上 下
159 / 220
ラスペラスとの決戦編

第153話 ドラゴン便正式運用

しおりを挟む
 ノートレス領に攻めてきたパピプペポ……違うラスペラス軍を迎撃した後。

 超面倒な事後処理を王家に全て押し付けて、俺はフォルン領へと戻って来ていた。

 急いで戻って来たのには理由があって、ドラゴン便を正式運用開始するための準備を行うためだ。

 ドラゴン便は王家からもかなりせっつかれていて、かなりしつこいのだ。

 ノートレス領での迎撃完了後、玉座の間でこんなやりとりがあったくらいだからな。

「あ、事後処理全て王家でよろしくお願いします」
「はにゅっ!?」
「ドラゴン便の準備が必要なんですよねー。この事後処理のせいで更に遅れちゃうなー」
「ぐぬぬ!」

 なお王の言葉は誰得のため、多少の萌えフィルターをかけています。

 そんなこんなで事後処理は全て王家に押し付けて、ドラゴン便の準備を行うフリを行うことにする。
 
 実際のところ、準備なんてほとんど不要なのだ。

 すでに駅とかドラゴンの宿舎は建築を終えていて、後はドラゴンに航路と時間を指定して頼むだけだし。

 最初のうちは余裕を持ったタイムスケジュールでとか、そんなことは当然考慮済みなので特に懸念もない。

 なので仕事している名目を出すため。俺はフォルン領のドラゴン小屋に来て、ドラゴニウムと話をすることにした。

 ちなみに小屋と呼称しているが基本的には壁も檻もない。

 広い場所でノビノビと勝手に寝てくれとの設計思想である。

 ……下手に何か器具とか用意したら、その器具に不備あったら金を要求されるし。

「ドラゴニウム。ドラゴン便を開始するのに関して、特に問題点はないな?」
「給料アップを要求する」

 特に問題ないとのことだ。

 金ドラたちの給料上げろ、金くれは挨拶だからガン無視で。

「懸念があるとすれば雨降っていたら嫌なくらいだな。身体が冷えて風邪ひくのはかなわん」
「ドラゴンのくせに貧弱過ぎる……」

 俺はドラゴニウムの傷だらけの身体を見る。

 何度でも言うがこの傷はだいたいが夫婦喧嘩でついたものである。

 俺さ、こいつらを見てるとマジででかいトカゲにしか思えない……

 嵐の中でも問題なく飛べるくらい豪語して欲しい……。

「分かっていると思うが、変に急がなくていいぞ。多少遅れても特に問題ないから事故だけ起こすな」
「安心しろ。絶対に急がずに安全運転だ。何かあったら我らの給料が差っ引かれるのだ。命に代えても安心安全だ」

 ドラゴニウムは鼻息を荒く叫んだ。

 金ドラにとって金は命より高いらしい。これほど説得力のある言葉もそうはない。

 安全運転については大丈夫そうだな。

「後はそうだな……クズ客には気を付けてくれ」
「むう? 基本的に我らが運ぶのは金持ちだろう? ならば教育を受けていて礼儀正しい者が多いのでは?」

 ドラゴニウムは首をかしげる。

 確かにこいつの意見はもっともだろう。本来ならば料金が高級ならば、客層もそれに合わせた礼儀正しい者になる。

 だがそれは普通の国の話である。

「ここはクズの名産地。例え金持ちだろうが何だろうが一定数ヤバイのがいる。たぶんお前らを直接雇おうとしたり、自分の家まで送れとか言ってくるだろう」
「雇用交渉は禁止。決められた駅に着陸する規約のはずだが」
「いいことを教えておいてやる。クズに人間の常識が通用すると思うな! 奴らは人語を話すゴブリンだと思え!」
「難儀な……お主ら同族だろう?」
「は? お前は喋るトカゲと同族にされて嬉しいか?」

 俺の言葉にドラゴニウムは若干引いている。

 だが仕方がない。これがレスタンブルク国の真実なのである。

 心配事は多々あれどこれ以上はどうしようもない。そして三日後、ドラゴン便が正式に開始される日になった。

 まずは王都からフォルン領への往復コースを一日一便。

 それ以降は実際の評判などを聞きつつ、どこの領地にどれだけの頻度で便を出すか考える。

 基本的にフォルン領と友好な領地は便を出す。敵対領地は上空素通りでドラゴンのフンでもお見舞いしてやる。

 このドラゴン便が通っているかどうかは、今後のレスタンブルク内の権力ゲームに大きな影響を及ぼすだろう。

 この便ならば馬車では腐ってしまう魚介類なども運べるだろう。それに情報のやり取りも馬車とは比べ物にならない。

 もはや車と徒歩くらい違うからな。

 そして今は王都の広場でドラゴン便のセレモニーが行われている。

「アトラス伯爵と王家のたゆまぬ努力によって、無事にドラゴン便を運用することに成功した!」

 王が民衆の前で大きく宣言する。

 ……王家のたゆまぬ努力って、ノートレス領の事後処理やっただけでは?

 まーた手柄の横取りとまでは言わないが、誇大報告をするのか……。

 以前のジャイランド討伐の時も、防壁の魔法使いを派遣しただけで協力したって言ったし……。

 そんなこんなで王のスピーチは終了して、ドラゴンたちが空中を華麗に飛行する。

 民衆たちはその姿を見て感動のあまり震えている。

「す、すげぇ……ドラゴンを手なずけるなんて、アトラス伯爵はものすげぇなぁ」
「ドラゴンって言えば最強の魔物だぞ。いったいどうやって言うことを聞かせてるんだ……」
「俺ら凡人には想像するだけ無駄だ。きっと物凄い契約をしてるんだ、魔法で使役とかさ!」

 死ぬほど大金払って使ってるだけです。

 サーカスの劇団を呼ぶのとノリは変わらないなんて言えない……。

 ドラゴンは上空で派手に炎を噴いて、更に民衆を盛り上げていた。

 それを見て更にヒートアップしていく観客たち。

「すげぇ! ドラゴンが火を噴いた!」
「あれはアトラス伝記三巻百三十四ページに記載された、ドラゴンの業火の息吹! アトラス伯爵の呪文によって、許可を使用された時のみ使われる森林を燃やす業火!」

 そんな呪文初耳である。アトラス伯爵すげぇなぁ……。

 飛行デモンストレーションも終了し、ドラゴニウムによって初フライトが行われる。

 ドラゴン便はドラゴンがソリを引いて、物や人を運ぶサンタ方式である。

 しかもソリには十人以上乗れるのだ。

 どう考えても空中でバランス保つの無理ではと思うが、そこはセサル先生謹製のソリらしい。

 風魔法とかで空中でも地面と平行になるよう頑張ったらしい。

 そのソリの最初の記念すべき被検体……じゃなくて初搭乗客はというと。

「余はもうすぐ空を飛ぶのじゃな。実に楽しみだ」
「ドラゴン便がうまく動けば、作物の運搬にも使用が……」

 いつもの王様とワーカー農官侯である。

 ……カレーをこっそり食ってた時も思ったけど、わりと王家暇なのでは?

 今回も事後処理押し付けたのに普通に客になってるし……。

「では行きます! お客様はソリから降りないようにだけお気をつけください!」

 ドラゴニウムが空に向かって咆哮すると、翼を羽ばたかせて飛び立った。

 すごいスピードでぐんぐん姿が見えなくなっていく。

 後は無事に到着することを祈るばかりである。そんなことを考えていると。

「どうなっている! 何故我が領地にドラゴン便が来ない!」
「私はドラゴン便の券をもらっていないぞ!? 貴族に配ったというなら、この私にも配るのが筋!」

 早速クズ貴族たちが騒ぎ出した。

 ドラゴン便が無事に飛び立ったのを見て、焦ってイチャモンつけてきたのだろう。

 ドラゴン便に関われてないということは、フォルン領に敵対している貴族だ。

 俺はイチャモンつけてくる奴らの前まで歩くと。

「ドラゴン便はフォルン領のもの。当然ですが客や駅は選ぶ」
「何を言うか! ドラゴン便はレスタンブルク国のものであるべきだ! こんなものを一領地が独占するなどありえぬ! 即刻、王家に譲り渡せ!」
「そうだ! そして我らにもドラゴンを献上しろ! 田舎貴族が!」

 クズ貴族たちはそんなことを言ってくる。

 俺はにこやかに笑みを浮かべると、彼らに対してドラゴン便のチケットを手渡した。

「まあこれどうぞ」
「ふん。当たり前だ、我らを誰だと思っている」
「さっさとくたばれ。貴族の面汚しが」

 ……もちろんだが俺が無料でチケットを渡すわけがない。

 こいつらを逃げ場のない空中地獄へと招待しただけだ。

 後日、嬉々としてやってきたこいつらは空中で恐ろしい目に合ったらしい。

 ドラゴニウムから聞いたところによると、まずは挨拶代わりの空中三回転捻り。

 次に上空でソリから落として、地面五メートル前くらいで救出する。

 更にまたソリから落として、今後は地面四メートル前で助ける。

 大金を払わないと更に助けが遅くなるがどうか脅しと、もはや拷問の類だなおい……。

 結局貴族たちは身ぐるみ全て剥がされたらしい。

 俺は気が晴れた! 金ドラも懐がホクホク! みんなが得するハッピーな展開だったな!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

処理中です...