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レード山林地帯開拓編
第47話 レード山林地帯開拓
しおりを挟む「このレード山林を開拓することで、必ずや諸君らの生活がよくなり……」
ドラゴンの咆哮が響き渡る、のどかなレード山林地帯の入り口前。
俺はあくびを噛み殺しながら、ワーカー農官候が拡声器を使って作業者たちにスピーチするのを聞いていた。
人員が集まったのでレード山林地帯の開拓を行うことになり、現在はその開拓開始式とやらを行っている。
作業員たちはドラゴンの叫びが聞こえるたびにびくびくしていて、ワーカー農官候の長話を聞いていないのは間違いない。
……学校の校長先生の話よりも聞かれてないとか、もはやスピーチの意味がないと思う。
「では頑張ってください。アトラス子爵。お願いします」
ようやくバトンならぬ拡声器が渡されたので受け取ると。
「頑張って稼いでくれ! 働きに応じて、特別報酬を出すことも考えている! 以上だ!」
俺の言葉に作業員たちからチラホラと歓喜の声が聞こえる。
イマイチ盛り上がらないのはやはりドラゴンの存在のせいだ。
魔物が寄り付かなくなるジャイランドの身体の一部……指を荒れ地から持ってきて近くに設置している。なので安全は確保されてはいるが……やはりドラゴンの叫びは精神的にキツイだろう。
こうして開拓開始式は解散したが、ワーカー農官候が俺を非難の目で見てきた。
「表明が短すぎませんか?」
「ご安心を。いつもよりも一言多いくらいです」
「……ええ」
実際にいつもよりも長く発言した。いつもなら特別報酬を、と言ったあたりでセンダイから「長いでござる」とストップが入る。
「では私は王都に戻ります。後はよろしくお願いします」
「送る」
「少しお茶でもいかがですか?」
「ははは、この魔境でご冗談を。私は貴方や姫君のような、化け物じみた強さは持ち合わせておりませんので」
ワーカー農官候は、ラークの転移で送られて王都に帰っていった。サラッと俺やカーマ達がディスられたな?
まるで逃げるように去っていった。かなりせわしない人だな、せっかくだからお茶でもしていけばよいのに。
「アトラス様。チェーンソーや重機の扱いの説明をお願いしますぞ」
「わかった。わかったら引っ張るな! 逃げないから!」
セバスチャンに力ずくで引っ張られて、集まった作業員たちの前に押し出される。
再び拡声器を使って、デモンストレーションを始めることにした。
「我が名はアトラス・フォン・ハウルク子爵である! この国最強の魔法使いだ! その私が開拓に有用な魔法の道具を作った! その最強の魔法使いの道具を使って開拓して欲しい!」
なるべく偉そうに、最強の魔法使いと脳にこびりつくように言葉を選ぶ。
こういった細かな営業は大事だ。俺の場合、魔法使いではないのでなおさら大事。
嘘も百回言えば真実になるという詐欺師の手口だ。
ムダに指パッチンで合図をして、近くに用意させていた花火をセバスチャンたちに発射させる。
昼なのであまり綺麗ではないが爆発音の大きさもあって、作業員たちは驚いて口を開けている。
そして場が温まったところで、【異世界ショップ】から大型トラックを購入して目の前に出現させた。
なお花火は完全にムダな演出である。何もなしにパッと重機が出現しても、なんか地味かなって……。
更に手元にチェーンソーを出現させて、電源を起動した。
周囲に独特な駆動音が響き、作業員たちは俺の持っているチェーンソーに釘付けになる。
「これは私の魔法で作りだした魔剣! 名をチェーンソー! 見よ、この切れ味を!」
俺は近くにあった木の幹にチェーンソーを押し当てて、ゆっくりと木を切断した。
「お、おお……流石は魔剣だ……地味だけど」
「すごいけど……もっとスッパリと斬れると思った……」
作業員たちから感嘆の言葉が漏れる! 感嘆の言葉である! そうに決まっている! そうあってくれ!
……確かにチェーンソーで木を切るのって地味だよな。こうズバッと一刀両断って感じじゃないもんな。
魔剣と言われれば、巨大な魔物を一刀両断とかの期待されるよな。ハードル上げ過ぎたか……。
木のような硬い物質でなく、動物の肉程度ならば一刀両断可能なはず。斬るようにオーガでも用意しておけばよかったか……いや斬るのグロイから嫌だ。
「お次が本命だ! これは恐ろしい力を持つゴーレムだ!」
微妙な雰囲気から逃げるように、俺はトラックの運転席に乗り込むことにした。
クラクションを連打して、周囲に騒音をまき散らした後。トラックを起動してアクセルを踏み、付近をグルグルと走る。
しばらく試運転した後、これなら作業員たちも驚くだろうとトラックから降りると。
「お、おお!? すごい速いぞ!? しかも巨大な木をあんな大量に運べるなんて!?」
「すげぇ!? さっきの魔剣は微妙だったけど、今回のはすげぇ!」
「最初の大きな咆哮といい、まるで大型魔物だ! 心強い! 俺達を魔物から守ってくれるんだな!?」
「あんな巨体ならドラゴンだって一撃で倒せる!」
……今度はハードル上がり過ぎだ! トラックでドラゴンを倒せるかよ!?
そもそも工事で使うのはトラックよりも、クレーンカーとかである。
大きくて速い方が目立つだろうとトラックで、デモンストレーションしただけに過ぎないのに。
いや下手にクレーンカー出さないでよかったかも……巨大な腕でドラゴンも一撃だ! とか言われたらそれも困る。
最初に固定観念を抱かれると、「あれ攻撃手段じゃないんですよ」って理解させるのが大変だ。
……よし。トラックは対ドラゴン用の秘密兵器に設定しよう。
実際には役に立たないので、秘密のまま終わる秘密兵器扱いだが。
再び俺が指パッチンをすると、トラックやチェーンソーが消失した。
そして何故か花火が撃ちあがった。……セバスチャンたち、誤射したな。
指パッチンで花火打ち上げは、トラックとか呼び出す時だけと言ったのに。
「これらは我が魔力で生み出したもの! なので私の魔法で簡単に消せる! ここにいる者はそんなことをしないと思うが……盗んでもムダだ」
魔法アピールをしつつ、作業者たちに盗んでもムダと言い聞かせておく。
実際コッソリ盗まれる分には、回収できるので大丈夫だ。問題なのはクレーンカーとかで暴走して逃げられること。
その時に周囲の人間が被害にあってしまうからな。逃走を食い止めるために他の巨大重機がぶつかり合って、エセ怪獣合戦みたいになっても困るし……。
「すげぇなぁ……指パッチンしたら魔法が放たれるのか」
「あの空に発生した魔法も、指で音を鳴らしたら出るんだべなぁ」
「次から子爵様が指パッチンしたら、気を付けないとな」
……セバスチャンたちのせいで、指パッチンで花火が撃ちあがると勘違いされてしまう。
もう作業員たちの前で、指を鳴らすことができない身体にされてしまった!?
「チェーンソーもトラックも、他の魔法の道具もお前たちに貸し与える! だが全て危険な代物だ、使う時は細心の注意を払うように!」
動揺を隠しつつ、これ以上厄介な設定が生まれる前にこの場を逃げる。
そして少し離れていた場所で、待機していたセバスチャンとカーマの元へ向かうと。
「セバスチャン! トラックとか消す時は花火を撃つ話はしてなかっただろ!?」
「そうなのですが、余ってもったいないので撃ちましたぞ! 気持ちよかったですぞ!」
「主婦かお前は!?」
「盛り上がったからいいでしょ?」
セバスチャンとカーマが結託して、無駄玉を打ち上げたようだ。
二人は機嫌よさそうに笑っている。
「これで作業員たちの間で、あなたが魔法を使うと派手でうるさいって印象づけれたよ!」
「ダメな印象だと思うんだが!?」
「魔法使いの印象であることには変わりませんぞ! むしろ悪いイメージのほうが、頭にこびりつきますぞ! 頑固な汚れほど、印象強いものですぞ!」
「俺の力を頑固な汚れにするんじゃない!」
確かに俺の力は地味である。カーマやラークが発生させる、巨大な火や氷に比べれば。
だが悪目立ちすればよいものではないと思うが……。
「ほら! 悪名もまた有名だよ! ねっ!」
カーマが俺の腕をとって、微笑みかけてくる。この笑顔が語っている、面白そうだからやりましたと。
「カーマはいい子だなぁ。そんなカーマが太るのもよくないし、今日のおやつはアイス抜きで」
「ひどい!? ボク太ってないから大丈夫だよ!?」
「いやいや、その慢心がデブの元」
カーマにしょぼい仕返しをして、満足感を得ることにした。
セバスチャン? あいつに下手なことをしたら、百倍で返ってくるから……寝込みに斧くらいは覚悟しないと無理。
それにしても……指パッチン失敗しなくてよかった。業務とか放置して、三日間必死に練習したかいがあったな。
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