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王家騒動編

第133話 ドラゴン交渉

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「ドラゴンへの交渉大会を始める。優秀な奴には優秀賞として、好きな物を与える!」

 食堂でドラゴンの説得について話し合っていたところ、「みんなで案を出して、よいものを採用すればいいでござろう」と意見が出た。

 確かに悪い意見ではないので採用することにした。ここで優秀賞取った奴に、ドラゴンの説得もそのまま押し付けるつもりだ。

 好きな物を与えると聞いてか全員がやる気満々である。

「アトラス様! このセバスチャン、説得は得意ですぞ!」
「嘘だろ」

 セバスチャンもとうとう合流し、だいたいいつものメンバーが集まった。

 後はセサルがいないくらいだが奴はいらん。足引っ張られる可能性が高い。

「よし。じゃあまずは……メルからで」
「はい!」

 メルが元気よく返事してくる。俺がこいつを選んだのには理由がある。

 最初に発表する奴は基本的に負けるのでどうしても不公平が生まれる。

 ならば最初に絶対勝てない奴をもっていけばよい。

 これなら誰も不幸にならない最善の策だ。メルは大きく息を吸い込むと。

「ドラゴンさん! よい儲け話がありますよ!」
「0点。はいお疲れ様でしたー」
「なんでですかっ!?」
「そんなこと言ったら骨までしゃぶられるからだ」

 ドラゴンの金欲を舐めすぎている。奴らに少しでも隙を見せたら、一瞬で裁判で敗訴になって多額の損害賠償レベルだぞ。

 最初に歴代最低点を叩き出したことで、みんなの気が軽くなったのか発表しだした。

「この契約書にサインしてよ、でないとこの紙は不要だから燃えることになる。あなたも一緒に」
「脅すな」
「ドラゴン便になるか、氷漬けになるか」
「だから脅すなっての!」

 発想が脅すしかない双子姉妹。こいつら交渉する気が欠片もない……。

 この二人、絶対に女王にしたらダメだろ。修羅の国になってしまう。

 次は比較的まともそうなエフィルンが口を開くと。

「もはや話し合いの余地はありません」
「いや話せよ」

 ダメだ。ここの面子は交渉のこの字も理解してない。

 てか魔法使いは呪文唱えるくせに口下手に過ぎるぞ。もう少し口を回すべきだと思う。

「皆様、もう少し心を込めて交渉せねば相手に伝わりません。交渉とは誠意をもってやるのですぞ」
「おお、セバスチャン。流石は年の功だな」

 何だかんだでフォルン領で長年執事をしただけのことはある。

 ドラゴン相手でもうまく話術で相手を説得することが。

「サインしないと殺しますぞ」
「心込めればいいってもんじゃねぇ!」

 もうダメだこの領地。まともなのは俺だけのようだ。 

 最後の絶望であるセンダイに視線を向けると、奴は酒瓶を口につけた後。

「まずは一杯。そして飲み明かして友誼を結ぼうぞ」
「結ぶのは友誼じゃなくて契約にしろ」

 結局誰も役に立ちそうにないので、俺がドラゴンと交渉することにした。

 優秀賞は俺がもらい受けることにして、ドラゴンたちの元へと向かった。

 ドラゴン小屋の中に入ると、ドラゴンの長であるドラゴニウムが待ち受けている。

 なんかまた顔に傷が増えている。相変わらず歴戦の夫婦喧嘩猛者である。

「何用だ。我らの給金を上げに来たか?」
「違う。ちょっと相談があってな、お前らにも損はさせない」
「何だ? 我らはこれからゴロゴロするのに忙しいのだ。手短にせよ」

 欠片も忙しくないだろうがと心の中でツッコミつつ、俺は書類を懐から取り出して見せる。

 ドラゴニウムは俺の手の書類に顔を近づけて凝視した後。

「ドラゴン便。なるほどな、確かに我らの力ならば馬なんぞ比べ物にならぬ。生物としての格が違うからな」
「金銭感覚の格も違うけどな」

 馬は草にニンジンでも与えていればよいが、こいつらは高級牛肉とか要求してくるからなぁ。

 芋とかにしても焼いて塩かけろとか滅茶苦茶うるさい。

「いいだろう。一頭につき金貨百枚だ。また福利厚生として我らが飛ぶ駅のそばに、ドラゴン小屋を造れ」
「金貨百枚は暴利過ぎる! ふざけんな!」
「何を言うか。ドラゴン便が動けば、フォルン領は貿易で死ぬほど儲かる。それだけではなく、他の領地に対してドラゴン便を開通するなど交渉の材料にもなる」

 ドラゴニウムは偉そうに鼻息を立てる。相変わらず金勘定の鼻が極めてききやがる……!

 こんな奴らには鼻薬をかがせてやるべきだ……俺は考えていた策を言うことにした。

 ……出来れば俺が儲けたかったが仕方ない。

「お前たちの金貨百枚は無理だ」
「ならばこの話はなしだな。我らはドラゴン便をしなくても困らない。だがお前たちにとっては超重要なはず」

 ドラゴニウムは偉そうに告げる。

 相変わらず腹立つくらい交渉がウマいドラゴンめ……。

「話は最後まで聞け。金貨百枚は無理だが、お前たちにいい儲け話がある。うまくやれば金貨百枚以上稼げるだろう」
「……ほう聞かせてもらおうか」

 きらりと目を光らせるドラゴニウム。口元からはよだれならぬ炎が漏れている。

 こら汚い……いや炎が汚いかは知らんが。

「ドラゴン便と一緒にとあるサービスを行う。それが莫大な富を生む可能性がある」
「なんだ? 言ってみろ」

 ドラゴニウムだけならず、周囲のドラゴンたちまでこちらに聞き耳を立てだした。

 ……本当にがめついなこいつら。まあよい、耳の穴かっぽじってよく聞け!

「それは……」

 俺が自信満々に発言しようとしたところ、ひょっこりと後ろからカーマが出てきて。

「ドラゴンの尻尾焼きながら配達すれば儲かるよ」

 その言葉に周囲の空気が凍り付いた。カーマさん!? お前が周囲を凍てつかせてどうする!?

 お前は焼き担当だろうが! 見ろ、周囲のドラゴンたちが震えながら俺を威嚇してるではないか!

 ドラゴニウムが立ち上がって屋根に向かって咆哮する。

「貴様ら! 我らに尻尾を振らせるどころか、焼かせながら人や物を運べと言うのか! そんなこと、金貨二百枚はもらわないとやらぬわっ!」
「二百枚ならやるんかい! って違う! 俺が考えてるのは保険だ! ドラゴン便を依頼する時に、依頼者から商品の価値の何パーセントか集めるんだ。そして何も問題なければ返す」

 俺の叫びにドラゴニウムは地面に座り込むと、興味津々に俺に顔を近づけてきた。

 流石は金ドラだ。金の匂いには敏感なようだ。
 
「ふむ……つまりあれか? その保険を払った者に対しては、運んでいた物に何かあれば全額払う。何もなければそのままもらい受けると」
「……よくわかったな。正解だ、もちろん壊れやすい物は保険にかけれないようにする。つまり普通に運べば問題が起きない」
「なるほど。我らドラゴンに逆らう魔物などおらぬ。それに安全運転すれば問題ないか」

 ドラゴニウムは俺が言いたかったことを勝手に理解していく。

 この世界に保険という考えはないのだが……すげぇなこいつ。

 ちなみに保険がないのは簡単だ。馬車なんぞで物を運んだら危険が付き物。

 盗賊や魔物が跋扈しているのだから危険が多すぎる。

 保険で儲けようとしたら、掛け金を商品の五割くらいもらわないと割に合わない。

 そんな金額を払う商人などいるはずもない。だがドラゴン便なら危険性がほぼないので、掛け金を安くできるので全て解決だ。

「保険金をもらえれば、運ぶ商品代以上の金がもらえるか」
「そうだ。お前たちの給料をべらぼうに上げるよりも、儲け自体が増えて健全と思うが」
「確かにな。それに……保険に入ってない奴の商品は、たまに盗っても問題ないな。保険に入らないのが悪い!」
「ブラック保険にするんじゃねぇ! 闇金より性質悪いわ!」
「言い方を間違えた。我らは真面目に運送する。だが保険のかかってない商品は、どうしても他よりも雑になってしまう。結果的に壊れたり失ったりもあるだろう。だが事故ではない」

 ……俺はドラゴンたちに悪魔のささやきをしてしまったのではなかろうか。

「皆の者! 我らはドラゴン便にて大儲けするぞ! 合言葉は!」
「「「ドラララァァァァァ!!!」」」
「保険ない奴は人でなし! 安全欲しけりゃ金を出せ! だってさ」

 もうダメだ、このドラゴン。後で調教してやる……。
  
 そんなことを考えていると。

『すごく大事な話がある。異世界ショップに来て』

 そんなミーレの声が頭に響いたので無視することにした。
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