上 下
17 / 220
カール領との対決編

第17話 王都に転移

しおりを挟む

「つまり、クソデブハゲ商会の非を全面に押し出すってことだな?」

 俺の言葉にラークはうなずいた。

 よ、ようやくラークの考えていることが分かった……。

 カール領の借金をなくす方法。それを彼女から聞いて理解するのに、恐ろしいほどの時間がかかった。

 ラークが断片的にしか話さないのだ。元々口数が少ないタイプではあったが……商人のくせに喋るのが得意ではないって。

 話をまとめると、カール領主に金を貸してる商会が悪い。ということで押せばいけそう。

 カール領主に大金を貸していたのは、以前に俺と絶縁したクソデブハゲ商会だった。

 実際の商会名は知らないし興味もない。

 まずクソデブハゲ商会は、カール領主に異常なほどの金を貸している。どう考えても返済が容易ではない額だ。返済能力の確認を怠っていると責める。

 次にクソデブハゲ商会は、カール領がフォルン領に負けて賠償金を払うことを知っている。

 その状況で更に金に魔法使いまで貸し与えていたのだ。そしてその魔法使いは、フォルン領との戦争に強大な戦力として参加した。実際はクソ雑魚だったがおいておく。

 つまりクソデブハゲ商会が間接的に、フォルン領に攻め入ったロジックを展開できる。

 あの状況でカール領に魔法使いを貸したのだから、フォルン領に攻め入ることは容易に想像できた。

 それに魔法使い自身も戦争参加を拒否できた。

「クソデブハゲ商会を敗北者として認定。更にカール領主の賠償金も、俺達への引継ぎはなしか……完璧な策だ。何よりあの商会に復讐できるのが素晴らしい」
「今後もよろしく」
「もちろんだ」

 俺が握手しようと手を差し出すと、ラークは俺の手を黙って見つめたまま動かない。

 女性相手に握手はよろしくないのだろうか。

「ら、ラークは恥ずかしがりで……」

 何故かカーマが焦るように、フォローをいれてくる。恥ずかしがりって……。

 ラークを観察するがベールで顔が隠されていて、表情はわからない。 

「ほ、ほらそれにさ! センダイだって防衛隊長なのにお酒飲みまくってるよ! いつも酔っぱらってるよ!」
「ははは。それを突かれるとつらいでござるよ」
「ははは、じゃねーよ。少しは酒をひかえろ」
「無理でござる」

 普段よりも遥かに凛々しい声を出すセンダイ。

 話を誤魔化せたと思ったのか、カーマがホッと息をついた。

 ……まあいいけどさ。役に立ってるのは事実だし。ここは誤魔化されたことにしておこう。

「よし。さっそく国王に請願しよう! ことは領地どうしの問題だ、願えば可能だろ! セバスチャン!」
「ははっ! さっそくお伺いに……」
「私が行く」

 走り出しかけたセバスチャンを止めるように、ラークがぼそりと呟いた。

 セバスチャンはその言葉に足を滑らせて、勢いよく派手に転んで倒れた。

「こ、腰がぁ……!?」
「せ、セバスチャン!?」

 腰を押さえて立ち上がれないセバスチャン。ぎっくり腰をやってしまったか。

 もう年なのに無理するから……。

「カーマ。貴女も帰る」
「えっ、ボクも!? いやボクはもう少しここに……」
「帰る」
「……はい」

 調停者であるカーマに対して、有無を言わさぬ言動。

 自由人のはずの彼女がタジタジになって従っている。なんか苦手意識を持ってそうというか。

 今まで何かと理由をつけて滞在していたカーマを、一言で王都に帰らせるとは……。

「お兄さん、そういうわけでボク帰るね……」

 ものすごく気落ちした声のカーマ。なんか可哀そうだな。

 だが彼女のお役目はすでに終わっている。カール領との争いは終了したので、そろそろ言い訳も難しいしな。

 カーマがいてくれてすごく助かったし、何かお土産でも渡したいところだ。

「そ、そうか。お前がいてくれてすごく助かった。また時間ができたら遊びに来い」
「うん! またすぐ来るから!」

 そう叫びながらラークにズルズルと引っ張られ、カーマは部屋を出て行った。

 やれやれ、しばらく寂しくなりそうだな。何だかんだで彼女がいると楽しかったし。

「アトラス様、残念でございますな」
「仕方ないさ。カーマは元々調停でやって来たのだから。それよりも王都に向かう準備だ」

 王都まで馬車で二週間かかる。さっさと馬と車を借りなければ。

 ……そろそろ自前の馬車を持つべきだな。カール領も併せて二百人ほどの領主になったのだ。

 馬車の一つも持ってないと知られれば舐められる。

 そんなことを考えていると、ラークが部屋に戻って来て俺を指さした。

「忘れ者」
「ん? 俺に何か?」
「王都に向かう」

 ラークはそう呟くと、不思議な踊りと共に詠唱を始める。

「道標、道標、道標。我らが道に足はなく、跡さえ残さず道標」

 その幻想的な舞いに目を奪われてしまう。

 ラークの詠唱に呼応するように、執務室の床に幾何学模様の光――魔法陣が出現する。

 センダイが鞘に手をかけて、俺とラークの間に入る。セバスチャンがミノムシのように床を這いつくばって、俺のそばへとやってくる。

 どうやら俺を守ってくれているらしい。センダイはともかく、セバスチャンのほうは足手まといだが。

 俺はこの魔法陣を発生させているラークに対して。

「ラーク。これはどういうことだ? 敵対する気か?」
「違う。王都に向かう」
「あ、アトラス様! お逃げください! このセバスチャンが身代わりとなりましょう!」

 セバスチャンが俺の足にしがみついてくる。いやお前のせいで動けないんだが!?

 センダイは剣の鞘に手をかけたまま。何かあれば即座に剣を抜くつもりだ。

 くそっ。王都に向かうって何だ!? こんな時にカーマがいてくれれば……いなくなって気づくありがたみ! いや元から気づいてたけど!

 落ち着け。ラークは王都に向かうと言った。そして魔法を発動している……これはゲームでよくある転移魔法では!?

「ラーク! 王都に転移するのか?」
「うん」
「お前もう少し言葉を足せ!」

 踊りながらコクリと頷いたラークに勢いよくツッコむ。それを聞いたセンダイは鞘から剣を手放した。

 セバスチャンはなおもまとわりついてくる。お前、ぎっくり腰なのに随分と動けるな!?

「道標、道標、道標。悲惨な土地から肥沃の土地へ。我らが祈りを届けたまえ」
「誰が悲惨な土地だ! これでも多少はマシになったんだぞ!」
「そうですぞ! アトラス様によってフォルン領は悲惨から悲しい土地くらいにはなりましたぞ!」
「大して変わらない」
「「ごもっともで!」」

 ラークの冷静な指摘に肯定する間に、足元の魔法陣の輝きが強くなり周囲が真っ黒になった。

 しばらくすると闇から光がさして、周りの景色が見える。

 そこはどこかの室内だった。壁や装飾品を見るだけでも、豪華な造りだとわかる。

「こ、ここはどこですぞ!? アトラス様、ご無事でございますか!?」
「ああ……ラーク、ここはどこだ?」
「王城」

 ラークは何事もなかったかのように口を開いた。彼女の言葉が本当なら恐ろしい。

 転移魔法ってチートだろ……馬車で二週間かかる道が一瞬とか。

 ゲームとかやってたころは便利程度の認識だった。だが貴族として暮らしていると、その恐ろしさがはっきり分かる。

 商売ならば売り物、戦争ならば物資を簡単に目的地に届けられる。

 更に情報も常に最新の物を得ることができる。これが何よりも強い。

 メールも電話もないのだ。距離の離れたところと、正確な情報のやり取りを行えるのは強みだ。

「……マジで転移かよ」
「貴方も使えるはず」
「……そんなわけあるか」

 否定しつつも思い当たる節がある。【異世界ショップ】で購入する時も、場所を移動しているな。

 でもあれって転移なのだろうか……。

 まあいい。それは置いておくとしてだ。

「ラーク。お前絶対ただの商人じゃないだろ」
「……気のせい」
「アッハイ」

 この期に及んで誤魔化すつもりなのか……呆れて何も言えない俺を放置し、彼女は部屋の扉を開いた。

 扉が開かれた先にあった光景に俺は唖然とする。

「よくぞ参った。アトラス・フォルン・ハウルク男爵よ」

 豪華絢爛な王の間。傍らに護衛の騎士たちに守られて、玉座に国王が座っていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~

鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」  未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。  国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。  追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...