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カール領との対決編
第12話 対策
しおりを挟む「……何であんな領地が隣にあるんだ」
カール領が魔法使いを雇ったとの報告を聞き、頭を抱えて執務室に机に突っ伏してしまう。
魔法使いは雇用にはかなりの費用がかかる。それが最低ランクだとしても。
うちに三年の間、金貨五百枚を払うカール領にそんな余裕はない。
そして魔法使いを雇う理由は大半が軍事目的。つまり俺達を攻めてくる、あるいは魔法使いがいるという脅しに使う。
どちらにしてもろくなことではない。
セバスチャンはそんな俺を見ながら話を続ける。
「どうされますか? ここはカール領を非難しておくべきかと思いますが」
「……そうだな。ムダだとは思うがやってくれ。俺はカーマに相談してくる」
立ち上がって執務室から出ると、カーマの泊まっている部屋に向かった。
ノックして扉を開くと、ソファーに寝転んでくつろいでいるカーマがいた。
今もなお外套やベールをかぶっているので顔は見えない。
「あれ? どうしたの?」
「カール領が魔法使いを雇ったらしい。明らかに何かする気なんだが、調停者の命を違反したとかで処罰できないか?」
「うーん、難しいかな。魔物退治のためにーとか言われるだろうし」
カーマがため息まじりに答える。やはりそうだよなぁ。
しかし明らかに軍備を拡張してきた相手に、文句も言えないとは……。
魔法使いは最低ランクでも大砲みたいなものだ。剣や槍の戦場で大砲があれば、一門だけでも極めて強力な兵器になる。
問答無用で村に砲撃でもされたら防ぐ術がない。カール領が持つにはあまりに危険な代物だ。
「次にカール領がもし攻めてきたら、その時はこちらも一切手加減できない。滅ぼすことを考慮するがいいよな?」
「……そうだね。もし調停者の命を破って攻めてきたなら、もう滅ぼすしかないよ」
「その言葉だけが救いだな。国から援軍もらえたりはしないのか?」
「そしたらフォルン領も損すると思うよ」
本当に理不尽極まりないな……こちらは何一つ悪いことしてないのに。
ここでまた攻めてくるような領地なら、もはや話し合いなど不可能だ。
そんな領地が隣にあるなど放置できない。同じ国の領であるのに、いつ背中から攻められるかわかったものではない。
「大丈夫。何かあってもボクが証言してあげるよ。カール領が暴走しましたって」
「助かるが……カーマはいつまでフォルン領にいるつもりだ?」
彼女がいる間は、カール領からの暴挙は全て国に証言してもらえる。
だが王都に帰ってしまうと証明する者がいなくなる。そして彼女は今回の争いの調停でやってきたのだ。
そろそろ帰ってしまうのではないか。
「しばらくフォルン領に残るよ。ほら調停者として最後まで見届けないとね。他にもえっと……カール領がもし攻めてきたら、国として裁く必要もあるし」
「……なんか言い訳くさくないか?」
「ソ、ソンナコトナイヨー。決してお菓子が美味しいから残ろうって思ってないから!」
明らかに焦っているカーマ。少し声が裏返っている。
どうやらうちの屋敷は喫茶店とでも思われているらしい。
別にいいんだけどな。アイスやアンパン程度なら大した額にはならない。
それより調停者がいてくれるメリットのほうが大きい。
何かあればカール領の悪逆非道を証言してくれるからな。
「そうだな。カール領は滅茶苦茶だし、国の使者がいてくれたほうが助かる」
「でしょ!? だからボクはここにいるんだよ!」
表情が見えなくてもかなり必死に弁明しているのがわかる。
安心しろ、別に追い出したりしないから。
「ちなみにだが、フォルン領が軍備を増強しても問題ないよな?」
「もちろん。カール領の魔法使い雇用だってお金に余裕があるなら、全く問題ないくらいだし」
「わかった。じゃあまた来るよ」
国からお許しを頂いたので、執務室に戻ってセンダイとセバスチャンを呼び寄せた。
「アトラス様、どのようなご用件ですか?」
「軍備に関しての話だ。領民を育てていくつもりだったが事情が変わった。外から兵士を雇うことにする」
「んぐ……それがよいでござろうな。ひっく……隣のカール領は窮鼠、何をしてくるか分からぬ」
センダイが酒をぐびぐびと飲みながら語る。
「そうですな。カール領からの賠償金もありますぞ!」
セバスチャンも反対意見はないようだ。ならば兵士を募集するか、今回は隊長ではなく一般兵なので簡単に集められるだろう。
「じゃあ兵士の集め方や人選はセンダイに任せていいか?」
「心得たでござる。ご安心めされよ、酒豪どもを揃えるでござる」
「いや剣豪とかを揃えてくれ……」
そんなことを離していると扉が開いて、カーマが入って来た。
与えていたアンパンを食べながら。
「話は聞かせてもらったよ! ボクも兵士を集めるのやりたい!」
「なんでだよ……」
「面白そうだもん!」
「帰れ」
カーマは部外者だ。流石にそこまでやらせるわけにはいかない。
しかも彼女は外套やベールを着ての行動を余儀なくされる。どこの世界に身体全体を隠した面接官がいるのか。
どこかの怪しい宗教団体の教主とかかよ。
「そうでござる。調停者殿は門外であろう?」
「でもボクは酔っぱらってないよ。ちゃんと素面で見るよ? 常にお酒におぼれている人に、まともな人選ができるの?」
「はっはっは。これは一本とられたでござるな。アトラス殿、調停者殿の兵士見極め参加の許可を」
「一本とられたじゃねーよ。酒をやめろよ」
なおも酒を飲み続けるセンダイにイヤミを言う。
センダイは俺の視線をガン無視して、持っていた酒瓶を飲み干した。
「調停者殿、実は拙者は好んで酒を飲んでいるわけではないでござる」
「ええっ!?」
こいつは何を言ってるのだろうか。あまりに予想外の発言に真顔になる。
セバスチャンも口を大きく開いて呆けていて、カーマだけが驚いている。
そんな俺達に見向きもせずにセンダイは。
「拙者は酒を飲み続けないと死んでしまう病気なのだ。酒がぬけると手が震えて……ぐっ、酒が足りぬ……苦しい……ぐわぁあ!」
「た、大変! お兄さん! お酒! 早く!」
明らかに演技で胸を抑えて苦しむフリのセンダイ。それを見てカーマは焦って、俺に対して抱き着くように酒を要求してくる。
いや完全に大嘘だろうと思いつつ、少し役得でござる。
「日本酒を所望するでござる」
「日本酒! 何か知らないけど日本酒を早く!」
「何が病気だ、このアル中が」
ツッコミを入れるとセンダイは演技をやめて笑い出した。
カーマはセンダイが演技していたことが分かると、俺に抱き着いたような恰好になってるのに気づいたようで。
「あっ……」
カーマの顔から白い煙があがった。ベールで顔は見えないが、きっとゆでだこのようになっているのだろう。かわいいではないか。
しかし本当に煙があがるのか……心なしか、カーマの体温も暖かく感じる。
いや……待て、なんかこれ本当に熱く……。
「!? あっつ!?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
カーマの身体にすごい熱を感じた直後、彼女は逃げるように俺から離れる。
彼女の全身から白い煙が噴き出ていて、まるで温泉のようになっている。
服越しにカーマに触れていた自分の両腕を見ると、軽いやけどができていた。
「ご、ごめんなさい……炎の魔法が暴発しちゃって……やけどさせちゃった」
「ん? 大丈夫だ、これくらいならすぐ治るし」
後で薬でも塗っておくか。しかしカーマは自分のことを魔法使いと言っていたが、本当のようだな。
心を読むよりも、視覚的に見えることのほうが魔法っぽいし。
俺はエセ魔法使いだからな……都合がいいから【異世界ショップ】の力を魔法と喧伝してるだけだ。
何度も頭を下げてくるカーマに、気にしていないとアイスを渡しつつ。
今後のフォルン領発展計画を練り上げるのだった。
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