32 / 220
レード山林地帯開拓編
第30話 間者対策
しおりを挟む「……間者ってどうやって対策すればいいんだ。忍者部隊でも用意しろってか」
「忍者?」
「いやこちらの話だ」
屋敷の執務室で思わず独り言が漏れてしまい、セバスチャンに尋ねられる。
つい先ほどバフォール領の使者から、フォルン領の情報が他領に漏れていることを知った。
それの対策は急務であるのだが……手段が全く思いつかない。
そもそも難民や新しい民を引き入れているのだ。どうぞ間者さん入ってくださいと言ってるようなもの。
俺が領主になった時のフォルン領人口は百人。今はカール領の接収などもあり五百人まで膨れ上がっている。
土地はだだあまりなのでこれからも人は増やす。ならバフォール領に限らず、他の領地の間者も紛れ込むのは必然。
「やはり間者を見つけた場合、恐ろしい処刑を行うべきでござるな」
「例えば?」
「肥溜めの中で溺死させるでござる」
「……人間の所業じゃないな」
センダイの言葉を想像して思わず身震いしてしまう。そんな死に方、死んでも死に切れんぞ。
処刑した死者が化けて出てきそうだ。
「それと同時に間者が情報を漏らす前に自首すれば、監視の元に許すのでござる」
「許す? 間者を許して何の意味が?」
「間者とて命は惜しいもの。助かる選択肢を与えてやれば、寝返る者も出てくるでござる」
なるほど。バレたら死ぬならば、絶対にバレないようにする。
だが情報を漏洩させる前に、自分から自首すれば助かるとなれば。間者たちに選択肢が生まれるのか。
俺達としては情報が漏洩しなければよいわけだし。
「このセバスチャン、良案がありますぞ。カーマ殿に定期的に住民の心を読んでいただくのです」
「なるほど。領民全員は無理でも、重要な情報を得る者に絞って行うのはアリだな」
セバスチャンの言葉に頷く。
ラークの転移魔法ばかりが目立つが、カーマの心を読む魔法もかなり強力だ。
……カーマもフォルン領に戻って来てくれないかなぁ。頻繁に遊びには来るが、やはり王都に戻ってしまう。
出来ればずっとフォルン領で働いて欲しい逸材だ。可愛いし。
「反撃」
「……こちらも同じことをしろと?」
ラークは小さく頷いた。確かに一方的に情報を盗られるのはよろしくない。
こちらも間者を紛れ込ませれば、向こうの情勢などを得られるか。
問題はそんなことができそうな人間がいないことだが。
間者を完全に防ぐのは無理だよな……重要な情報だけ守っていくしかない。
「とりあえず最新の農具は数を毎日確認しろ。奪われないように」
「御意。今は兵士たちが使ってるだけなので可能でござる」
「酒で譲り渡しそうで不安なんだが」
「不審な酒がないか確認しておくでござる」
「譲ったら十年の間、酒抜きと言い聞かせておけ!」
センダイ配下の兵士は酒で簡単に買収されそうで怖い。
とりあえずやれることだけやろう。ということで、間者対策を行うことにした。
そして新たな作物として、サトウキビの栽培を開始した。
【異世界ショップ】でサトウキビの種を購入し、一部の畑で試験的に育てている。
うまく行けば高級品の砂糖を作れるようになる。そうなればフォルン領は更に金を得る手段を手に入れられる。
金があればレード山林地帯開拓の労働力も得られる。
戦力は……金積んでも手に入るかは分からない。あの魔境は半端な強さの者では役に立たないし。
「レード山林地帯の攻略は……冒険者ギルドのドグルさんに相談してみるか」
「無理と言われるのがオチでござる」
「たんまりと資金を用意できればワンチャンあると思うぞ」
センダイの言葉に反論しておく。半端な者は役に立たないが、トップクラスの冒険者を組ませればレード山林地帯でも通用するはずだ。
大量の金があれば、そんなレベルの高い冒険者の数を揃えられる可能性もある。
「セサル! 着物はどうなっている?」
「試作品がもうすぐ完成サッ!」
セサルは手で髪をかき上げて恰好をつける。
奴には日本の着物を作る様に指示しておいた。貴族は新しい物が好きだし、売れないかなという期待を込めてだ。
無論、何の根拠もなく作らせているわけではない。
「ラーク、完成したら王妃への献上を頼むぞ」
「任された」
ラークは少しだけ機嫌がよさそうに呟く。
実は彼女に着物を見せたところ、「綺麗」との言葉をもらったのだ。この世界の服とは大きく違う造形だし、売れそうなので王妃に献上することにした。
王妃が気に入ればたちまち貴族たちの間で大流行する。
しかも着物は素人が着るのは無理。つまり教える代金も取れるという二重に美味しい服なのだ。
教える相手は超お金持ちばかりなので、謝礼もかなり期待できる。それだけではなく、着物を売ったり着付けを教える過程で友誼を得ることも可能だ。
何ともお得過ぎるので是非うまく流行って欲しい。
「おお、そういえば思い出したのですが。元カール領主なのですが」
「クソデブハゲ商会に引き渡しただろ? その後どうなったかは知らんが」
セバスチャンの疑問に答える。
元カール領主の価値など皆無。すでに領主の座から追われた奴に何ができるというのか。
「実は元カール領の場所で、奴を見かけたと」
「……せっかく助けてやったのに。また余計なことをするつもりか」
「アトラス様に反逆するように元カール領民を煽動したようです。誰も言うことを聞かず、笑いものにされたそうですが」
顔を真っ赤にして地団太を踏む元カール領主が目に浮かぶようだ。
今更あんな奴につく者がいるはずない。元カール領民全員を飢え死させかけた領主だぞ。
フォルン領に接収されてからは、元カール領民たちは最低限食べれるようになっている。わざわざ悲惨な統治をする領主に戻って欲しいわけがない。
俺が領民だとしても従うはずもなく。まさに毒にも薬にもならない……いや待てよ。
バカとハサミは使いよう……。
「アトラス様、下卑た笑みを浮かべてどうされた?」
「汚い」
「ふっふっふ。いいこと思いついた。元カール領主に従うサクラをつけろ」
「……どういうことですぞ? なぜ元カール領主に協力を……?」
セバスチャンは腕を組んで悩みだす。ラークも首を小さくかしげた。
センダイだけは合点がいったようで。
「なるほど。他の領地の間者を、元カール領主に引き寄せるでござるな」
「そうだ。うまくいかないかもしれないが、それならそれで損はない」
元カール領主なんぞ怖くもなんともない。本人にカリスマ性は皆無どころかマイナスだし、魔法を使えるわけでもない。
だがその名だけは有用と考える者もいるだろう。本人のことを知っていれば、絶対に出ない発想だが。
元カール領主を立たせて領内クーデターを起こし、フォルン領の足を引っ張る。というバカげたことを企画する間者も。
我ながら天才的な発想だ。利用価値のない者を役立てるとは。
「発想がセコイ」
「綺麗ごとだけでは領主はやっていけないんだよ」
「違う。純粋にセコイ」
「ラークさんや、俺だって傷つくんだぞ!」
俺の叫びにもラークはどこ吹く風だ。特に反応もなくこちらを見つめてくる。
しばらく俺の目を、その後は手に視線を向けた。
「清潔」
「そりゃそうだろ。毎日手洗いしてるからな! 特注の石鹸やシャンプーも使ってるし」
「違う」
ラークは俺の手を握った後、掌を指で押してくる。
……彼女の手の雪のように冷たい感触が心地よい。ところで俺は何をされているんだ?
指圧マッサージ? なんでいきなり?
混乱する俺をもてあそぶように、ラークは俺の目に再び視線を合わせて。
「貴方は貴族?」
恐ろしい爆弾発言をしてきた。
「き、貴族だ! 誰が何と言おうと貴族だ! なあセバスチャン!」
「そ、そうですぞ! このお方こそアトラス・フォルン・ハウルク様ですぞ! 外野が何と言おうと、血統的には貴族のはずですぞ!」
「ほら聞いたか!? 俺は貴族だ、貴族なんだ! 周囲に認められなくても貴族なんだ!」
「……悲惨」
そう言い放ったラークは、ほんの少しだけ笑った気がした。
「石鹸、興味ある」
「あ、ああ。まあ少しくらいやってもいいが」
「頂戴」
再び話し始めるがラークは無表情のままだった。さっきの笑顔は気のせいか。
特に笑う要素なかったもんな……。嘲笑されるところなら多々あったが。
1
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~
夢幻の翼
ファンタジー
典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。
男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。
それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。
一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。
持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる