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ラスペラスとの決戦編

第163話 代表戦に向けて

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 俺はフォルン領の野外兵士訓練場を訪れて、兵士たちの訓練を見守っていた。

 大勢の兵士たちが鋭く剣を振るっている。

 ……昔はまともに剣を握った者もいなかったのに、本当に大きくなったものだなぁ。

「センダイ。フォルン領の兵士たちは、どれくらいの強さだ?」

 俺は防衛隊長であるセンダイに現在の兵士の強さを確認する。

 センダイは酒瓶を一気飲みした後。

「今や千騎当千二百の猛者でござる」
「なんとも微妙過ぎる数字だなぁ……誤差じゃね?」
「いや五人で六人を相手取れると考えれば、結構大きいでござるよ」

 マクロ的に見るとそうなのかもしれんが……軍勢で見た時は、1.2倍分でしかないんだよなぁ。

「アトラス殿。それと拙者、酒が欲しいでござる」
「じゃあこれやるよ。チョコ酒」
「は?」

 俺は【異世界ショップ】からチョコ飲料を購入して、センダイに手渡した。

 奴は瓶を様々な角度から見て、フタを開いて匂いを嗅いだ後。

「アトラス殿。拙者、普通の酒のがよいでござる」
「まあチョコっと飲んでみろよ」
「真にくだらなすぎて反応に困るでござる」
「うるさい酒に流せ。さっさと飲め」

 ブツブツ言いながらも一気飲みを始めるセンダイ。

 だが少し飲んだ後に瓶から口を離して、俺をすごい形相でにらみつけてくる。

「アトラス殿……これ酒じゃないでござるな……」
「はっはっは、軽い冗談だ。冗談だから居合の構えをやめてください」

 センダイの恐ろしい殺気のせいで、背筋が冷や汗でだくだくだ。

 ……ここまで強い殺意を受けたことないぞ。あのセバスチャンですら、ここまでの気を発してはいない。

 急いで【異世界ショップ】からチョコ酒を購入し、センダイへと献上する。

「ほれ。今度は正真正銘のチョコ酒だ」
「うむ、かたじけない。今度嘘だったらアトラス殿が酒のつまみになるので、そこんとこよろしくでござる」
「天地神明に誓って酒だから安心しろ! 剣を引き抜いて構えるな!」

 センダイは改めてチョコ酒を飲み始める。

 ……しかしチョコ酒なんて考えたやつ、なかなかすごい発想してると思う。

 チョコにウイスキーいれるとかはあったけど、酒自体チョコはなかなか。

「ところでアトラス殿。訓練場に何用でござるか?」
「おっとそうだった。うちの兵士って魔法使いはいないのか?」
「二人ほど確保しているでござる。安心を、酒飲みでござる」
「いや何を安心してよいのか分からない」

 センダイは気分よさそうにチョコ酒を飲みながら答えてくる。

 ……結構変わった酒なのに普通に飲むんだな。

 こいつはかなりの酒のみだから、甘い酒はダメだと思っていたのだが。

 そんなことを考えていると、センダイがチョコ酒を飲み干したようで。

「アトラス殿、チョコ酒は悪くはないがチョコっとでよいでござるな」
「人のネタをつまみ食いするな。それで魔法使いの強さってどれくらいだ? ラスペラス軍との戦いの時は、魔法使いが多ければ多いほどいい。魔法攻撃を防ぐ手段が欲しい」
「二人とも防壁の魔法使いより少し弱いくらいでござるな」

 壁にもならなさそうだなおい……元々、彼らにアタッカーとしては期待していない。

 だが敵の攻撃を少しは防いでほしいんだよな。

 いかん、ため息をついてしまった。センダイに今後の作戦を教えておくことにしよう。

「センダイ、今回の戦闘ではボウガンを使う」

 俺の一言でセンダイの表情が一変した。

 酔っ払いから軍人の顔へと変貌し、俺をにらみつけてくる。

「よいのでござるか? 秘密兵器ではなかったでござるか?」
「秘密のままで終わらせるつもりはない。あれなら、弱い魔法使いよりも強い遠距離攻撃ができるだろ」
「然り。だがあの武器は容易に模倣できる。見せれば盗られる、そう思ったほうがよいでござる」

 センダイの言うことは正しい。

 だからこそ今までボウガンを使わないようにしていた。

 だが今回の戦いは絶対に負けられないのだ。秘密のまま終わる秘密兵器に価値はない。

 それにラスペラス国のうわきつ女王も転生者だ。あいつならボウガンのこともいずれ考えつく……かなぁ? いやどうだろ……頭がお花畑っぽいから思いつかないかも……。

 あいつのことだ。「ボウガンなんて野蛮な武器ですのぉ。そんなことよりパンケーキよぉ! 化粧品よぉ! お肌の敵を撲滅よぉ!」とか言ってるかも。

「分かっていてその上で使う。実際のとこ、ラスペラス軍と戦って勝ち目はどれくらいと予想する?」
「明言は控えさせていただきたい。双方の魔法使いの戦力差が、拙者やアトラス殿にはよくわからぬゆえ」
「あー……まあそうだよな。うわきつ女王がヤバイ! とか言われても、俺らには魔力なんてわからないもんなぁ」

 うわきつ女王チート! とか散々言ってるが、それはカーマたちからの情報だ。

 俺自身は魔力なんぞ感じられないから、彼女らの言葉を信じて計算しているに過ぎない。

 俺の言葉にセンダイはうなずくと。

「アトラス殿、やはり魔法使いではなかったでござるな」

 はて? いきなり何故……はっ、そういえばセンダイも俺と一緒で魔法使いの戦力差が分からないと……。

「…………あっ!? センダイ、舌妙な誘導尋問しやがったな!?」
「はっはっは。若干アトラス殿の自爆感もあったでござるが」

 自分の失言に気づいて頭を手で押さえる。

 しまった……俺が魔法使いではないのは秘密だったのに……。

 そんな俺の秘密を暴いたセンダイは、したり顔でこちらに詰め寄ってくると。

「アトラス殿。後は分かっているでござるな? 酒があれば、口は閉じると言うでござる」
「…………どれくらい欲しい?」

 センダイはこれでも利口な頭をしている。

 俺が偽物魔法使いであることを、言いふらすことはしないだろう。

 だがそれはそれとして、絶対に賄賂で酒要求してくるに決まっている!

 だから今まで黙ってたのに! ほら見ろあの顔! もう嬉々として目の前の俺じゃなくて、手に入る酒を見ているぞ!

「最高級酒を五十瓶ほどで手を打つでござる」
「いや多すぎるだろ!? 高いんだぞあれ!?」
「大丈夫でござる。それだけ酒を飲めば、拙者の記憶もあっぱらぱーになって忘れるでござるよ」
「いや黙るための賄賂じゃなくて、忘れるための酒かよ!?」

 センダイは俺の言葉に返事してくれない。

 あ、これ交渉してもダメなやつだ。だってもう目がすわってるし……絶対折れないやつ。

 俺は降参だと両手をあげてため息をつく。
 
「わかったわかった。これから毎日一本、酒瓶を出してやるから」
「いや五十本よこせでござる! 今日で飲み干すゆえ!」
「お前少しは節制しろ! 身体の中に流れてるの血液か? 不凍液じゃねぇの!?」

 センダイは俺の言葉に笑った後、再度酒瓶を口にする。

「しかし、俺が秘密を黙っていたことには何も言わないんだな」
「うむ。知っている者は少ない方がよい情報でござるから。それにアトラス殿は魔法を使えないだけで、それより奇天烈珍妙な力を使うでござる」
「人を芸人みたいに言うのやめない?」
「はっはっは。まあ結局のところ、アトラス殿の持つ力自体に嘘はない。ならそれが魔法かそうでないかなど、拙者にとってはどうでもよき。そんなことより今日飲む酒をせびるでござる」
「自分で買え」

 ……やれやれ。結局セサルの時もだが、身内には【異世界ショップ】の力は感づかれてるんだな。

 もうエフィルンにもちゃんと話して、その上でラスペラス軍との戦略も練ろう。

 ムダな秘密なんて持つだけ損だ。
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