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王家騒動編

第136話 敵を騙すには

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 俺は王の宣戦布告に混乱していた。

 えっ? 俺が王を継ぐのを発表するって話だったよね?

 わざわざリハーサルとかまでして、散々練習したよね?

 お前もリハーサルにいちゃもんつけてきて、もっと花火増やせとか言ってきたよね?

 ……また王家がだましてきたのか!? 

 そう思いながらカーマとラークに目を向けると、彼女らもすごく驚いた顔をしていた。

 彼女らも俺の視線に気づいたようで、首をふるふると横に振った。

 知らなかったということだろう。

 つまりこれは王の独断専行! 敵は王家ではなくて、レスタンブルク王だっ!

 演説が終わって、王が玉座の間に戻ったので俺は王に詰め寄る。

「王! 俺の引継ぎの話は!? なんで宣戦布告を!」
「落ち着け、アトラス伯爵。これには理由があるのだ。聞けばお主も納得するはず」
「納得いく理由じゃなかったら、以前に王城の兵士に振る舞ったカレーの、安売りした分の代金もらいますよ」
「えっ」

 俺の言葉に王の顔が引きつった。

 だがコホンと咳払いをすると、気を持ち直して俺に視線を向ける。

「これはラスペラス国に対して、我が国の動きを悟らせない策だった。あの国はすでに我らの国に巣くっていたのでな」
「フォルン領全体で誤解を招く動きをしてもらい、勘違いさせたかったというわけです」

 玉座に座る王。そしてその隣にいるワーカー農官侯が口を開く。

 更に彼は続けて喉を鳴らすと。

「フォルン領は暗部が発足したとはいえ、まだ情報管理ができていません。そんな領地が王を引き継ぐために動けば、ラスペラスの間諜は間違いなく勘違いする」
「つまりラスペラス本国も勘違いすると」

 俺の言葉にワーカー農官侯は頷いた。

 言ってることはわかる。敵を騙すにはまず味方から、ということだ。

 だが……俺とて納得できないこともある!

「わかってるんですか? リハーサルでどれだけドラゴン飛ばしたと思ってるんですか? あいつら一回ごとに大金要求してるんですが? 全額払ってもらえるんでしょうね?」
「…………折半しよう」
「いや全額払うべきでは!?」

 王はそっぽを向いた。いやいやいや! そこは絶対全額払ってもらうからな!

 そりゃドラゴンの要求金額知ってれば、ラスペラスの間諜も嘘なんて思わないだろうな!

 それに他にも言いたいことはある。

「王よ。敵を騙すにはまず味方からと言いますが、騙された側は不快ですし裏切る可能性もありますよ」
「わかっておる。この策はそなたと余の鉄の信頼があるからこそよ。
「その鉄は紙よりペラッペラですがね」

 俺の言葉に王は目を見開いて驚いた。

 いや鉄の信頼なんてあるわけないじゃん……王でカーマやラークの父親だから仲良くしてるだけだぞ。

 何なら彼女らの父親じゃなかったら、レスタンブルクに従ってなかった説まであるのに。

「アトラス伯爵は冗談がうまいな」
「カレー代とドラゴン代全額よろしくお願いしますね」
「「…………」」

 俺と王は無言で笑い合う。

「ちょっと!? 喧嘩しないで!?」
「喧嘩ダメ」

 カーマやラークはそんな俺達を見ておろおろしていた。 
 
 だが俺も今回の件は許さんぞ! 金が関わることにはうるさいのだ!

 俺の視線に根負けしたのか、王は大きく息を吐くと。

「わかった。フォルン領は今年の納税を減額しよう」
「来年も減額で」
「それはダメです。レスタンブルクが枯渇します」

 ワーカー農官侯がメガネを触りながら呟く。

 まあ今年の納税が免除されるならいいか。俺はただ働きが大嫌いだからな。

 収益がプラスかは分からんが、とりあえずメリットはあったということにしよう。

「それとアトラス伯爵を今回の戦争の総大将に任命する。見事に敵軍を討ち取ってみせよ」
「え、嫌です。お断りします」

 王はまたもや目を見開いて驚く。

 俺は戦争とか嫌いだし……そもそも軍人でもない。

 他に俺よりも相応しい人物がいるだろう。てかこういう時に軍官侯がいるだろ、面識ないけど。

「ここは軍人にお願いしましょうよ。平時のムダ飯食らいこと軍官侯がいるでしょう」
「奴ならラスペラス王国に通じておった」
「この国終わりですね」

 ぐ、軍のトップが敵国に寝返ってるとか……頭おかしいだろ。平時どころか常時ムダ飯食らいじゃねぇか!

 しかも軍官侯が寝返ったということは、敵国にレスタンブルクの戦力が把握されてるってことだ。

 情報が漏れていないわけがないのだから……いやうちの国の兵士とか、カーマとラークに蹂躙される程度の戦力だけど……。

「案ずるな。余の次期国王騙し策によって馬脚を現したので捕らえておる。これは余の成果であるな」
「そもそも寝返られてる時点で大失態だと思いますが? 超マイナスを少し補った程度では?」
「……そういう見方もあるな」

 そういう見方しかないです。

「父様……」
「余の娘たちよ、そんなダメ人間を見る目で余を見ないで欲しい……」

 カーマやラークもこれには呆れ顔である。

 王は落ち込みながらもなんとか気を取り直して。

「それで今の軍をそのまま運用しても、ラスペラス王国に動きが読まれるだろう。ならばアトラス伯爵の指揮によって、敵の裏をかいてもらおうと思ってな」
「まさかラスペラス王国も、軍の素人にトップを任せるとは思わないでしょう。いや本当に愚かな策というか、やけくそ気味とは思うのですが」

 王の言葉にワーカー農官侯が補足をいれる。彼らも苦い表情をしている。

 …………まあ正直な話をすると、軍のトップが裏切られても致命傷ではない。

 何故ならば……。

「そもそもレスタンブルクの軍、五体満足でも役に立つんですかね?」
「言うな! 総勢四万の精鋭だちだぞ!」
「それだけ数揃えて、カーマとラークに勝てないですよね? 正直、賑やか死担当にしかならないと思うのですが」
「「…………」」

 王とワーカー農官侯は黙り込んでしまった。

 この世界って突出した魔法使いが強すぎるんだよな。

 敵の最強の魔法使いを止める術がなければ蹂躙されてしまうのだ。

 魔法使いは魔法で遠距離から戦うから魔力が続くうちは被害がない。魔力切れたら後ろに下がって休めるし。

 ようは時間をかければ敵軍がどれだけいても、単騎での殲滅も可能となってしまう。

 つまり強い魔法使いを持っている側は、恐ろしいアドバンテージを持つことになる。

 暗殺とかでもしない限り、ほぼ勝ち確定になるのだから。

「なればこそ! 魔法使いの運用が大切なのだ! だからアトラス伯爵に最強の魔法使いとして運用を頼みたい!」

 よい言い訳を思いついたと言わんばかりに、王が叫び出した。

 ……別にいいけどな。無能が上につかれて、動きを制約されるよりよほど都合がよい。

 はっきり言おう。レスタンブルクの貴族の大半は無能だ。

 俺が指揮権を握っていた方がマシだ。軍官侯も例にもれず無能だと思うので、裏切ってくれてよかったまである。

 もっとも恐るべき敵は無能な味方だ。

 むしろ戦争をするなら俺に都合のよい状況なのは内緒だ。

 いやいや引き受けることで、今後何かあった時の脅し文句にしてやる!

 あの時、仕方なく総大将引き受けたのになーっ! ってな!

「いいですよ。俺が総大将で指揮します。ですが仕方なく受けるのです、わかってますね?」
「う、うむ……」

 少し困り顔の王を見て、俺は内心ほくそ笑む。

 これで王に対して負い目をもたせることができた。この負い目が役立つ時が来るかは微妙だが……。

「もちろんですが、軍の隊長なども勝手に決めます」
「うむ。無論よいぞ」

 よし、軍の大将はセンダイに押し付けよう。

 俺は軍の素人だから下手に指揮しないほうがよい。魔法使いの運用を考える程度にする。

「アトラス伯爵よ。この戦争で是非活躍して欲しい。そうすればその功績を持って、改めて王という栄誉を与えよう」
「……はぁ」
「露骨にため息をしないでくれ! 余も傷つくぞ!?」

 すごくやる気の下がる一言を王からたまわり、思わずため息が出たのは仕方ない。

 活躍したら罰ゲームの開始が早くなるって、そりゃねぇ……。

 かといって俺が何もしなければ、レスタンブルク国が滅ぼされる可能性高いから仕方ない。

 そんなことを考えていると、玉座の間の扉が勢いよく開いた。

 すごい形相の兵士が転がり込むように部屋に入って来た。

「大変です!」
「どうした。今は超重要な軍議の最中だぞ」
「ラスペラス王国が攻めてきました!」
「なんじゃと!?」

 敵の動き早いな……たぶん事前に準備してたんだろうな。

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