。

「わかったら諦めて? じゃあスズキさんを蘇らせてイレイザーの情報を聞くこと! それが終わったらまたここに来てよ」
「ああ、そうするよ。じゃあな」

 俺はミーレに別れを告げて、【異世界ショップ】から退店するのだった。





-------------------------------------




 アトラスが去った後、独り残ったミーレはカウンターにひじをついた。

「……イレイザーを倒すこと、それが君の命題だ。必須事項と言ってもいい」

 ミーレはアトラスの姿を幻視しながら、更に呟きを続ける。

「でもアレは埒外の怪物だ。君が今まで相手してきた者とは文字通り次元が違う。手段を選ばなければ案外簡単に倒す方法はいくつかある……でも逆に手段を選ぶなら、今までのようにやろうとするなら……極めて困難な道だよ。君はラスペラスの女王を強敵と見てたけど、あんなのとは比較にならない」

 彼女が独りでボヤく中、【異世界ショップ】に新たな入店者が来訪した。

「ミーレ様、お久しぶりでございます。呼ばれましたのでやってきましたぞ」

 セバスチャンが恭しく頭を下げる。

 彼はアトラス以外で唯一、【異世界ショップ】へ独力での入店を許された人物。

 そんなセバスチャンに対して、ミーレは少し申し訳なさそうに笑いかけた。

「ごめんなさい、アトラス。でも私は……あなたがうまくいかない時のことも考えないとダメだから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...