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ライダン領との争い
第110話 潜む影
しおりを挟む孤児院を建てたことで王に褒められた後、俺達は王城の廊下を歩いている。
なんか孤児院建てたら玉座の間で王にべた褒めされた。
凄まじく露骨に褒められた。まるで選挙活動の参加者みたいに。
周囲のエキストラ貴族たちへのアピールのようだった。
「なんか薄気味悪い……いったい何が狙いだ……? 今度はカレーを献上しろって言いそうだな……」
「と、父様が素直に褒めてるだけかも……」
「それはない」
カーマの意見を即座に否定する。
何度でも言うが王は言うほど味方じゃないからな。今までも手放しで助けてくれたことないぞ。
そんなことを話しながら歩いていると、よりにもよってライダン領主がこちらに歩いてくる。
やめろよ、俺の視界の景色を不快で汚染するのやめろよ。
俺は奴を視界にいれないようにカーマのほうをガン見した。
「アトラス伯爵、最近は随分と金回りがよいものだなぁ」
不快な音まで出してきやがった。多くは言わないから、俺の半径百万キロ以内に近づかないで欲しい。
「それってこの国から出て行かないと無理じゃない?」
カーマのツッコミは的を得ている。贅沢は言わないからこの世界から出ていって欲しい。
耳栓とサングラスくらいしてこればよかったなぁ。
「何の用だ。俺は忙しいんだ」
「貧乏暇なしと言うからな。なに、フォルン領が金に困っていると思ってな」
「……それがどうした」
ライダン領主の言葉は当たっている。
最近のフォルン領は金に困っているのだ。具体的には王都の金を集めすぎて、散財しないと怒られそう。
孤児院を建てたりしたが、カレーで儲けた金はまだまだ余っている。
「そうだろう。フォルン領の金問題はライダン領が解決してやろう。我らがその金を何とかしてやる。お前が我が足を舐めてあの魔法使いを差し出せばな」
は? すまん、誰かこいつの言ってることを和訳してくれ。いや言語化してくれ。
フォルン領の金を差し出せ。そうすればエフィルンを受け取ってやる?
あまりにも意味不明過ぎる。俺は【異世界ショップ】から精巧な造りのムカデの玩具を購入。
「くたばれぇぇぇ!」
「ごはぁっ!?」
ムカデの玩具がライダン領主の顔面にクリーンヒット!
気絶したライダン領主の顔に、精巧につくられたムカデの足が絡みつく。
少しばかり心が晴れたので、更にライダン領主の懐に市販のスライムをいれて放置した。
「酷い……」
「酷いのはあいつだろ。流石に意味不明過ぎるし天罰だ」
そうして俺はライダン領主を放置し、ラークの転移でフォルン領へと帰った。
屋敷の執務室について一息いれようとすると、セバスチャンが部屋に駆け込んでくる。
「アトラス様! この屋敷専属のメイドを新たに雇いましたぞ!」
「今までいなかったのか?」
「これまではこのセバスチャンが掃除しておりましたぞ。基本的にはほこりと盗人しか出ませんし」
サラッと盗人の掃除しないで欲しいんだが。
……メイドくらい雇えよ。なんでこの広い屋敷を一人で掃除してるんだ。
あまり屋敷にいることが少ないから、セバスチャンだけで切り盛りしてるとは知らなかった……。
「数か月ほど頑張りましたが、流石に限界を感じまして」
「限界を感じるのが遅すぎる!」
「真に遺憾ながら気づきました……老人が掃除してもアトラス様はお喜びにならないと……なのでメイドを雇うことに」
「いや手が回らないからじゃないのか!?」
「申し訳ありません。このセバスチャン、流石に美少女になるには年齢が……」
セバスチャンは申し訳なさそうな顔をしている。
そもそも年齢の問題ではない。男がメイドになるなどダメだろう。
メイドとは神聖な言葉なのである。男がそれを穢すことは許されない、ただし男の娘は除く。
「まあいい。新しく入ってくるメイドを紹介してくれ。早く」
「食い気味ですな。入って来なさい」
セバスチャンの言葉に従うように、一人の少女が礼をしながら部屋に入って来た。
年齢はカーマたちと同じくらいだろうか。長い黒髪をポニーテールにしてくくっている。
少女はスカートのすそをちょこんと上げると。
「新しく雇われましたメルと申します。よろしくお願いします、ご主人様」
ご主人様、よい響きである。よい、メイドよい。
うんうんと頷いていると後ろから妙な視線を感じる。
振り向こうとすると背中に柔らかい感触。これはエフィルンが抱き着いてきた胸の感触だな。
彼女はいつもこうしてくるのだ。すでに慣れてしまったので俺は平静を装いながら。
「ど、どうしたエフィルン」
「主様、私もメイド服を着ればよいのでしょうか」
「あ、ああ。いいんじゃないか」
なんとか動揺を隠しながらエフィルンに返事をすると、彼女は俺から離れていった。
更に部屋から出て行ったのでメイド服を探しに行ったのだろう。
「セバスチャン、メイドの紹介の続きを。後何人くらい雇ったんだ?」
「メル殿のみでございます。一人しか応募が来ませんでしたぞ。賃金も相場の二倍にしているのですが」
セバスチャンは不思議そうに顎に手をやった。
賃金が相場の二倍ならこぞって募集が来ると思うのだが……。
「しかもアトラス様に求められたら身体を差し出す。何かあれば自らを犠牲にアトラス様を守れるという条件つきです。何故人が来ないのか……」
「いやむしろ何故来ると思ったのか」
ブラック企業もビックリの求人やめろ。
給料相場の十倍でも来ないんじゃなかろうか。そもそも護衛はメイドの役割ではない。
冒険者とか傭兵を雇うべきだろう。
「まあそういうわけで。このメル殿しか」
「メル、悪いことは言わないから逃げたほうがいいぞ!」
俺の忠告にもメルは首を横に振ってほほ笑むと。
「あまりよろしくないとは思うのですが、お金がなくて…………給料二倍は捨てがたいと言いますか」
「ということですぞ。なので大丈夫かと」
何が大丈夫なのか全くわからん。いたいけな少女を脅してるだけでは……?
「……とりあえず普通の条件でメイドを募集しろ。メルは相場の二倍で雇ってやれ」
「はて? 今までも普通の条件ですぞ?」
ダメだこのセバスチャン早く何とかしないと。
とりあえずメイドに忠義を求めるな。家政婦として雇えと言い含めて、再びメイドの募集が行われることになった。
だが新たなメイドが来るまでの間は、メルひとりだけで切り盛りしてもらう必要がある。
正直無茶通り越して無謀なので、掃除機ロボの購入を検討したほうがよさそうだ。
「メル、とりあえずやれる範囲で掃除してくれ。屋敷全部をひとりでやるのは無理だ」
「できますぞ?」
「俺は人の範疇での話をしている」
セバスチャンは正直、身体能力が化け物じみているので参考にしてはいけない。
さてメイドがどれくらい働いてくれるかだな。
ーーーーーーーーーーーーー
メルは与えられた個室で服を着替えていた。
住み込みの条件での働きなので、彼女にも部屋が与えられている。
「さてと……想像以上に簡単に潜り込めたけど。後はどう暗殺するか」
メルは服に忍ばせたナイフを手に取ると、机に置いてあった芋を放り投げて空中で斬る。
一瞬で芋は八等分に切り分けられて床に落ちた。
「アトラス伯爵が凄腕の魔法使いと言えども首をはねれば死ぬ。厄介なのはセバスチャンが傍にいることかな……あの隙のなさ、間違いなく歴戦の勇士に違いない」
実際は歴戦どころか兵士ですらないのだが、メルは知る由もない。
彼女はナイフを再び服に忍ばせて一息つくと。
「とりあえずは毒でも混ぜますか。直接斬るのは最終手段と」
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