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とうとう叙勲編

第91話 これも立身出世……なのか?

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 アミルダ様からの提案である『この国の王になる気はないか?』という言葉。

 それはあまりにも現実離れしていて実感が湧かない。なんか他人の話を聞いているような感覚だ。

 そのおかげか、何となく冷静でいられて頭が回っている気がする。

「あのー……理解が追い付いてないのですが。俺がアミルダ様かエミリさんと婚姻したら、何で俺の負担が少なくなるんですか? むしろ増える未来しか見えないのですが」

 王ともなればこのハーベスタ国を手中に収めるのと同等だ。

 国の半分どころか全部もらうことになるではないか。むしろ負担倍増じゃん。

「……え、えっとだな。王になるのは厳密には少し違うくて、私の伴侶になるというか……」
「アミルダ様、落ち着いてくだされ。王配という制度があってな、国王にはならぬが女王の配偶者になることが可能なのである。そうすればお主とアミルダ様は親族となることで利点があるのだ」

 アミルダ様は少し声を上ずらせる。

 王配というのは女王が結婚してもその旦那を国王にせずに、女王を国の最大権力者のままにする制度だ。

 普通に考えれば女王と結婚した男を国王にする。だがそれだと国のトップが女王からその男になってしまう。

 そうなれば様々な問題が起きるのが容易に想像できるだろう。その問題を避けようとすると女王は結婚しないのがよい! となってしまう。

 それを避けるための仕組みだ。旦那に国王ほどの権力を与えずに、女王を女王のままに扱う制度。

「な、なるほど。それなら俺の負担はあまり増え……ないのですか? 土地をもらったら結局同じなような」
「お、お前に下賜した土地を私が面倒見るのはおかしいが、旦那の土地の内政を妻が手助けするのは当たり前だ!」

 あー……そういうことか。

 俺の領地にアミルダ様が手を入れるのはダメ。それでは彼女の直轄領と何ら変わらない。

 そればかりか部下からこんな悪口が出てくるだろう。

 『褒美として渡した土地にまで口を挟んでくる主君め! 褒美で土地をもらったとしても、あれでは代官と同じではないか!』と。

 下賜した自国の土地には口を挟み過ぎてはダメ、たとえ女王であっても。それはこの世界では常識だ。

 基本的に貴族の土地は国の物。だがその一方で下賜された領地はその貴族の物でもあるのだ。

 地球の話で例えるなら自分がこの土地の購入者なのに、使い方など逐一命じられてはたまらないという感覚か。

 無論、その貴族が自分の土地を荒廃させれば話は別。国王が領地召し上げなどもするが……それは正当な理由ありきだ。

「なるほど……王配ならふんぞり返って、アミルダ様に土地の面倒丸投げしてよいですもんね……」
「ダメ男の類ではあるがそういうことなのである!」

 親族に土地を任せるのは当たり前だ。アミルダ様がいくら内政で口を挟んでも、あくまで身内だからという態が取れる。

 俺が土地を下賜されてアミルダ様が手をいれるのと、実情自体は変わらないけどな。

 外聞というか、外から見て納得できるかどうかの問題である。

「…………」
「な、なんだ?」

 アミルダ様の姿をまじまじと見てみる。

 権力が欲しいかと言われると正直微妙だ。伯爵とか貴族ならよいが、王配まで行くとなんか面倒そうという感覚。

 だがそれに付随するメリット……アミルダ様と結婚できるというのは魅力的に過ぎる。

 紅蓮のように美しい髪、何かあれば折れそうなくらい細身な身体、板のように平坦な胸……は置いておこう。いや俺は嫌いじゃないけど。

「いえ……そういえば婚姻でエミリさんの名前も出ましたが、彼女がここにいないのは大丈夫なんですか? あの人の意見とか聞かずに勝手に決めたらダメなのでは……」

 仮にも俺の婚姻対象として、エミリさんの名前が出ているのだ。

 張本人なのだからここにいるべきではと思うのだが。というか普段はいるのに肝心? な時にだけいないとは。

「構わない。菓子のつまみ食いで捕まえているので、万事決まってからの事後報告でよい。あいつに対応まで甘くする必要はない」
「不憫な……」

 哀れエミリさん。人生の分岐点になり得る場所に居合わせることすら出来ぬとは……。

「それにあいつも貴様に好意を持っている。婚姻を結ぶとなればものすごく喜ぶはずだ」
「それは俺じゃなくて砂糖に好意を持っているのでは?」
「……財力もその者の価値のひとつであろう。そ、それに性格も悪くないとか言っていたはずだ」

 アミルダ様は目を逸らした。

 まあ財力とかも含めてその人の価値なのは普通か。例えばまともに暮らせない超貧乏人と結婚する者はなかなかいないだろう。

 極端だがそれだって財力の話になっているわけで。

 エミリさんの場合は幸せになれる白い粉にハアハア言ってる感じだな! 字面が最悪すぎる。

「まあエミリのことはこの際どうでもよい! まず肝心なのは貴様が私と婚約する気があるかどうかだ!?」

 どうでもよい扱いされているエミリさんなのであった。

 しかしあれだな。以前にバルバロッサさんから、伯爵になった暁にはアミルダ様たちとの婚姻も……という話は出ていた。

 だがまさか伯爵になるのを飛び越して、いきなり王配にならないかと言われるとは思わなかった。

 まああの時はあくまでバルバロッサさんが独断で、自分の意見を話していただけ。

 ようは他愛ない冗談交じりの話ではあった。そのジョークという骨格に、現状の状況を鑑みて肉付けしたら俺が王配に……ということになったのだろうか。

 再度アミルダ様に視線を向けると、彼女は俺の様子を伺って少し焦っている。

「……うーん。そこまでの権力自体に興味はないですが……」

 ……アミルダ様は綺麗な女性、そして俺にとってずっと憧れていた人だった。

 憧れの始まりはアミルダ様がアッシュたちに啖呵を切ってくれたことだ。

 何と言うか本当に救われた気分だった。

 アッシュたちに散々騙されたのはリーズであって俺ではない……だがまるで俺自身が認められたかのように思えていた。

 おそらく心は俺でも、身体はリーズのものだからだろう。身体に染み付いた何かがとかそんな感じだろうか。

 だが女王という立場で対して俺は平民である。

 険しい崖に咲く高嶺の華だとずっと思って来た。そもそも彼女を恋愛対象になど見れなかったのだ。

 だから全く意識もしなかった。恋慕しても無駄だと考えていた。

 それが手を伸ばせば届く場所まで降りてきている……ならば王配になる面倒さを考えてもなお、つかみ取るべきではなかろうか?

 それに……俺の今までの活躍を考えれば、多少の我儘を言ったところで罰は当たらない。

 いやむしろ我儘を言わなかったせいで問題が起きたくらいか。俺が褒美をもらわなかったせいで、アミルダ様が民衆に少し怪訝に思われているのだ。

 軽率過ぎる心構えな気もするが、ここは要望をしっかりと伝えてみるか!

「是非、アミルダ様と婚姻させて頂きたく思います!」
「……わ、私か!? エミリではなく!?」

 アミルダ様はすごく驚いた様子で玉座から立ち上がる。声を荒げて目を大きく見開いている。

「確かにエミリさんも可愛らしいですが……どちらかと言われたら俺はアミルダ様を選びます」
「私よりもエミリの方がよい女だぞ!? 私はこの通り偉そうでおしとやかさなどない! 女らしさも捨てていつも服も男装な上に胸もない! どう考えても男ウケなどしない!」
「そうですかね? それはそれで魅力かと思いますが」

 確かにこの世界でのアミルダ様は、あまり貴族からはモテないだろう。

 女はおしとやかで男の一歩後ろから付いていく、それが求められている女性像だ。

 だがそれはこの世界の話で、俺の好みとはまるで関係がなかった。

 地球だと男装女子とかあるくらいだし、少しボーイッシュな女の子とかすごくよいと思う。

「……ほ、本当に私がよいのか? お前がエミリと婚姻して、その後にあいつに女王の位を渡してお前を王配にすることだって可能で」

 しどろもどろになっているアミルダ様。

 だが彼女は大きな勘違いをしているので、否定しておかねばならない。

「いやあのですね。俺は王配になりたいわけではないのです。アミルダ様と結ばれたいから王配になるのです」
「~~~~っ」

 アミルダ様は床に視線を逸らした。顔がリンゴのように真っ赤になってらっしゃる……そして顔から炎が出た!? 床が燃えてる!?

「いかんのである! アミルダ様の炎魔法が暴発したのである!?」
「水!? 水ー!?」
 
 本当に顔から火を出してどうするんですか!? アミルダ様!?
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