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ベフォメット争乱編

第92話 救出?

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 巨大化したクズ王子をぶちのめした俺は、急いで大樹を登ろうとする。

 あられもない姿になっている予定のカーマたちを目に焼き付けるためだ。

 もし普通の姿だったら少し服を破いて、R-15くらいにはしたいな。全てクズ王子のせいにして。

 奴は諸悪の根源だし悪事が追加されても誤差の範囲だろう。

 そう思いながら大樹を登るために、木登りグッズを【異世界ショップ】から購入したところ。

 焦げ臭いにおいがして上を見ると……大樹が燃えていた。

「負けちゃってごめんなさい! エフィルンさんは!?」
「不覚を取った」

 カーマとラークが背中に翼を生やして、地上にゆっくりと降りてきた。

 目覚めてしまったようだ……もう少し意識失っていて欲しかった。

 特にラークはいつも惰眠貪り姫なのに、こんな時だけ早起きしてこなくても……。

 俺はがっかりした顔にならないように、口の中を噛みながら愛想笑いを浮かべる。

「ははは。エフィルンなら俺が拉致監禁した」
「「えっ」」
「あ、違う。倒した」

 美少女を拉致監禁したは言葉が悪すぎるな? やはり言葉選びは大事だ。

 ……まあ言葉を選んだところで事実は変わらないのだが。

 俺の言葉にカーマは驚愕の表情を浮かべた。ラークも少し驚きの色が顔に出ている。

「あなただけで倒したの!?」
「……すごい」
「もっと褒めたたえろ! 我ながら奇跡を成し得た自覚はあるぞ! いや本当よく勝ったよ俺!」

 カーマとラークの賞賛の声に、思わずドヤ顔を繰り出してしまう。

 いや本当エフィルンを単独で倒したの奇跡だ。もう一度やれって言われたら無限コンテニューしても無理な自信がある。

 これで二人も俺に惚れ直すのでは!? ほら俺は捕らわれた二人の姫を助けに来た王子様的な!

 まあ二人の姫は自力で脱出して、更に捕まっていた場所を燃やし尽くしたけど。

「でもどうやって勝ったの? 洗脳解除薬を飲ませたんだろうけど、ボクたちエフィルンさん相手に近づける気がしなかったんだけど」
「ふっ……それは聞くも涙、語るも涙の物語が」

 …………周囲の土地を植物の育たぬ不毛の地にして、ネズミ花火投げて不意作りました、とは言いづらいなぁ。

 恰好よくエフィルンの植物魔法を力で撃ち破り、颯爽と肉薄して薬を華麗に飲ませたかった。

「……まあ勝ったんならいいんじゃない?」

 カーマが申し訳なさそうな顔で慰めてくる。

 そんな憐れみの顔はやめてほしい。俺は勝ったんだよ、勝利者なんだよ。

 たとえ華麗な勝利だろうが、泥まみれになって掴んだ勝利だろうが勝ちは勝ちなんだよ。

 それに勝利よりも得難いものも得れた。エフィルンの胸を揉めたし……あっ。

「…………ボクたちが捕まってる間にそんなことしてたの」

 心を読まれてしまった!? カーマの顔が申し訳なさそうな表情から一転、恐怖を感じる笑顔になる。

 いかん! ラスボスを倒したと思ったら裏ボスを出現させてしまった!?

「待て! 違うんだ! エフィルンを【異世界ショップ】に拉致監禁するのに、体を触る必要があって不可抗力だ!」
「胸触る必要はいっさいないと思うんだけど?」
「違うんだ! 俺だって最初は肩を触ろうと思ったんだ!」

 ただ魅了の谷間に抗えなかっただけなんだ。

 いかん、カーマからの感じる殺気というか熱気が急上昇している。

 ……だが待って欲しい。今の俺はあのエフィルンに勝った男だ。
 
 カーマとラークの二人がかりで負けた相手に勝った男だ。つまりカーマにも勝てるのでは!?

 これは俺の時代が来たな!?

「その煩悩、全部燃やすね」

 カーマが背後に炎の柱を上げながら、にっこりと笑いかけてくる。

「なんの! 俺はエフィルンを倒したんだぞ! むしろ反撃で己の煩悩を叶えてくれる!」

 ヘイ、【異世界ショップ】! 相手の服だけ溶かす魅力的な液体は売ってないかな!?

 俺の真摯な祈りに【異世界ショップ】はきっと答えてくれるはず!

『そんなものあるわけないじゃん。というか……仮に売ってても買えないよ? 財布の中身がない』
「…………」

 ミーレからの非情な宣告。おもむろに懐から財布を取り出し、中身を確認すると銀貨一枚。

 懐かしい金額だ。俺のフォルン領発展は最初、銀貨一枚から始まったのだ。

 これは【異世界ショップ】のメッセージだろう。初志貫徹、己を見失わずにこれからもがんばれと。

『いや偶然その金額が残っただけ……』

 だまらっしゃい。それではまるで道化ではないか。

 俺は絶賛、炎の柱を発生させているカーマに向き直ると。

「カーマ、人間は過ちを犯すものだ! 肝心なのはそれをどう乗り越えるかだから、その周囲に展開した炎の槍をしまって頂けませんか!?」

 俺はカーマに頭を下げて謝罪する。彼女とて悪魔ではない、今回は大活躍したから少し手心を加えてもらえないだろうか。

「じゃあ過ちを乗り越えるのに協力してあげるね」
「その炎の槍を食らって乗り越えられるのは、過ちではなくて死線だと思うな!?」

 俺はカーマからの笑顔の返答を受けた直後、一目散に逃げだした。
 
 それを追うように炎の槍が飛んでくる! それを必死に回避しまくる!

「うおおおお! 倉庫だ! エフィルンの風も防いでくれた、苦楽と生死を共にした相棒ならば!」

 俺はエフィルンの風魔法をも防いだ倉庫に向けて走る!

 踏ん張れ俺の足と肺! ここで止まったら燃やされるぞ!

 悲鳴をあげる身体を酷使して倉庫の元へとたどり着く。そして倉庫の扉を開こうと手を伸ばした瞬間。

「その箱は邪魔だね」

 炎の槍が倉庫に突き刺さり炎上、相棒は火だるまと化した……。

 あ、相棒が……エフィルンの魔法をも防ぎ切った無敵の魔法箱が……。

 炎の業火に呑まれた倉庫を前に俺は立ち尽くす。背後には炎の翼で移動してきたカーマ。

「覚悟はいい?」
「…………優しくしてください」

 いつものようにお灸をすえられてしまった。

 なんでいつも綺麗に恰好よくしまらないのだろうか。

 二枚目キャラである俺としては極めて遺憾である。

 ちなみにラークはお灸をすえられた後、その箇所を冷やしてくれた。

 なんだかんだでエフィルンに勝ったことは、すごいと思ってくれているようで。

「これで最強の魔法使い」
「……まあ最強の箇所だけは嘘じゃなくなったかもな」

 魔法使いというところは未だに大嘘なのだが、こちらは永遠に真実にはならない。

 だが嘘から出た実。彼女らが二人がかりで勝てなかったエフィルンを倒した以上、強さだけなら俺は最強になる……と言うほど簡単ではない。

 だって俺の戦い方は、完全にエフィルンの対策を立ててメタっただけだ。

 逆にカーマたちはエフィルンに同じことをされたわけだ。
 
 相性は事前準備に凄まじい差があるし、俺がカーマやラークに勝てるとは限らない。

 でも彼女らに並ぶことはできた、と思うことにしたい。

 金に余裕がある時だけな! 金欠なら何の役にも立たないのに変わりはない!

 雨の日のソーラーパネルくらい役に立たない。

 そんなことを考えながら冷やされていると、カーマが俺の元に近づいてきて。

「ところでベフォメットの王子はどこ?」
「…………はて、どなたじゃったかのう」
「誤魔化さないでよ」

 ベフォメットの王子…………完全に忘れていた。

 俺は荒れ地に不自然に作られた土の山を指さして告げる。

「…………生き埋めにしたままだった」
「それ大丈夫!? 死んじゃったらまた問題にならない!?」
「クズが分解されて土にかえる。それは誰も止められない自然の摂理……」
「そんなこと言ってる場合じゃないよね!?」
 
 急いでクズ王子を掘り起こすことになり、俺の身体は翌日筋肉痛で動けなくなった。
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