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ベフォメット争乱編

第84話 進軍

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「センダイ、バフォール領の防衛は任せたぞ。絶対守れよ? お前どれだけ高い酒せびったと思ってる? わかってるよな?」
「はっはっは。命にかえても酒は守るでござる」
「誰が酒守れと言った!? バフォール領守れ!」

 バフォール領主の屋敷の前。

 ヘリコプターに乗り込んだ俺とカーマとラークを、センダイが酒瓶を片手に見送っている。

 色々とバフォール領を改善した結果、とりあえずハリボテの城くらいの防衛力になった。

 兵士たちも十倍ほど強くなったらしいし、なんとライナさんが援軍に来てくれると聞いている。

 あの人がいれば誇張抜きで千人力だ。なにせ千人倒したしな以前に。

 暴走して味方を襲う可能性もあるが、それで被害が出てもバフォール領だからノーダメだ。

 そんなわけで俺達がいなくても最低限の防衛はできると判断し、俺達は今からベフォメットに殴り込むことになった。

 なおバフォール兵士長は訓練の結果、唯一アル中になって役に立たなくなってしまった。

 なのでセンダイだけはバフォール領に留守番だ。

「アトラス殿もご無事で。あまり心配してないでござるが」
「俺はこの国で最強の魔法使いだからな」
「最強の魔法使いかは関係ないでござる。生き汚いから簡単にはくたばらないだろうと」
「俺ってお前の主君なんだが!?」

 最強の魔法使いも大嘘だけどな。

 ……毎度思うけど領主が敵軍に侵攻するの間違ってるよなぁ。

 ヘリコプターで上空から安全に攻める予定とはいえ……今更なので考えないようにしよう。

「じゃあ後は任せた」
「心得たでござる」

 センダイにそう言い残すと、ヘリコプターを上空に飛ばしてバフォール領から離れていく。

 このままベフォメットの王都に向かおうと思っていたところ。

「あっ。あれベフォメットの軍じゃない?」

 カーマが指さした方を見ると、ベフォメット軍が侵攻しているのを発見する。

 まだバフォール領には入って来ていないが、どうせ攻めてくるだろう。

「行きかけの駄賃でももらっていくか」
「また物資根こそぎ奪うんだね……」
「せっかくだからな!」

 ちょうどヘリコプターの購入費用で赤字だったんだ。

 代金としてベフォメット王都で宝を奪っていく予定だが、少し小遣い稼ぎも必要だろう。

 念のため言っておくがこれは泥棒ではない。侵略だ。

 そんなことを考えていると、後部座席に座っているカーマが。

「……泥棒じゃなくて強盗ってこと?」
「違う。侵略だから相手の物を力づくで奪っても許されるんだ」
「強盗と何が違うの?」

 カーマが首をかしげてこちらを見つめてくる。

 ……何が違うんだろう。何となく戦争で敵の財宝奪うのは合法な感がある。

 でもやってることは立派な強盗なわけで。いやそもそも兵士は人殺しの殺人者だ。

 つまりあれだな、戦争はよくないってことだな。

「カーマ、アイスをやろう」

 俺は誤魔化すために賄賂を渡すことにした。

「え、本当? じゃあ三色アイスがいい」
「あれは祭りの時しかダメだ。言っただろ、お祭りの時だけのアイスだと」

 三色アイスは祭りの時だけ。そこは譲れない。

 あれはたまにしか食べられないから美味しいのだ。珍しいから美味なのであって普段から食べれたら、実はそこまで美味しくないのではとは思ってないぞ。

 俺の言葉にカーマは少し黙り込んだ後。

「……戦争もお祭りみたいなものじゃない?」
「お前は戦争狂か!?」
「ケーキ欲しい」

 三人で雑談している間に、ベフォメット軍の真上を取ることに成功した。

 やはり敵軍は対空能力を持っていない。このヘリコプターの情報は、すでにベフォメットに知らされているだろう。

 普通に考えれば何らかの対策をしてくる。

 だがこの世界では空を飛べる者がほぼいないので、簡単には空の敵に対する有効打を用意できないのだ。

「ラーク、また雹とかあられ落としてくれ」
「ボクもこんぺいとう撒きたい」
「ほれ」

 カーマにこんぺいとうの入った袋を渡しつつ、ラークに魔法の発動を頼む。

 兵士たちをひょうや霰が襲い始める。そしてこんぺいとうがカーマの口に入っていく。

 下では地を這う愚かな人間たちが、俺達を見て色々と叫んでいた。

「空飛ぶゴーレムだ! 卑怯だぞ! 地面に降りて戦え!」
「このチキン野郎! 飛んでなきゃ戦えないのか!」
「流石はクズアトラスだ! 卑怯者め! ってなんだこれくさっ!?」

 最後に叫んだ奴の頭上に、【異世界ショップ】で購入した牛のふんを爆撃してやった。次は鳥のふんでも……。

「見て! なんか変な人がいるよ!」

 カーマが指さす先には妙な身体をした3メートルほどの人間たちがいた。

 胴から下は通常の人間サイズなのに、上半身が異常にでかい奴。

 身体の細さは通常の人間なのに、異常に身長が高い奴。

 頭の高さが1メートルある奴など、奇形と表現するに相応しい巨大な人間たちが存在していた。

「……何あれ? 残念な巨人族? 巨人族なんてこの世界にいるのか?」
「ボクは聞いたことないけど……姉さまは?」
「ない」

 なるほど。巨人族的なのが存在しないなら、あれは純粋に身体が大きい人だな。

「巨人たちよ! あの空飛ぶゴーレムを叩き落とすのだ!」
「おおおおおおお!」

 隊長らしき人物の命令と共に、巨人たち? が俺達に向けて咆哮する。

 そして側にある大きな石や丸太を持つと、こちらに向けて投てきしてくる。

「っておい!? どこに投げて!? ぎゃああぁぁぁ!?」

 だが防ぐまでもなく全くヘリコプターに届いていない。しかもコントロールも滅茶苦茶で、同じベフォメット軍の兵士に向けて飛んでいく始末。

 まるで自分の身体の使い方に慣れていない赤子だ。

「……何あれ?」
「さあ……」

 よく分からないがただの木偶の棒みたいなので、気にせずに霰やひょうを落とすことにした。

 巨人たちは別に防御力が高いわけでもなく、霰やひょうにかなり苦しんでいる。これだとただ当たり判定が大きいだけだな。

 火をつけて混乱させて、ヘリを着陸させて物資を奪い【異世界ショップ】で売り飛ばす。

 ついでに消費期限切れ4日目の弁当の山を差し入れに残すことにした。

 食糧不足で苦しむだろう兵士たちへの俺のささやかな贈り物だ。

 決してバフォール領で誰も食べようとしなかった不人気弁当の残りではない。

 やりたい放題したのでこの地から去ろうとすると。

「くっ! やはり失敗作では駄目か! 王子に報告を!」

 何やら気になる単語を隊長らしき人物が叫んでいた。

 失敗作? 少し気になるが……まあいいか。この戦場はだいぶ牛くさいのでさっさと離れたい。

 特にあの隊長はくさそうだし近づきたくない。

 俺はヘリコプターを操縦し上空へと退避。とどめにもう少し牛糞を地上にお見舞いして、この地から離れていく。

「……なんで牛のふんなんて撒いたの」
「くさい」

 カーマとラークが俺を非難の目で見てくる。何で撒いたのかと聞かれれば答えは簡単だ。

 俺は満面の笑みを浮かべると。

「自分をクズって言った奴に嫌がらせって楽しいよな」
「そこまで言い切ると清々しいよね……それにしても他にないの? 火を撒けばいいでしょ」

 カーマの意見のほうがだいぶ物騒だろ。

 俺は別に人殺しをしたいわけではなくて、戦争に勝ちたいだけなんだ。
 
 更に言うならゲス王子を気持ちよくぶっ飛ばしたいだけなんだ。

 火を撒くなんてするくらいなら、最初からミサイルでも打ち込んでいる。

「わかった。次は牛ふんじゃなくて豚ふんにするから」
「何が違うの……」
「知らん」
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