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カール領との対決編
第17話 王都に転移
しおりを挟む「つまり、クソデブハゲ商会の非を全面に押し出すってことだな?」
俺の言葉にラークはうなずいた。
よ、ようやくラークの考えていることが分かった……。
カール領の借金をなくす方法。それを彼女から聞いて理解するのに、恐ろしいほどの時間がかかった。
ラークが断片的にしか話さないのだ。元々口数が少ないタイプではあったが……商人のくせに喋るのが得意ではないって。
話をまとめると、カール領主に金を貸してる商会が悪い。ということで押せばいけそう。
カール領主に大金を貸していたのは、以前に俺と絶縁したクソデブハゲ商会だった。
実際の商会名は知らないし興味もない。
まずクソデブハゲ商会は、カール領主に異常なほどの金を貸している。どう考えても返済が容易ではない額だ。返済能力の確認を怠っていると責める。
次にクソデブハゲ商会は、カール領がフォルン領に負けて賠償金を払うことを知っている。
その状況で更に金に魔法使いまで貸し与えていたのだ。そしてその魔法使いは、フォルン領との戦争に強大な戦力として参加した。実際はクソ雑魚だったがおいておく。
つまりクソデブハゲ商会が間接的に、フォルン領に攻め入ったロジックを展開できる。
あの状況でカール領に魔法使いを貸したのだから、フォルン領に攻め入ることは容易に想像できた。
それに魔法使い自身も戦争参加を拒否できた。
「クソデブハゲ商会を敗北者として認定。更にカール領主の賠償金も、俺達への引継ぎはなしか……完璧な策だ。何よりあの商会に復讐できるのが素晴らしい」
「今後もよろしく」
「もちろんだ」
俺が握手しようと手を差し出すと、ラークは俺の手を黙って見つめたまま動かない。
女性相手に握手はよろしくないのだろうか。
「ら、ラークは恥ずかしがりで……」
何故かカーマが焦るように、フォローをいれてくる。恥ずかしがりって……。
ラークを観察するがベールで顔が隠されていて、表情はわからない。
「ほ、ほらそれにさ! センダイだって防衛隊長なのにお酒飲みまくってるよ! いつも酔っぱらってるよ!」
「ははは。それを突かれるとつらいでござるよ」
「ははは、じゃねーよ。少しは酒をひかえろ」
「無理でござる」
普段よりも遥かに凛々しい声を出すセンダイ。
話を誤魔化せたと思ったのか、カーマがホッと息をついた。
……まあいいけどさ。役に立ってるのは事実だし。ここは誤魔化されたことにしておこう。
「よし。さっそく国王に請願しよう! ことは領地どうしの問題だ、願えば可能だろ! セバスチャン!」
「ははっ! さっそくお伺いに……」
「私が行く」
走り出しかけたセバスチャンを止めるように、ラークがぼそりと呟いた。
セバスチャンはその言葉に足を滑らせて、勢いよく派手に転んで倒れた。
「こ、腰がぁ……!?」
「せ、セバスチャン!?」
腰を押さえて立ち上がれないセバスチャン。ぎっくり腰をやってしまったか。
もう年なのに無理するから……。
「カーマ。貴女も帰る」
「えっ、ボクも!? いやボクはもう少しここに……」
「帰る」
「……はい」
調停者であるカーマに対して、有無を言わさぬ言動。
自由人のはずの彼女がタジタジになって従っている。なんか苦手意識を持ってそうというか。
今まで何かと理由をつけて滞在していたカーマを、一言で王都に帰らせるとは……。
「お兄さん、そういうわけでボク帰るね……」
ものすごく気落ちした声のカーマ。なんか可哀そうだな。
だが彼女のお役目はすでに終わっている。カール領との争いは終了したので、そろそろ言い訳も難しいしな。
カーマがいてくれてすごく助かったし、何かお土産でも渡したいところだ。
「そ、そうか。お前がいてくれてすごく助かった。また時間ができたら遊びに来い」
「うん! またすぐ来るから!」
そう叫びながらラークにズルズルと引っ張られ、カーマは部屋を出て行った。
やれやれ、しばらく寂しくなりそうだな。何だかんだで彼女がいると楽しかったし。
「アトラス様、残念でございますな」
「仕方ないさ。カーマは元々調停でやって来たのだから。それよりも王都に向かう準備だ」
王都まで馬車で二週間かかる。さっさと馬と車を借りなければ。
……そろそろ自前の馬車を持つべきだな。カール領も併せて二百人ほどの領主になったのだ。
馬車の一つも持ってないと知られれば舐められる。
そんなことを考えていると、ラークが部屋に戻って来て俺を指さした。
「忘れ者」
「ん? 俺に何か?」
「王都に向かう」
ラークはそう呟くと、不思議な踊りと共に詠唱を始める。
「道標、道標、道標。我らが道に足はなく、跡さえ残さず道標」
その幻想的な舞いに目を奪われてしまう。
ラークの詠唱に呼応するように、執務室の床に幾何学模様の光――魔法陣が出現する。
センダイが鞘に手をかけて、俺とラークの間に入る。セバスチャンがミノムシのように床を這いつくばって、俺のそばへとやってくる。
どうやら俺を守ってくれているらしい。センダイはともかく、セバスチャンのほうは足手まといだが。
俺はこの魔法陣を発生させているラークに対して。
「ラーク。これはどういうことだ? 敵対する気か?」
「違う。王都に向かう」
「あ、アトラス様! お逃げください! このセバスチャンが身代わりとなりましょう!」
セバスチャンが俺の足にしがみついてくる。いやお前のせいで動けないんだが!?
センダイは剣の鞘に手をかけたまま。何かあれば即座に剣を抜くつもりだ。
くそっ。王都に向かうって何だ!? こんな時にカーマがいてくれれば……いなくなって気づくありがたみ! いや元から気づいてたけど!
落ち着け。ラークは王都に向かうと言った。そして魔法を発動している……これはゲームでよくある転移魔法では!?
「ラーク! 王都に転移するのか?」
「うん」
「お前もう少し言葉を足せ!」
踊りながらコクリと頷いたラークに勢いよくツッコむ。それを聞いたセンダイは鞘から剣を手放した。
セバスチャンはなおもまとわりついてくる。お前、ぎっくり腰なのに随分と動けるな!?
「道標、道標、道標。悲惨な土地から肥沃の土地へ。我らが祈りを届けたまえ」
「誰が悲惨な土地だ! これでも多少はマシになったんだぞ!」
「そうですぞ! アトラス様によってフォルン領は悲惨から悲しい土地くらいにはなりましたぞ!」
「大して変わらない」
「「ごもっともで!」」
ラークの冷静な指摘に肯定する間に、足元の魔法陣の輝きが強くなり周囲が真っ黒になった。
しばらくすると闇から光がさして、周りの景色が見える。
そこはどこかの室内だった。壁や装飾品を見るだけでも、豪華な造りだとわかる。
「こ、ここはどこですぞ!? アトラス様、ご無事でございますか!?」
「ああ……ラーク、ここはどこだ?」
「王城」
ラークは何事もなかったかのように口を開いた。彼女の言葉が本当なら恐ろしい。
転移魔法ってチートだろ……馬車で二週間かかる道が一瞬とか。
ゲームとかやってたころは便利程度の認識だった。だが貴族として暮らしていると、その恐ろしさがはっきり分かる。
商売ならば売り物、戦争ならば物資を簡単に目的地に届けられる。
更に情報も常に最新の物を得ることができる。これが何よりも強い。
メールも電話もないのだ。距離の離れたところと、正確な情報のやり取りを行えるのは強みだ。
「……マジで転移かよ」
「貴方も使えるはず」
「……そんなわけあるか」
否定しつつも思い当たる節がある。【異世界ショップ】で購入する時も、場所を移動しているな。
でもあれって転移なのだろうか……。
まあいい。それは置いておくとしてだ。
「ラーク。お前絶対ただの商人じゃないだろ」
「……気のせい」
「アッハイ」
この期に及んで誤魔化すつもりなのか……呆れて何も言えない俺を放置し、彼女は部屋の扉を開いた。
扉が開かれた先にあった光景に俺は唖然とする。
「よくぞ参った。アトラス・フォルン・ハウルク男爵よ」
豪華絢爛な王の間。傍らに護衛の騎士たちに守られて、玉座に国王が座っていた。
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