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バフォール領との争い
第61話 偽物の証明
しおりを挟む「あのアトラスが偽物だって?」
「でも領主様はあのクソアトラスが本物って紹介してたよな」
「あいつがクズっていわれりゃ信じるが、偽物って言われてもなぁ」
「「「それな」」」
おのれバフォール領主。このクソデブハゲを俺として、領民に紹介するとは……もはや命は不要と見える。
捕らえたら覚えてやがれ。お前の尊厳を全て破壊してやる。
とりあえず髪の毛全て永久脱毛だ。頭をハゲにしてカツラを被らせてから、民衆の前でとってやる。
その後は女装趣味があることにしてやろう。とどめにフォアグラにしてクソデブハゲの完成だ。
「俺は魔法使いだ! こんな偽アトラスとは比べ物にならない! 先ほどから空に撃っているのも魔法である!」
俺は上空の花火を指さす。昼なのが残念だ、夜だったらもっと派手だったのだが。
やはり民衆たちの反応も微妙だ。
「何が偽アトラスだ! どうせ俺達を騙そうとしてるに決まってる! あんな顔も知らない奴のことを信じるのか!」
「そうだ! さっさとクソアトラスを殺させろ!」
妙に声の大きい男たちが過剰に騒いでいる。
奴らは間違いなくバフォール領主の雇ったサクラだろう。
何としても俺をこのクソデブハゲにしたいらしい。絶対許せん。
絶対に奴らはサクラだ。だから処罰を加えても全く問題がない。証拠はないがサクラで間違いない。
俺は間違えて連射式電動エアガンを購入してしまい、手がすべってサクラどもに銃口を向けてしまう。
「このサクラどもが! 人生から卒業式させてやろうか!」
口が滑った後に指も滑って、サクラどもの足もとに大量のBB弾が襲い掛かる。
安心して欲しい。改造エアガンなので殺傷力は折り紙つきだっ!
残念ながら照準は滑らなかった。運のいい奴らめ。
「お前らがバフォール領主から雇われてるのはわかっている! 妙にお前らは肉つきがいいよなぁ? 食糧不足なのにおかしくないか?」
「た、確かに……おかしいぞ! あいつら!」
「は……? いや待て!? そんなはずは!?」
俺の声に民衆たちも追随していく。実際のところサクラたちは別に肉つきはよくない。
てきとうに言ってみただけだが、腹が減って疑心暗鬼になった民衆だ。簡単に誘導できる。
「奴らはバフォール領主に雇われた者にたぶん間違いない! このアトラスやフォルン領を悪役にしたて、最終的にレスタンブルク国を裏切り、お前たち領民を地獄に追い込むつもりなのだっ!」
このまま勢いで押しきれそうなので、やってしまうことにする。
民衆を味方につければこちらのものである。だが彼らも少し迷っているようで。
「どう思う?」
「うーん……確かにクズアトラスは怪しいが、今喋ってるのもなんか怪しいというか……」
「貴族というより奴隷商人が似合う感じするよな」
…………てめぇら全員、本当に奴隷にしてやろうか。
落ち着け。彼らは罪ありき民衆だ、俺をクソデブハゲと間違えたという原罪を背負っている。
だからこそ愚かで蒙昧な者には確たるシンボルを与えなければ。俺が持つ中で最も輝く威を見せつけてやろう。
俺は拡声器の音量を最大にした後。
「ならば見せよう! このアトラスには、双子の姫が嫁いでいることは知っていよう! 彼女らを見せよう!」
必殺王家の威を借る作戦を行うことにした。
俺の声に従ってカーマとラークが、檀上に上がってこなかった。
カーマだけが俺の横に並ぶように立っている。
「……ラークは?」
カーマは俺の返答に答えるように、設置した弁当置き場の建物を指さす。
……あの惰眠姫、まだ寝てるんかい!
「起こそうとしたけど、今日の姉さまは無理だよ……寝るのが遅かったから下手に起こそうものなら……」
「ものなら?」
「生まれてきたことを後悔する」
カーマが真顔で恐ろしいことを口にする。
そんな俺達の会話を知らない民衆は、徐々に叫び始めた。
「紅髪……カーマ様か?」
「だがクーラ様がいないぞ?」
「やはり大嘘だ! 奴らは口から出まかせひいっ!?」
サクラどもにエアガンをぶっぱしつつ、俺は天を見上げて一息。
生まれてきたことを後悔する日が来たようだ。
「カーマ! この場は任せた!」
「ええっ!? そんなこと言われても無理だよっ!?」
「無理なのは俺もだっ! やるしかない! 炎の柱あげるとか、クソデブハゲのバーベキューとか何でもいい!」
俺はそう言い残すと檀上から降りて、トラックの荷台へと突入する。
恐ろしく寒い建物の中にいたのは……恐ろしい牙や爪を持った氷の竜。
そしてその周囲には、恐怖の表情で氷漬けになった人間だったものの氷像がいくつもある。
……どうやら侵入して食べ物を盗もうとした奴がいたらしい。
氷の竜は俺に牙をむいてくる。どうやら安眠を妨害する者を排除するようだ。
だが竜の一頭程度! 俺の力を持ってすればたやすい!
そう思っていると床から更に氷の竜が三頭ほど生えてきた上に、合体して三つ首の氷龍になってしまう。
…………とりあえず氷像になってる奴らを溶かして囮にするか。
そんなこんなで氷漬けになってる奴らを解凍し、龍への生贄にしている間にラークを起こした。
生まれてきたことを後悔する理由についてだが、囮君たちが見事に証明してくれた。
このクソ寒い中で氷の龍にまきつかれ、口の中にシロップのかかってないかき氷を突っ込まれ、身体の芯まで冷え切った後。
足からじわりじわりと身体が凍っていくという、もはや絶対に安らかには眠らせない――安眠妨害への憎悪を感じた。
凍りながら泣きわめく囮たちが無惨だったので、弁当を盗もうとしたことは不問に処すか。
後でかき氷食わせるくらいで勘弁してやろう。
「……眠い」
「頑張ってくれ! もう最悪立っているだけでいいからっ! ほらっ!」
俺はラークの手を引っ張って、建物から出て広場に戻ると。
「炎出すだけじゃ面白くないぞー! 本当に姫君かー!」
「ぶーぶー! 脱げー!」
……何故か民衆がつまらないとブーイングして、檀上でカーマが涙目になっていた。
こいつらは姫を手品師かキャバクラの姉ちゃんと勘違いしてるだろ。
俺とラークが檀上に上がると、カーマが俺に抱き着いてきた。
「あなたぁ! もう無理! 魔法撃ってもつまらないって!」
「ああ、うん……なんかごめん」
……やっぱりこの民衆、救う価値ないのでは?
「とりあえず弁当を温めてきてくれ。凍ってるから」
「うう、わかった」
「それと弁当の傍にいる人間も温めてきてくれ。凍ってるから」
「はーい……いやおかしいよね!?」
カーマをこのまま檀上に立たせるのは忍びないので、弁当と人を温めさせることにした。
俺はラークを侍らせて民衆をにらみつける。よくもやってくれやがったな……! 散っていったカーマの仇は俺がとるっ!
「死んでないからねっ!?」
カーマからのツッコミを華麗にスルーして、拡声器を手に取る。
民衆の様子を見ると口々に勝手なことをほざいている。
「ほれ見ろっ! あんな面白くもない人間が姫なものかよ!」
「そうだそうだ! どうせそこらの少女をえらんでひいっ!? いてぇ!?」
まだ騒いでいるサクラ共に向けて、俺は反撃のエアガンを撃ち込む。
姫がそんな面白人間であってたまるかっ! もうこれ以上フォルン領にイロモノや変人はいらん!
「聞け! 俺がアトラスである証拠として、もう双子の姫のもう一人。ラークを見せよう!」
「…………すぅ」
器用に立ちながら寝ているラークを支えながら叫ぶ。
民衆もカーマとラークの顔が似ているのは分かるだろうし、きっと信じてもらえるだろう。
「魔法使ってないだろ! 大嘘だっ!」
「そもそも寝てるだろうが! そんな奴が姫であるものかよ! たたき起こせ! 俺らが起こしてやるっ!」
檀上のすぐ傍までやって来て、大きな声で叫ぶサクラたち。
その声にラークの身体がピクリと震えた後……氷の八つ首龍が出現。
「「「へ?」」」
龍はブレスを吐いてサクラたちを氷像に変えると、満足したかのように蒸発した。
バカどもが。寝ているラークの安眠を妨害するからだ。
こいつらはサクラとして広場に飾っておこう。
「今のはラークの魔法だ。これで俺がアトラスなことも信じてもらえたと思う」
俺はラークを起こしてサクラにならないように慎重に叫ぶ。
民衆たちの様子を見ると、氷龍に若干怯えているように感じる。
「あ、あんな魔法。並みの魔法使いじゃ無理だよな?」
「本当に姫君なんじゃ……」
「もうこのさい姫君じゃなくても姫君だっ! 認めないと凍らされるぞっ!」
どうやら思わぬ形で鉄血政策ならぬ冷血政策が発生したようだ。
逆らったら血の気が凍る恐ろしい処罰が待っている。
だがこれはあまりよろしくない。恐怖政治はクーデターされる。
「安心しろ。今凍らされた奴らは売国奴だった。俺に従えば、安全は保障しよう」
俺の言葉にも民衆は暗い雰囲気のままだ。
計算外すぎるっ! ここまで場が冷却されたらどうしようもないではないか!
「……すごく暗い」
「その原因を作ったのは誰なんですかねぇ!?」
「……安眠妨害は罪」
「くそっ、こうなったら切り札を使う!」
ラークは舟をこぎながら言いたいことだけ言ってくる。
このままでは微妙なので、俺はフォルン領で身に着けた必殺人心掌握術を行うことにした。
これだけは使いたくなかったが仕方ない……! さあ俺に従うがいい!
「お近づきの印として、皆に酒を用意したぞっ」
「「「「…………」」」」
「……お手上げだ。もう打つ手はない」
俺の言葉に民衆は大騒ぎしなかった。ばかなっ!? フォルン領兵士ならこの言葉だけで、凍った血も沸騰するぞっ!?
「……それで従うのはバカだけ」
「うちの千騎当千の兵士をバカ呼ばわりするんじゃないっ! くそぉ……とりあえず食事を民衆に配って、いったん仕切り直しだっ!」
「「「我ら一同、アトラス様に従いますっ!」」」
俺がラークに叫んだ言葉が拡声器で周囲に流れた瞬間、民衆たちは俺の味方になった。
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