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ライダン領との争い
第125話 ドラゴン格闘家?
しおりを挟む「ドラゴンに武術を教えて欲しい」
「いきなり謎のお願いに流石の拙者も困惑でござる」
俺はセンダイをドラゴン小屋に呼び出して、命令を下していた。
以前に巨人が武術を覚えれば強いみたいな考えをした。その時に思ったのだ。
怪獣が武術使えれば最強じゃね? というすごい発想を。
怪獣はうちにいないがドラゴンならばいる。しかも人にも劣らぬ頭脳を持つ金の亡者どもが。
「お前なら剣術以外もどうせできるだろ?」
「確かに拙者は無手の格闘術も心得ておるでござる。しかしドラゴンに格闘を教えるのは……そもそも武術とは人間の身体に適したものであって」
「成功報酬は超高級ビールだ」
「ドラゴンも人間も同じようなものでござるな! 拙者に任せるでござる! あ、それと前金代わりに酒を」
センダイは持っていた酒をぐびぐびと飲み干すと、おかわりを要求してきた。
酔っ払いながら指導するのか、などとは今更な話である。
フォルン領の優秀な兵士たちは、未だにセンダイに歯が立たないのである。
前にセンダイが百人切りとかしてたからな。もう少し一般兵も頑張って欲しい。
俺、カーマ、ラーク、エフィルン、センダイ、セバスチャン、ドラゴン亡き時は兵士たちの出番だ。
……果たして出番来るのか怪しい気がしてきたな?
兵士たちもしばらくは戦場の賑やかしから脱却できなさそうだ。
「ひっく。教える流派などはあるでござるか?」
「任せる。何となく強そうで恰好よくてドラゴンな武術なら何でもいいぞ」
「凄まじく求められる基準が高いでござる」
センダイは少し悩んだ後、ドラゴン小屋の中に入っていく。
俺もついていくとドラゴンたちが好き勝手に寝そべっていた。
この小屋の中は壁などなく、巨大な一部屋だけの小屋だ。この造りもドラゴンたちの要望によるものだ。
自分たちは人と以上の知能を持ってるので逃げ出すことはない。なら小屋も大きくしてノビノビさせろ。との要求にこたえた形だ。
「何の用だ人間。お前がここに来るとは珍しい」
最も巨大なドラゴンが俺の元に歩いてくる。こいつは……ドラゴンたちの長のドラゴニウムか。
なんとかこいつら、カーマに習って人の言葉を話せるようになった。
歴戦の猛者のように顔は傷だらけである。実際は夫婦喧嘩で負けた傷らしい。
「見物がてら、何か問題などないかと思ってな」
「特にないな。すでに子供も生まれてスクスク育っている」
「え、もう子供生まれてるのか?」
驚きだ。ドラゴンたちがここに来てから、まだ一ヵ月くらいしか経ってない。
馬や牛は妊娠から出産まで一年くらいはかかるイメージだが。
よく周囲を見ると小さなドラゴンが一匹、二匹、三匹……かなり多くいるぞ。十五匹くらいいる……。
いやおかしいだろ!? 何でこんな短期間で増殖してんだ!? アメーバか貴様ら!?
「子供多すぎるだろ!? どうなってんだ!?」
「我らを舐めるなよ。レード山林地帯で種を残すため、大量に子供を産むように進化したのだ」
「ネズミかお前ら……それ進化じゃない。むしろ生物的には退化だ」
弱い動物ほど大量に子供を産んで、数撃てば当たる作戦を取る。
虫やネズミ、魔物ならゴブリンなどの生物が多く子供を産むだろう。
レード山林地帯はドラゴンを弱小種族、生態ピラミッドの最底辺まで押しやったらしい。
本当にすごかったんだなあの魔境。
「退化ではない。我らはドラゴンとしては驚異的な生殖能力を得たのだ。まあこの小屋で飼われていれば、そのうち退化していくだろうな。ここでは危険もなく平穏無事だ」
「飼い殺された犬かよ」
ドラゴニウムは嬉しそうな声でしみじみと呟いた。
順調に自然界で生きていく術を失っていきそうだな、こいつら。
最終的に怠惰なだけのイグアナとかにならんだろうな……。
「ドラゴニウムよ。武術を学びたいドラゴンはおらぬでござるか?」
「武術だと? 人の武術を学んでも微妙そうだが……運動不足の解消にはよさそうか。俺がやろう」
ドラゴニウムは腹を手でおさえながら呟いた。
もう運動不足のおっちゃんにしか見えなくなってしまった。
「そんな中年おっさんの動機やめろ。ドラゴンらしくもう少し恰好いい動機で武術を学べよ」
俺の言葉にドラゴニウムは目を細めた。
「ドラゴンらしい動機とは?」
「そうだな…………人を美味しく食べるために、武術で半殺しにするとか」
「そんな理由で学ぶわけないだろ。馬鹿かお前は」
「アトラス殿。武術を穢さないで欲しいでござる」
「……すんません」
この後、センダイによってドラゴニウムは七日間鍛え上げられた。
そしてお披露目のために、再び俺はドラゴン小屋の前にやってきた。
そこには偉そうな態度のドラゴンと、目が血走った酒飲みがいた。
「来たな人間。修行の成果を見せてやろう。おそれおののくがよい」
「そして酒を! ああもう辛抱ならぬでござる! 酒を!」
ドラゴニウムは空に向かって拳を繰り出し、センダイがハァハァと気持ち悪い息遣いで俺に密接してくる。
思わず【異世界ショップ】から酒瓶を購入し、そこらに放り投げる。
センダイはダッシュしてそれを見事にキャッチ、そしてそのまま酒を飲み始めた。
「ではドラゴニウム殿。武術の型を」
「おう」
ドラゴニウムは様々な武術の型を繰り出し始めた。
まずはパンチやキックの素振り。そして長い首を活かした頭突き。
「次は足払いでござる」
ドラゴニウムは尻尾を大きく振るって、近くにあった木の幹を粉砕した。
もはや足払いなどという相手をこかす技ではない。相手の足を根こそぎ粉砕する別の何かだ。
「ところでこの武術の名は?」
「特にないでござるな。アトラス殿何かよい名は?」
「昇〇拳」
なんかドラゴンの武術名にピッタリだったからつい口走ってしまった。でもそもそも武術の名前じゃないなこれ。
「やっぱりなしで……」
「よい名でござるな。竜が昇るがごとくでござるか。ではそれで」
「すみません、色々とまずいので勘弁してください」
必死に説得して何とか昇〇拳は回避できた。危ない危ない。
他にも色々とセンダイの教えた武術を見てわかったことがある。
「……普通に暴れたほうが強そうだなこれ。なんか武術ってドラゴンの動きとしてはこじんまりしてるというか」
「我もそう思う。この武術とやらは、人が人を相手する技だな」
「はっはっは。最初に言ったはずでござるが? んん?」
センダイが少し怖かったので、約束通り高級酒を献上。センダイは歓喜の声をあげると即座に酒瓶に口をつけて飲み始めた。
「よいな。我も酒を飲みたいぞ、よこすがよい」
ドラゴニウムがセンダイをマジマジと見つめている。いやよく見れば小屋の中にいるドラゴンたちもだ。
こいつら全員酒好きなのか……だがな。
「欲しいなら金で買え」
「ペット相手に金をとるのか!?」
「どこの世界にご主人様から金を巻き上げるペットがいる!?」
フォルン領から金を巻き上げているので、こいつらかなり金持ちである。
鱗とか尻尾とかをフォルン領に売って儲けているのだ! なら普段の餌はともかく、嗜好品は買い取るのが筋だろうがっ!
俺の言葉にドラゴニウムはしばらく悩んだ後。
「ならば十本買うから一本オマケしろ」
「びた一文まけてやらん」
俺は断固として譲らぬ構えをとる。こいつら相手に引けばどんどんつけあがってくる!
それはもう骨身にしみているのだ! しかも契約事項にしてくるから、今後ずっとそれが基準にされてしまう!
まさに契約ヤクザ! 詐欺商人も真っ青な手口を軽々取って来やがる!
「待つがよい! 酒は餌としていれるべきだろう! 酒を飲めば我らの肉が柔らかくなりうまくなるぞ! 我らの尻尾が美味なほうが貴様らも得だろう! 我らが酒を飲んで協力してやると言っているのだ!」
ドラゴニウムがもっともらしいことを言ってきた。
だがここで譲ってはならない! 譲ったら最後、金も我らの精神安定剤だから支給しろまで言ってくるのだから!
松坂牛とかビール飲んで飼育とか聞くけど、これは奴らが飲みたいだけの話だ。
そもそも自分たちに美味しい話じゃなくて、自分たちが美味しくなる話に協力すんな。
「それはお前たちが自らの肉体を磨き上げる話。つまりマッサージなどと同じだ! 支給品ではなくて嗜好品!」
「飲み物なのだから我らのエサ! エサ故に食糧費だ!」
「何とも醜い争いでござる。まるで税の適用争いでござるなぁ」
センダイが俺達の喧嘩を肴に酒を飲み続ける。
確かに言い得て妙だ。何が悲しくてドラゴンと税適用の喧嘩せねばならんのか。
そんなことを考えながら長い時間の口論の末に……。
「今後、週に一度は酒をエサに加えること! これは決定事項である!」
「くそぉ! ドラゴンに弁論で負けた!」
またドラゴンたちへの出費が増えてしまった……。
だが俺も転んでもただでは起きてやらない。このドラゴン武術を王都でお披露目して、謎の話題性を勝ち取ってやるからな!
火でも吹かせた方が目立てそうなのは内緒だ!
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