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ベフォメット争乱編

第93話 つかぬことを伺いますが

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 俺達はクズ王子を掘り返した後、バフォールの街に帰還した。

 なおクズ王子はすでに元の大きさの身体に戻っている。

 土にクズ要素が分解されてしまったのだろう。あの巨大化はクズが肥大化したものだったのだ。

 これで少しは真人間になっているわけもないか。

 そう考えながらバフォール領主屋敷の執務室に戻ると。

「アトラス君! 我が妹は!? エフィルンはどうなった!?」

 変人がすごい剣幕で俺に襲い掛かって来た!? 奴は変な服を着ていて、身体中に不気味な色の液体の入ったガラス瓶を装備している。

 すごく闇の科学者が似合う姿だ。むしろそれ以外に形容のしようがない。

「落ち着け!」

 俺は変人をいさめるが、奴はなおも食い下がって俺の肩を掴んでくる。

「エフィルンは!? 私のかわいい妹のエフィルンはどこだい!? 昔みたいに一緒に遊んだりお風呂に入って身体を洗ってあげたり、身体を測って服を作ってあげたりしたいんだが私の愛しいエフィルンはどこ」
「くたばれぇ!」
「ぐふぅ!?」

 俺はセサルの頬に強烈と思いたいビンタを放った。

 なんて奴だ! あのボディを誇るエフィルンと風呂!? 身体を測る!? 

 そんなの犯罪ではないか! 俺にやらせ……フォルン領主として見逃すわけにはいかない!

「安心しろ。エフィルンなら拉致監禁している」
「そうか、それなら安心だね。洗脳解除薬は効果があったかい?」
「倒れながらビタンビタンと飛び跳ねてたらしいが」

 ミーレから聞いただけで実際に見てはいない。だが苦しみのあまり顔を真っ赤にして、水にあげられて死ぬ間際の魚のようだと聞いた。

 そんな俺の言葉にセサルはにっこりと笑みを浮かべると。

「うん! 想像通りの効果があったようだね!」
「お前、お兄さんというより鬼さんだろ。もしくは悪魔」

 本当にこいつは妹のことを思ってるのだろうか?

「仕方がない。私もエフィルンを助けるために、様々な文献を探って無数の方法を考えたんだ」
「……その結果が洗脳解除薬という名の超激辛剤かよ」

 様々なことを考えた結果、物理で殴るのが一番早いですみたいな結論やめろ。

「まあ結果的に抑えられたようだしよかったよ。最終兵器を使わずに済んだ」

 セサル変人は全身につけているガラス瓶のひとつを手に取る。

 その中の液体はボコボコと気泡を立てていた……前に床溶かしてたやつでは?

「ちなみにその最終兵器はどういった薬で……」
「かければ身体の余分なものを全て消し飛ばすものさ。これを使えば洗脳もエフィルンの膨張させられた魔力や、急成長させられた身体も戻る。いざとなれば特攻するつもりだった」
「最初からそれやれよ」
「副作用で服とかも消し飛ばしてしまうんだ。妹が衆人の前で裸になるのは流石に……」

 何故……それを最初から渡さないっ……!

 植物のない環境を作るより、人のいない場所作る方がよっぽど楽だろうが!

 そしたら俺だけしか見る人いなかったろ!?

「セサル、実はエフィルンはまだ少し洗脳が残っている。その薬を使う必要がある」
「大丈夫だ。洗脳解除薬を飲ませたなら絶対に治っている。私の誇りにかけて保証しよう」

 セサルは真剣な顔で答えてくる。

 これは説得しても無駄だ……ちいっ! これだから技術に誇りを持つプロフェッショナルは!

 そういえばエフィルンの今の状態はどんな感じだろうか。

 少し気になったのでミーレに確認してみるか。

 セサルにちょっとトイレと言って執務室から抜け出すと、ミーレにコンタクトをとる。

「ミーレ、エフィルンの様子はどうだ?」

 ちなみに今の俺は傍から見ると、ひとりで脳内会話している極めて痛い人である。

 なので執務室から出る必要があった。

『意識を取り戻したよ。洗脳も溶けてるね』
「そうか。なら迎えに行く」
『あ、今はダメだよ!?』

 入店しようとするとミーレに止められる。はて、何でダメなのだろうか。

 洗脳も溶けて意識も戻ってるなら問題ないのでは……。

『エフィルンちゃん、すごく汗かいてて、服脱がして身体拭いてるところだから……』
「【異世界ショップ】、開店せよ! 【異世界ショップ】、開店せよ! はよ開け【異世界ショップ】!」

 俺は超早口で【異世界ショップ】に入店する呪文を唱える。

 周囲の景色がねじ曲がっていつものチェーン店の姿になる。

 そしてそこには濡れた布巾を持ったミーレと……。

 詳細は省くが天国《エデン》がそこにあった。俺はこの日を忘れないだろう。

「神よ……俺が転生したのはこの日、この瞬間のためだったのですね……」
「いやそんなわけないでしょ……」

 しばらく先ほどの状況を脳裏に刻んで天に祈っていると、ミーレが話しかけてくる。

 服を着替えたようでエフィルンも黙ってこちらを見ていた。

「…………はじめまして?」

 俺はエフィルンに声をかける。

 彼女は洗脳されていた。つまり俺のことを覚えていない可能性がある。

 いやむしろ忘れていたほうが都合がよい。特に胸揉んだことだけでも忘れていて欲しい。

「いえ、洗脳された間の記憶も全てあります。特に助けて頂いた時のことは特にくっきりと」
「すんませんでした! これつまらないものですがっ!」

 俺は即座に頭を下げながら、高級マシュマロの入った箱をエフィルンに手渡す。

 これは間違いなく暗に責められている! ならば先手必勝だ。
 
 先に謝罪の意を示すことで相手に許しを請う! 地面に頭こすりつけて主導権を握ればこちらのものだっ!

 俺はエフィルンが箱を受け取った瞬間、土下座を繰り出せるように構えるが。

「私こそ感謝しても感謝しきれません。助けて頂いてありがとうございます、主様」

 エフィルンはそう告げると頭を下げてくる。たわわな胸が少し揺れて眼福……主様?

「主様?」
「私は主様に全てを救って頂きました。ですので私の全てをもって、生涯主様に尽くします」

 俺はエフィルンの言いたいことはわかったが、あまり理解したくはなかった。

 生涯尽くすって重すぎるだろ。そんなことしたら彼女の人生はどうなるのか。

 俺だったら絶対に御免である。こんな奴に生涯尽くすとかマジ勘弁。

「やめておけ。俺は人間ができていない」
「すごい自己申告するね」

 ミーレからツッコミを受けるが事実なので仕方がない。

 俺は決して聖人君子ではない。カーマたちがあられもない姿になっていると思えば、カメラを持って撮影しに行く。

 エフィルンの胸を揉めると思えばしっかりと揉む。

 ……我ながら思ったより酷いなー。少し自らを省みるべきかも……。

「まあそういうわけだからやめておけ」
「大丈夫です。主様の肉奴隷になるつもりです」
「大丈夫な理由どこ!?」

 エフィルンは無表情のままそう宣言した。少女の言うセリフじゃねぇ……。

 まだ洗脳薬残ってるぞこいつ。もしくは正気じゃなくて変な方向に目覚めてるだろ

 うーん……どうするか。彼女の様子を見る限り冗談じゃなさそうだ。

 ………………とりあえずこの場は流してセサル変人に説得してもらうか。

 妹が肉奴隷になるなどどう考えてもダメだし、必死になって止めるだろう。

「まあこの話は置いておいて、ひとまず元の世界に戻るぞ。……いや待て」

 俺は凄まじく問題のある可能性に気づき、言葉を選びながら慎重に口を開く。

「つかぬことを聞くが……兄っている?」
「います。いつも優しく立派で、皆のために尽くす理想の兄さんです」

 …………やべぇ、兄の名前聞きづらい。もしこれでセサルの名前を出して違うって言われたらどうしよう。

 あんな変人と、理想の兄さんを一緒にしたのかとキレられたら困る。

 聞くべきか聞かざるべきか……しばらく逡巡したが、どうせ変人が会いに来るからバレる……。

「あのですね。もしお気を悪くしたら申し訳ないのですが……お兄さんの名前はセサルという名だったりします……?」
「はい。ご存じなんですか?」
「たぶん……」

 理想の兄さんかは極めて疑問が残り、歯切れの悪い返事になってしまった。
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