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レード山林地帯開拓編

第25話 レード山林地帯調査②

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「オーガの群れでござるよ。雑魚でござるな」
「……なんか俺、オーガがゴブリンに見えてきた」

 遠くに見えるただのオーガの群れに、思わずホッと息をつく。

 レード山林地帯の奥へと進む俺達は、恐ろしい魔物に襲われまくった。

 メガポイズンタランチュラという巨大蜘蛛の群れとか。ミノタウロスの群れとか。

 群れてない奴もクイーンアルラウネやレッドドラゴンとかの、名前だけで強そうな討伐レベルAランクやSランクの化け物ばかり。

 化け物のバーゲンセールにやってきたみたいだ。

 Bランク以下の魔物は確実に群れている。本来なら魔物のボスになるべき存在が、ここでは下っ端に分類されるのだ。

 そんな魔物たちと戦い続けた俺達は、疲労困憊の状態だ。

 カーマやラークもフラフラしながら歩いていて、かなり疲れているように見える。

「……お兄さん、ボク魔力がもうないよ……」
「……私も」
「俺も財力が……」
「「財力?」」
「違う、魔力」

 危ない。【異世界ショップ】のことは隠しておかないと……。

 さっきからバズーカ買いまくって、持ってきた金がなくなってきている。

 RPGの通常攻撃のノリで、バズーカ撃ちまくっていたらこうもなる……。

 【異世界ショップ】の存在を隠すため、魔物の買い取りもしてもらえず減っていくばかりだ。 

 話している間にも、下半身が蛇で上半身が女性の魔物――ゴルゴーンが襲ってきているのだが。

 ゴルゴーンは狂戦士と化したライナさんに殴られて、上半身が消し飛んだ。

「死ね! 死ね! お前たちの存在のせいで! 私はこんなところにぃぃ!」

 更にこっそりと忍び寄っていたミノタウロスが、ライナさんの手で上半身と下半身に引きちぎられる。

「あぁぁぁあぁ! お前たちがいなければ! 私は幸せになれたんだ!」

 魔物よりも恐ろしい咆哮を繰り出しながら、理不尽な怒りをぶつけるライナさん。

 今の叫びでミノタウロスの顔が吹き飛んだな……。
 
 彼女は切り札的な運用にしようと思っていたのだが、温存する余裕などなく暴れさせている。

 俺達に襲い掛かってくる危険性もあったが……幸か不幸か、敵が多すぎる。魔物とひたすら戦ってくれてるので今のところは安全だ。

 というかすごく頼もしい。まさに狂戦士と言った働きぶりは、味方にするとこれほどまでに頼りになるとは。

 ライナさんの化け物じみた暴れっぷりを見ていると、ついにカーマとラークが地面にへたり込んでしまった。

「お兄さん……おぶって……」
「疲労困憊」
「おっし任せ……いや無理だから! ここで俺の両手塞がったら死ぬから!」

 美少女二人が抱き着いてくるのを、鋼の精神で拒否。ただでさえカーマとラークがほぼ戦闘不能だ。

 ここで俺がバズーカ撃てなくなったら死ぬ!

「センダイ! もう無理だ、撤収するぞ!」

 今までずっと黙って歩いているセンダイに叫ぶ。

 奴はいつも通りに酒瓶に口をつけ、ゴクゴクと喉を鳴らした後。

「ふっ。とっくに撤収してるつもりでござる。道に迷い申した」
「道に迷い申した、じゃねえだろ! どうするんだこれ!?」
「大丈夫でござる。拙者、今まで死んだことはござらん。今回も何とかなるでござる」
「そりゃ死んでたらここにいないからな!」

 そもそも酔っ払いに道案内させたのが失敗だった! センダイが自分は何度も冒険の経験があり、地図を見るのもお手の物とかほざいたせいだ!

 重い荷物を運んでいるセバスチャンが鼻息を荒くしながら。

「アトラス様! このセバスチャン、いざとなれば玉砕してまいります!」
「早まるなセバスチャン! お前が玉砕したところで何の役にも立たん!」
「お兄さん、言い方きつすぎる」
「アトラス様……この老いぼれをそこまで心配してくださるとは……!」

 事実だから仕方ない。なおセバスチャンは感動の涙を流している。

 本当にメンタル強いなお前……。

 セバスチャンを見てたら少し落ち着いた。今の状況を極めて冷静に判断しよう。

 カーマとラークが戦闘不能。俺は金が減ってきている。

 ライナさんは暴れまくっているが、たぶんそのうち恨みのパワーを使い果たす。

 そうなれば戦力は俺とセンダイだけ。絶対無理。これまでのキル数を考えても、カーマとラークとライナさんが大部分を占めている。
 
 俺とセンダイはちょこちょこ敵を倒しているだけだ。

 脳裏に全滅の単語がよぎった瞬間、轟音と共に木々が砕ける音が聞こえた。

 その音源に目を移して、俺は絶句する。

 ビルほどの高さを持った人型の立ち上がる姿。その余波で木々が粉砕されていく。

 おいおいおい、もうこれダメだろ。光の巨人とか呼んできてくれ。

「あ、あれってジャイランドじゃ……」

 カーマが巨人を見て茫然としながら呟いた。

 彼女も顔が真っ青になっている。もう魔物の詳細を聞く気も起きない。

 確認するまでもなくあの魔物が化け物なのはわかる。いや無理だろ、万全の状態でも勝てるか怪しいぞ。

 ましてやこんな状態では戦うなど不可能である。 

「全員、声を潜めろ。バレたら終わるぞ……!」

 超小声で注意を叫び、皆頷いて近くの木々に隠れる。あれだけでかい図体だ、俺達のことなどアリ程度に見える。

 大人しくしてればバレるはずが……。

「シネェ! アァァァァアァァァァァァ! 敵、敵はどこだぁ!」

 そんな静寂をかき消すように、ライナさんが近くの魔物を虐殺して空に咆哮を放つ。

 いややめて!? 本当にやめて!? 死ぬから、マジで死ぬから!

「センダイ! あの化け物……いや馬鹿者を止めろ!」
「はっはっは。御意」

 未だかつてない真顔でセンダイは剣を引き抜き、ライナさんの懐に滑り込んで剣の腹でみぞおちを叩く。

 ライナさんは白目を剥いて意識を失い、地面に倒れ伏した。

 俺は思わずセンダイに親指を立てる。よくやった! 

『ウオオオオオオオオォォォォォォ』

 ジャイランドは背筋が凍るような叫びと共に、地面にあおむけに倒れた。

 その衝撃で突風が巻き起こり、俺は木に思わずしがみつき事なきを得た。

 ……危うく吹き飛ばされるところだったぞ。

 改めてジャイランドを見てみると……巨大な寝息が聞こえてきた。

「ふむ……寝たようでござるな」
「……ええい、こんなところにいられるか! さっさと退散するぞ!」
「同感でござるが、退散する術がないでござる」
「術なら買う! ああもう命より大事な物はないな! 【異世界ショップ】開店せよ!」

 周囲の景色が見慣れた地球の飲食チェーン店に。

 レジカウンターで謎のポーズをとっているミーレを見つけると、急いで詰め寄る。

「あ? どうどう? 今日はちょっと露出高めの服で特に胸が……」
「そんなことはどうでもいい! それどころじゃない! ヘリコプターを売れ!」
「そんなこと……それどころ……」

 ミーレは自分の胸を見ながら落ち込む。いいから! 今そういうのいいから!

「頼む! 早くしないと仲間が死ぬから! ヘリコプターはやく!」
「……運転できるの?」
「できん! だが何とかする!」

 為せば成る! というか為せなくてもやるしかない! あの山林にいたら確実に死ぬのだ!

「じゃ、じゃあ最低限の知識だけ脳内にインプットしておくね。その分は料金に加えても」
「いいからはやく!」

 軍用ヘリコプターっぽいのが店内に出現するのを確認した瞬間、俺は【異世界ショップ】から退店する。

「そんなこと……それどころ……」

 最後にミーレがうつろな目をしながら何かを呟いていたのが見えた。

 再び景色が憎きレード山林地帯へと戻る。いち早く俺に気づいたカーマが、ヘリコプターを見て絶句する。

「……なにそれ!?」
「説明は後だ! 乗れ! 扉はこう開けろ!」

 俺が運転席に乗り込むのを見て、他の皆も後部座席の扉を開いて中に飛び込んできた。

 それを確認し、俺はヘリコプターの電源を入れて起動。

「飛ぶぞ!」

 ヘリコプターのプロペラが回り始めて車両が宙に浮く。そしてどんどんと高度を上げていく。

 地上から十メートルほど離れたところで。

「な、なにこれ!? 飛んでる!? こんな巨体が!?」
「ほほう。空を飛びながらの酒も風流でござるな」
「ゴーレム?」

 皆が口々に叫ぶなか、俺はフォルン領に向けて舵を取り飛んでいく。

 そうしてレード山林地帯の上空を抜けた。そして俺の冷や汗はどんどん増えていく。

 呼吸が苦しくなっていく。

「す、すごいね。お兄さん、こんな魔法隠してたなんて」
「……やる」
「アトラス殿、流石でござるな」

 皆が褒めてきている気がするが、言葉が耳に入らない。

「……アトラス様、どうかされましたか?」

 セバスチャンが心配そうに俺を見てくる。俺は観念して……。

「すまん、着陸できる自信がない」
「「「「えっ」」」」

 最終的にカーマとラークが飛行魔術を使えたので、一人ずつ地面に降ろしてことなきを得た。
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