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ライダン領との争い

第124話 貢物などの準備

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 屋敷の食堂で朝食を食べていたところ、いつものようにセバスチャンが手紙を押し付けてきた。

 封筒に王家の紋章が書いてある。何かまた面倒な用事の依頼だろうか。

 ただの近況報告とか極めて重要な内容ならば郵便では届かない。ラーク便で直接俺に渡されてしまうからだ。

 正直届かなかったことにしたいが、それをしてもラークが直接手紙を受け取って俺に手渡してくる。

 ようは逃げられないので諦めて開封。

 手紙の文を見たところ、要約するとこんな感じだ。

 『一ヵ月後に王都で大事な発表のお披露目がある。アトラス伯爵は必ず出むくように。これは王の勅命である。それと王家への貢物の献上、またカレーを用意して民衆に配ること。必要経費は出す』

 大事な発表とは以前の王の謁見で話していたことだろう。結局何の発表かは知らないが。

「何の手紙?」

 パンを食べ終えたカーマが俺に近寄って来る。

「王からお披露目のために王都に来いとさ。バックレようと思ってたら勅命にされてるし」
「フォルン領はこの国で最大の領地だからね。重大発表の時にいなかったら、周りから色々勘繰られるよ?」

 マジかよ。サボりたかったのに……。

 ラークの転移があるから王都に行くのは一瞬だが、発表に参加するのが面倒なんだよな。

 無駄に正装しないとダメだし、何故かいつも目立ってしまうし。

 しかも王家への貢物にカレーの炊き出しまで要求されている件について。

 面倒なのでカーマに手紙を手渡すと、彼女はラークの元に駆け寄って二人で読んでいく。

 しばらくすると読み終えたようで、二人揃って俺のほうに戻ってくると。

「貢物はドラゴンの素材で武具を作ろうよ。セサルさんの腕なら国宝級にできるよ」
「カレーの他も焚きだすべき。目新しいもの」

 手紙の内容を見たカーマとラークが、よさそうなモノをチョイスしてくれている。

 貢物は何が良いか自信がないのでドラゴンの武具でいいとしよう。

 田舎者の貴族である俺よりも、姫君の二人の判断のほうが正しいだろう。セサルに七色禁止令を出せば問題なしだ。

 炊き出しのほうがどうするかな。カレーの他に目新しくて、安くて済むものか……。

「別に安くしなくてもいいんじゃない? 父様が出してくれるよ?」
「ダメだ。そう言ってやっぱり折半とか言われる可能性がある」
「父様の信用度低い……」

 だってこの国、基本的に金欠だし……。それに安く済ませて多めに金額を言えば、その差額の分だけ儲かるからな!

 ただ働きはごめんだ! 銅貨一枚でもいいから儲けてやる!

 そうなるとなるべくカレーと同じ材料がよいな。食材の種類が増えるほど、仕入れの値段がかかってしまう。

 逆に少ない種類の食材なら、大量に購入して安くできそうだし……。

「よし、クリームシチューだな。あれならカレーと並べても大丈夫だろ」
「くりーむしちゅー?」
「簡単に言うと牛乳とかで作る白いスープだ。パンにつけて食べてもうまい」

 色合いも味もカレーとは全く違う。それでいて食材はほぼ同じで作れるはずだ。

 ルーだけ【異世界ショップ】で購入しておけば安上がり。

 いや待て、シチューってルーなしでも作れるのでは? カレーみたいにスパイスが必要というわけではない。

 確か粉とかバターいれて作ってたはず……。うまくいけばフォルン領の新たな名物料理になるか?

 そんなことを考えていると、カーマとラークが俺の傍に寄ってきていた。

「ねえねえ。クリームシチュー食べてみたい」
「みたい」
「わかった」

 おねだりしてくる二人が可愛かったので、二つ返事で承諾してしまった。

 ルーから作るのは手間なので、とりあえずインスタントのシチュ―とお湯を【異世界ショップ】から購入。

 シチューのカップにお湯をいれて、スプーンを渡して二人に振る舞う。

「あ、美味しい! カレーとは全然違う優しい味!」
「……熱い」

 カーマはすごく美味しそうにシチューを食べている。ラークは涙目になってふーふーしていた。

 ……猫舌なのを完全に忘れていた。冷たいシチューってあるのかな。

「色合い的にもカレーとすごく違うし印象に残るだろ。それにカレーは子供には少し辛いからな」

 炊き出しのカレーはスパイスを利かせているからな。

 香辛料をふんだんに使っていますアピールだが、小さい子にはきつかろう辛かろう。

 シチューならば子供でも美味しく頂けるはずだ。シチューが嫌いな子ってあまり聞かないし。

「あ、姉さまシチュー凍らせてる!?」
「……失敗した」

 ラーク……熱さに耐え切れず、魔法で冷まそうとして失敗したらしい。

 やっぱり魔法の調整下手なままでは? ライナさんの修行の成果よ……。

 仕方がないので、人肌くらいのお湯を用意してインスタントシチューを再度作ったところ。

「美味しい」
「本当はアツアツが一番なんだけどな」
「あれは人の食べれるモノじゃない」
「いや食べれない人のが少ないからな?」

 ラークはシチューをパクパクとご機嫌そうに食べている。

 ……いつか超アツアツのケーキ出したら、どうなってしまうのだろうか。

 ちょっと出してみたい気がしてきたが流石に可哀そうか。

「炊き出しはクリームシチューとカレーで大丈夫だろ?」
「これなら民衆も満足してくれると思うよ。ただ……できればもうひとつくらいインパクトのあるものがあればなおよいかな?」
「期待」

 カーマもラークも、もうひと押し何か欲しいようだ。

 最低限の要求はクリアしているようなので、ひとまず後で思いついたら出すことにしよう。

「また考えておく。後はセサルにドラゴンの武具を頼めばいいな?」
「待って。それとドラゴンを王都で見世物にしたい。ドラゴンを従えるあなたとなれば、きっと箔がつく」
「……うーむ」

 カーマの提案にはちょっと気乗りしない。

 ドラゴンを王都で見せびらかす。確かに話題性抜群だし、俺の評価もうなぎのぼりならぬ昇竜のごとく上がるだろう。だが……。

「……出張料金と見世物料金取られるんだよな。ドラゴンたちとの契約条項で」
「ドラゴンの要求じゃないよね絶対」

 同感だ。どこの世界に動物の給料を払うサーカス団がいるのか。

 ドラゴンたちは金の亡者だからな……剥がれた鱗も金を要求してくるし。

 しかもすでに子供が生まれたらしく、出産代までせしめられてるらしい。

「金さえ払えばドラゴンは協力してくれるだろうが……そこまでする必要あるか?」

 今回は王都の重大発表を聞きに行くだけ。俺が目立つ必要はない。

 だがカーマとラークは少し困った顔をした後、二人で顔を見合わせて頷くと。

「あなた、今回は国中が注目する大事な行事。ここでフォルン領のアトラスの名を広める絶好の機会だよ」
「貧乏領地の誤解を解くチャンス」
「フォルン領は草木も生えぬ救いようのない土地。そこに住むのは地獄であると、誤解している人もまだいるよ。それでいいの?」
「……それは嫌だな」

 確かに王都から離れたところなら、最近のフォルン領の評判が及んでないところもある。

 ここで派手に喧伝すれば、今度こそフォルン領の発展を国中に知らしめることも可能か。

 そうなるとやっておくべきかもしれない。商売の決め手は信用だ。

 フォルン領は信用できる領地。地上の楽園と誤解させれば有利。

「仕方ない。ここはフォルン領の評判を広めるか」
「あなた自身もね。アトラスの名を国中に広めよう」
「え、面倒くさ……」
「そうしないと、アトラス=サンの話だけ広まるよ?」
「偽物に負けてたまるか! 頑張って広めるぞ!」
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