14 / 220
カール領との対決編
第14話 祭り
しおりを挟むフォルン領は王都のレスタ商会と商売契約を結んだ。
レスタ商会の商会長であるラークは、外套にベールと怪しさ満点だが身分は保証されている。
王城と商売許可証を見せてもらったので、疑うと逆に国への不敬罪になりかねない。
そんな商会が俺達の領地にもたらした恩恵はと言うと……。
「はっはっははは! 笑いがとまらんなぁ!」
「これだけのお金、先代様でも集めたことはありませぬぞ!」
執務室。俺とセバスチャンは、テーブルに置かれた金貨袋を見て下品に笑っていた。
レスタ商会と契約を結んでから三ヵ月が経つが、彼らはアンパンを大量に購入してくれたのだ。値段こそ王城購入価格に比べれば安いが、それでも一つにつき金貨一枚。
そしてうちの領に商隊としてやってくるたびに買ってくれる。
アンパンは【異世界ショップ】で銅貨一枚で購入できるのでぼろもうけだ。
フォルン領にはアンパンを売りさばくルートはないので非常に助かる。
しかも領民に色々と売ってくれるので、物資の不足も解決した。もう万々歳である。
「カール領からの賠償金もあるし、フォルン領は安泰ですな! ささっ! 今日は年に一度の祭りです、アトラス様には音頭を取って頂かないと」
「ああ!」
フォルン領では年に一度、収穫祭が行われる。
田舎の祭りなのでささやかな規模だが、領民たちはかなり楽しみにしていた。
今年は開催しますよね? と様々な者から聞かれたくらいだ。去年はあまりに金がなくて行われなかったらしい。
領主からしたら金のかかるイベントだからな……酒とか多く用意する必要あるし。
去年のおとり潰し一歩前の状態では無理だったのだろう。だが今年は違う、大儲けしているのだから派手にやる。
ここで民衆たちに力を見せつけて、俺の領主としての評判を爆上げするのだ。
俺とセバスチャンは執務室から出て、祭りの会場である広場へと向かう。
そこでは民衆たちが木のカップを持って、今か今かと待ちわびていた。
彼らは俺の姿を確認すると歓声をあげる。
「アトラス様! 早く酒を!」
「今年は飲み放題って聞きましたぜ! 去年の分も飲むんでさ!」
「アトラス様が領主になってよかった! 酒が飲める!」
……いいんだけどさ。俺の評価、ほぼ酒で決まってない?
そんな中センダイが近づいてきて、俺を木で作られた簡易な高台に立つよう促した。
「アトラス殿のお言葉でござる。すぐに、刹那に終わるゆえ、清聴するでござる」
センダイの声に民衆の声が静まり返る。センダイはすでに左手に酒瓶、右手に木のグラスの飲兵衛スタイルだ。
流石の奴も周りに合わせて酒をまだ待ってるらしい。そのせいかさっさと号令を終わらせて、早く酒を飲ませろと血走った目で睨んでくる。
「えーっと。酒のせいで死にたくないから手短に話す。フォルン領はこれから大発展する。そのためにはお前たちの尽力が……」
「長いでござる」
「これでかよ!?」
周囲から笑い声が聞こえる。冗談交じりに酒はよ! と声も。
センダイが俺に酒の入ったグラスを手渡してくる。
「……これからも頼むぞ! 今日は飲み放題だ!」
俺はグラスを空に掲げた後、一気に飲み干した。それを見た民衆たちは雄たけびと共に、持っていた酒を飲み始める。
こうして宴が始まった。
「アトラス様! このサツマイモはうまいですぜ! おひとついかが?」
「ジャガイモを焼いて塩をまぶしたでさ! 食ってけれ!」
「おう! もらおうか!」
領民が開いている出店で、木の棒で刺した焼き芋二種を受け取る。
これらはフォルン領で栽培に成功した芋だ。種芋も自前で用意できたので、これからのフォルン領の名産品になる。
彼らにはお金を払って店をやってもらっている。祭りにはやはり食べ物がなければな。
無礼講なので彼らも酒を飲みながら、楽しそうに芋を焼いていた。
「お兄さん! アイスちょうだい!」
カーマがいつもの外套を着て、俺に駆け寄ってきた。
彼女は三ヵ月経ってもまだフォルン領に滞在していた。調停者のお役目は終わったように思えるのだが、色々と言い訳して居座っているともいえる。
「祭りだぞ? いつも食べるものより、他のを食べればどうだ?」
「他のも食べるけどアイスも欲しい! お祭りで食べるアイスはきっと格別だから!」
カーマの顔は少し紅潮している。おそらく酒を飲んだ後なのだろう。
しかし祭りでカップアイスはいただけない。やはりアレだろう。
俺は領民たちから見えないように、民家の影に移動すると【異世界ショップ】から三色アイスを購入した。
お値段は銅貨三枚。お祭り料金なのか普通のアイスよりも高い。
「何それ? いつもとの違うね?」
カーマは俺の持っているアイス。球状の形をした三色のアイスが、コーンに乗っているものを見て首をかしげた。
ちなみに彼女には【異世界ショップ】のことを少し誤魔化して教えている。
魔法で特殊な物を作ることができる、と。
「祭り用のアイスだ。持ち手部分はコーンって言うんだが、食えるから捨てるなよ」
「えっ、持つところも食べるの?」
「もちろん」
コーンアイスは人類の発明品のひとつだ。なにせゴミが出ないからな。
こういった祭りでゴミが減るのはすごく大きい。
「これ美味しいね! 味も違うからそれぞれ楽しめるし! このコーンと一緒に食べたら、また味わい深くなる!」
「そうだろう。ちなみにおかわりはないから」
「えっ!? なんで!?」
「祭りのアイスは大量に食べるものではない!」
普段あまり食べられないからこそ、祭りのアイスは美味しいのである。
足りないくらいがちょうどよい。
周囲を見回すと領民たちが思い思いに、酒を飲みながら騒いでいた。
「くぅー……、去年はずっと腹空かせてたのが嘘みたいだ!」
「まったくだ! 去年の今頃はどうなることかと思ってたぜ! 餓死者も出そうだったしな!」
「カール領に逃げた奴ら、元気かなぁ。あの時耐えていれば……」
……去年は本当にヤバイ状態だったみたいだな。カール領に逃げた領民までいたのか。
俺もフォルン領に継ぐのを罰ゲームと思っていたし致し方ない。
過去は過去と、振り払うように持っていたグラスの酒を飲み干すと。
「アトラス殿、いい飲みっぷりでござるな。もう一杯、いかがでござるか?」
「センダイか。もらおう」
センダイがグラスを手渡してきたので受け取る。
するとセンダイは両手が手持ちぶさたになっている。すごい違和感だ、常に酒瓶片手なのにこんな宴で酒を手放す?
そう思っているとセンダイは。
「隠れている者、姿を現すでござるよ」
周囲に聞こえるようにそう言い放つ。ん? 隠れている者?
「……ま、待ってくれ! 俺達は違うんだ! 助けてくれ!」
周囲の木陰から三人の男が出てきた。……姿を現す前に身体がちらっと見えていたので、お世辞にもうまい隠れ方ではなかったようだ。
酒で酔っていなければ俺でも気づけたかもしれない。少なくとも暗殺者の類ではなさそうだ。
彼らを観察すると頬がこけていて、身体もやせ細っている。
「お、俺達はカール領の者だ……頼む、食事を恵んでくれ。いや、恵んでください。もう三日もまともに食べてないんだ……」
「作物は全て税で持っていかれて……木の皮を食う生活なんだ!」
「どうか、どうかお慈悲を……!」
彼らの様子を見る限り、嘘をついてるとも思えない。
少し食事を与えると彼らは、自分たちの立場や現在のカール領の様子を語ってくれる。
「フォルン領で祭りが開催されると聞いて、逃げてきたんだ。祭りをできるくらい余裕があるなら、俺達も助けてもらえるかもって……」
「今年は酷い不作の上に……その、フォルン領から作物を盗まれたって話で、残っていた作物も全て領主様に盗られたんだ!」
「もはや食べ物なんて誰も持ってねえ! フォルン領に向かう商隊が、大量の物資を運んでるのを見て、最後の希望とばかりに来たんだ!」
……レスタ商会が俺達に派遣している商隊のことか。
ここに来るのにはカール領を通行するので、見られていてもおかしくない。
しかしカール領はそこまで悲惨なことになっていたとは……確かに今年は酷い不作だが、少しは蓄えがあるはずなのだ。
去年の自転車操業のフォルン領は例外として、まともな領地ならば飢饉に蓄えているはずだ。
うちに払う賠償金を考慮しても、生き地獄までは行かないと踏んでいた。
仮に生き地獄になると理解していたとしても、俺達が賠償金をもらわない選択肢はなかったが。
一方的に攻められたのに、何もせずに許せばフォルン領は全ての領地に舐められる。
生き地獄をフォルン領のせいにされても困る。彼らの身から出た錆だ。
「ここまで余裕がないならば、近いうちにカール領は……」
「再び攻めてくる可能性は高いか。センダイ、新しく雇った兵士たちはどうだ?」
「元々冒険者でござる。すでに実用的な兵士で候」
センダイは薄い笑みを浮かべた。カール領、攻めてくるならば今度は容赦しない。
2
お気に入りに追加
1,340
あなたにおすすめの小説
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します
風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。
そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。
しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。
これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。
※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。
※小説家になろうでも投稿しています。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる