85 / 220
ベフォメット争乱編
第81話 戻ってきてしまったバフォール領
しおりを挟む俺とカーマとラーク、そして酔っ払いはバフォール領へとやって来ている。
ベフォメットに対抗するための援軍としてだ。俺達は王から独自の指揮系統を認められている。
つまり俺達はバフォール領に命令されることはない。好きに暴れられるし誰からも縛られない!
そう思っていた時期が俺にもありました。確かに命令されることはない、ないのだが……。
「アトラス様。この書類もお願いします」
「なんで!? 俺が!? バフォール領の!? 書類仕事させられてんの!?」
「領主がいないので。アトラス様に指揮官になって頂いた方がよいのです。ついでに書類も片付けて欲しいので」
俺は元バフォール領主屋敷の執務室で必死に書類を片付けていた。
そんな俺の作業している机に、元バフォール領兵士長が更に追加の書類を置いてくる。
確かに誰からも命令されてない。むしろ命令する側になっている。
だが元バフォール領の指揮をさせられるのは計算外だ。
そんな面倒な、七面倒なことやりたくない。
「はっはっは。アトラス殿はつくづく貧乏に縁があるでござるな」
「貧乏くじ引いたってか、やかましい」
センダイが飲みながら俺を見て笑っている。
おのれ酔っ払い……こうなればお前も道連れだ!
「センダイ! お前はバフォール領の臨時防衛隊長だ!」
「いやいや。防衛隊長なら本物がいるでござるよ」
センダイはあごで元バフォール領兵士長をさす。
なんで兵士長はいるのに領主がいないのか。バフォール領やばすぎて笑えない。
シビリアンコントロール――文民統制をあざ笑うような状態だ。軍がクーデター起こすまでもなく即座に実権を掌握できる。
……まあしてくれなかったせいで、俺が実権を押し付けられたのだが。
「カーマ。お前王族だし領主代理やってくれ」
「無理だよ。ボクは領主なんてやったことないし」
「大丈夫だ。俺と同じように偉そうにして、よく分からない書類をサインだけしてればいいから」
「ダメだよねそれ!? というか、あなたよく分からずに書類仕事してたの!?」
当たり前だ。全部把握なんて出来るわけないだろ。
総理大臣が原子力発電の仕組みを全て知ってるわけがない。
雑談しながら山のような書類を何時間もかけて全て処理した。う、腕の感覚が……だがこれでようやく一息つくことが。
「アトラス様。ベフォメットが攻撃を仕掛けてきました」
「なんて領地だ! 俺が書類作業終わる前に来いよ!」
元バフォール領兵士長の報告に思わず叫ぶ。
なんて奴らだ! 俺の右手が痺れて疲れるのを待っていやがったな!
いやこの大量の書類もベフォメットの策略だったのだ! 俺を疲れさせるための!
「被害妄想が激しすぎる……」
「散々フォルン領の弱点をついてきたベフォメットだぞ。俺の弱点が真面目に仕事するということもわかっているはずだ!」
「弱点がそれってどうなの!? 真面目にやろうよ!」
カーマのことは無視して執務室から出ていく。ベフォメットめ! 思い知らせてやる!
よくも俺に真面目に仕事をさせやがったな!
復讐と怨嗟の炎で心を燃やしながら、自軍の兵士を招集して町の広場に集める。
集まった兵士たちの装備はわりかしまともだ。仮にもバフォール領は隣国と接しているのだから、国からも支援が出ているのだろう。
だが何というか、兵士たちの表情が腑抜けているように見える。
戦争というより軍事訓練に向かうかのような心持ちというか。
「センダイ。バフォール領の兵士の強さはどれくらいだ?」
センダイは広場に並ぶ兵士たちを観察した後、酒瓶を口につけると。
「そうでござるなあ……お茶を濁すが万騎当千というところでござるな」
「一瞬強そうに聞こえるのやめろ。素直にゴミって言え」
悲報、バフォール領の兵士。通常の兵士の十分の一の強さである。
「いやいくらなんでも弱すぎないか!?」
「戦う気がないでござるよ。こんなの連れて行った方が足手まといでござる。元々領主が裏切り者だったなら、てきとうに八百長戦争でもしていたのでは?」
そんな八百屋戦争みたいな……
センダイは酒瓶を飲み干して空になった瓶を懐にしまうと、新しい酒瓶を同じく懐から取り出して飲み始めた。
……お前も戦う気があるのか怪しいところではないだろうか。
「……肉壁にもならないか?」
「断言するが即座に逃げ出すでござる。更に言うなら敵軍とこやつらが入り乱れたらカーマ殿やラーク殿の魔法の邪魔。百害あって一利なしでござる」
流石はバフォール領の兵士たち! 微塵たりとも使えないどころか邪魔である!
バイコクドンめ。死してなお足を引っ張るとは……!
「いやまだ死んでないよあの人」
「俺の中ではもう生命体にカウントされてないから」
カーマのツッコミを華麗にスルーしつつ、この役立たずの無駄飯くらい共をどうするか考える。
やはりゴミはゴミ箱に……じゃなくて、リサイクルせねば。
「センダイ。こいつら徹底的に鍛え直してやれ」
「よいでござるが性根も腐った者たちゆえ、簡単にはいかぬでござる。正直時間の浪費になりそうでござる」
「マジでゴミだな……どうせこれ以上腐ることはないだろう。成功の暁にはとっておきの酒をやろう」
「御意。拙者の全てをもちて、このゴミたちを蘇らせるでござる」
センダイは真剣な表情を浮かべると、兵士たちの元に向かって行った。
これで少しは使えるようになれば儲けものだがはてさて。センダイのお手並み拝見といこうか。
どうやって腑抜けたバフォール兵のやる気を出させるのだろうか。
あいつのことだから頑張れば酒が飲めるぞーとかで。
「よいか。お主ら次第で拙者が酒をもらえるか決まる。もらえなければ……斬る」
センダイが剣を鞘から抜いて振るうと、地面の土が吹き飛ばされて穴があいた。
完全に脅しだったがまあいいか……。流石に冗談だろうし。
「腑抜けが直らぬなら血を抜いてやるでござる」
センダイは完全に目が座っているが冗談だろう。
これ以上余計な事を聞く前に出陣することにしよう。俺はバフォール領の兵士は誰一人知らないから、仮に何人か減っていても気づかない。
俺はセンダイから背を向けるとカーマとラークの肩を押す。
「カーマ、ラーク。行くぞ、俺達だけで敵軍を倒す」
「そうなるよね。ちなみに敵軍にも魔法使いが数人いるよ」
「まじか。とうとう魔法使いと戦うことになるのか」
カーマの言葉に少し緊張する。魔法使い同士の戦いは予想がつかない。
今までは人間相手なら一方的に蹂躙してきたが、今度の戦いは少し苦戦するかもしれない。
「魔法使いと戦ったことあるよね? ほら元カール領の……」
「あれは魔法使いじゃなくて壁だったし……」
あの魔法使いは俺のバズーカを障壁とやらで防いだだけだった。しかも数発で力尽きるというおまけつき。
結局一方的に攻撃してただけなので魔法使いとカウントしていない。
うーむ、少し対策というか作戦を考えたほうがよいかもしれない。敵は多勢に対してこちらは三人。
ラークとカーマがいくら強いと言っても不安は残る。
「……魔法使いってみんな空飛べるのか?」
「飛べない」
「ボクたちみたいに空飛べるのはかなり珍しいよ」
ふーん……カーマたちの飛行能力はジャイランド戦で見ている。
俺の所感としては二人は確かに空を飛べる。だが空中で戦うことは難しいだろう。
飛行できることと空中戦が出来ることは大きく違うのだ。
そんな二人ですらかなり珍しいならば、空中戦ができる魔法使いはほぼいないと考えてよさそうだ。
「よし。制空権を確保して空から蹂躙するぞ!」
「「制空権?」」
「敵の頭上を取って好き放題するってことだ。上さえ取れば最強だぞ、高さかける重さイコール威力だ」
俺はヘリコプターを購入して、カーマとラークを乗せて飛び立つのだった。
1
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる