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ライダン領との争い
第96話 戦力過剰
しおりを挟むレスタンブルクの大領地ライダン。
その領主屋敷の私室でライダン領主は忌々し気に机を叩いていた。
「ふざけるな! フォルン領が更に強力な魔法使いを得ただと!?」
「ベフォメット最強の魔法使いを捕らえました。戦利品として手元に置いておくつもりでしょう。すでに洗脳薬を飲ませたようで、彼女を奴隷のように意のままに扱っています」
ガタイのよいライダン領主にもひるまずに、黒装束の者は淡々と報告を続ける。
それを聞いて更に鼻息を荒くするライダン領主。
顔を真っ赤に紅潮させて、今にも椅子から立ち上がらんとする勢いである。
「これ以上にフォルン領が戦力を得るなど冗談ではない! そんなことになればこのライダンが更に低く見られるではないか!」
「でしょうね。もはやフォルン領はレスタンブルク国が相手でも戦えるでしょうから」
「その魔法使いは最悪でも王家直属、あわよくば我らの領地に献上させるように王に直訴せねば! あんな田舎のポット出領地が力を得るなど危険すぎる!」
顔を真っ赤にして激怒したライダン領主。
己の権力が脅かされることへの怒りの炎を燃やしている。
「大した苦労もしていない若造が力を得るなど! 力には責任が伴うのだ! そもそも姫君たちが渡されたのもおかしいのだ! お前も裏工作としてフォルン領の脅しになる材料を集めろ!」
「それは構いませんが……いっそベフォメットの魔法使いは暗殺してしまうのも手では?」
「ダメだ。姫君とあのフォルン領バカ領主への対抗として、その魔法使いは残す必要がある!」
ライダン領主は勢いよく立ちあがると、怒りに身を任せて机を手で叩きつける。
「よいな! フォルン領を何としても弱体化させろ! 手段は問わぬ!」
「なら……領主の暗殺も?」
「問わぬ!」
「そうですか」
黒装束の者は愉快そうな声を出した。
ライダン領主は落ち着いて椅子に深く腰掛ける。
怒りを全て発散したのか、その表情には落ち着きと思慮深さが感じられる。
「ただの魔法に任せたバカ領主ならば、いくらでも潰す手段はある」
「私は貴方の激怒後の落ち着きも魔法みたいですがね」
「性分だ。だがこのおかげで今まで生き残って来た」
ーーーーーー
「父様から手紙」
屋敷の執務室で漫画を読んでいると、ラークが手紙を渡してきた。
いつもの王家からのホットラインである。封を破いて手紙を開いて内容を見る。
「ふむふむ。ベフォメットとの講和を結ぶことに成功したのか。まあそりゃそうだろうな」
ベフォメットはもはや勝ち目のない戦いだからな。
彼らの最大戦力であった魔法使いのエフィルンは、俺の背中に抱き着いている。
今のベフォメットの最大戦力は、カーマに軽くあしらわれる程度の力なので雑魚である。
つまりベフォメットはこちらのカーマ、ラーク、エフィルンを抑える手段がない。
ミサイル持ってる相手に剣で挑むようなものだ。まず勝ち目はない。
「それで俺にも報酬を渡すから城に出てこいか」
つまり王都に凱旋しろということだろう。
今回の俺は完全にレスタンブルクを勝利に導いた英雄だ。
前のジャイランドはマッチポンプ感があったが、今回は後ろめたいことはまったくない。
手紙にも俺が望むなら凱旋パレードをしてもよいと記載されている。
「ふっふっふ。とうとう俺の時代が来たな……ベフォメットとの戦いも語り継がれるはずだ」
「主様がベフォメットに仕掛けた策や、私との戦いが語られますね」
エフィルンの言葉にうなずきかける。いや待て……。
俺がベフォメットに仕掛けた策か……ベフォメット軍に対して牛ふんを投下したり、エフィルンの胸を揉んだりが語り継がれたら困るなぁ……。
よく考えたら俺の戦い方、基本的に格好悪いな……。
「凱旋はやめておこう……今回もコッソリ行くぞ」
「凱旋しないの?」
「最悪、末代までの恥を作ることになりかねないから……」
ラークに王への伝言を頼んで、後日こっそり王都に向かうことになった。
そして三日後、俺はとカーマとラークは王城へとやって来た。
さっそく王と報酬の話をすると思っていたのだが……何故かいつもの待合室ではなく貴賓室に案内された。
貴賓室って国の賓客を遇するための部屋であって、身内用ではないイメージなのだが。
せっかくだし備え付けの菓子でもないだろうか。こんな高級な部屋だしさぞかし豪華だろう。
お土産に持って帰りたいなどと考えていると。
「父様があなたにベフォメット使者の魔法使いと話して欲しいって」
カーマがそんなことを言ってくる。
ベフォメット使者の魔法使い? 何でそんなのと俺が話す必要があるのだろうか。
魔法談義でもしろというのだろうか。俺は魔法使えないので必死に誤魔化すしかないではないか!
知ったかぶりと分かったフリして、したり顔で誤魔化す。そんな地獄みたいな時を過ごしたくはない!
とりあえず近くの椅子に座って、高級椅子の感触を楽しみながら。
「勘弁してくれ。俺は魔法使いじゃなくて、魔法使えないだぞ」
「ボクは知ってるけど……。父様としては最強の魔法使いとして、ベフォメットが二度と逆らう気が出ないくらい力を見せつけて欲しいってさ」
「口先だけでどうしろと……」
ただの会話でどうやって力を示せというのか。仮に魔法を使えたとしても無理だろ。
それは口先の魔術師、詐欺師の役目だと……いや俺も魔法使い詐欺だった!
ただ脅しなら詐欺師でも人選ミスだと思うぞ。それなら雷親父でも呼んできた方がよいだろ。
もしくは筋肉ムキムキの武闘派呼んで来い。筋肉は口より物申すぞ。
「大丈夫だと思うけどね。だってベフォメットの魔法使いの使者でしょ?」
「あの人しかいない」
カーマとラークは確信を持った表情をしている。
はて……そんな人いたっけ……ベフォメットの魔法使いってエフィルン以外モブでは?
そんなことを考えていると、部屋にひとりのローブ姿の男が入って来た。
顔に見覚えはない。だが頭のハゲには見覚えがある。
「あっ。落髪のナイニールさんか」
「落雷のライニールです! それに私はハゲておりません! 頭に産毛が!」
ライニールさんは頭の一部を指さしてきた。そんなハゲ散らかしたけど、掃除し忘れた箇所ありますみたいなこと言われても。
この人はエフィルンの台頭によって、ベフォメット魔法軍最高術者から叩き落とされた悲しい人だ。
だが使者としてやってきたなら、何か間違って復帰できたのだろうか。
「いやー、私としては是非レスタンブルク国とは仲良くしたいのです。これからも是非ご友誼を」
ライニールさんは俺に九十度で頭を下げてくる。すごく綺麗な頭の下げ方だ。
あれは間違いなく常日頃から下げ慣れている。短期間で身に着くものではない。
「こちらとしても戦いたくはないけど……国の代表がそんな平身低頭でいいんですか?」
国の代表が敵に対して下手に出る。それは理不尽な要求をされてもはねのけない意思表示にもなりかねない。
ある程度強気に出る必要があるのだ、それが虚勢だったとしても。
だがライニールさんは媚びるような笑みを浮かべると。
「仮にレスタンブルクと再度戦争になったら、私は魔法使い代表として皆様と戦わされてしまうので……負ける戦いはごめん被ります!」
その言葉には溢れんばかりの悲哀がこもっていた。
彼の言ってることはすごく同意する。カーマひとりに軽くあしらわれる人が、更にラークとエフィルンも相手にせねばならない。
明らかにオーバーキルである。もはやイジメの領域だ。
俺がこの人の立場だったとしても、絶対にイジメられないように動く。
「それに皆様には感謝しているのですよ。個人的にも戦いたくありません」
ライニールさんは揉み手をしながら口を開く。何か感謝されることしたっけ。
「アトラス様がエフィルンを誘拐してくれたおかげで、私は魔法軍最高術者に復帰できました!」
「……なるほど」
「今は奴隷として扱ってると聞きました! 是非これからも飼っていてください! 何としても解放せずにお願いします! これつまらないものですがっ!」
ライニールさんは菓子の包みを俺に渡してくる。
酷い、この人酷い。ハゲ散らかした窓際族に戻らされないために必死だなぁ……。
その後もしばらく話したが……わかったのはこの人が苦労人だということだ。
彼は断トツで強い魔法使いというわけではない。魔法軍最高術者の座を守り通すために努力はもちろんのこと。汚い裏工作や綺麗な表工作も必死に行ってきたと。
「特に弟子の育成にはものすごく力を注いでいます。彼らが力を得て偉くなるほど、相対的に私の権力が上がるのです」
凄まじく不純な弟子の取り方である。
でも絶対的な力には勝てなくて、とうとう蹴落とされてしまった。
それでも復帰できたのは俺のおかげだと感謝された。
魔法というより政治力で生き残って来た人のようだ。それはそれですごいと思う。
何だかんだでこの人、別に嫌いではない。洗脳薬についてもあまりよいとは思えないらしいし。
「洗脳薬なんて不要です! そんなもので他国の優秀な魔法使いを洗脳されたら、また私が最高術者から落とされるではないですか!」
思いっきり自己都合の理由だったが。
結局、今後もよろしくお願いしますとのことで話し合いは終わった。
これなら今後はベフォメットと戦うことはなさそうだ。
上層部が俺達に対して勝ち目がないと思っているならば、戦争を仕掛けてくることはないだろう。
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