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疾風迅雷のバベル編

第58話 強行軍にはおにぎりを

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 俺とエミリさんは森を大回りして馬防柵の前を通らずに、ハーベスタ国の陣地へと戻った。

 すでにアーガ王国軍は逃げ始めていたので、戦いの趨勢は決したようだ。

 一息ついたアミルダ様の前に立って報告を行っている。

「アミルダ様、戻りました!」
「始終を全て見ていた。よくやってくれたな、お前のおかげで勝利できた」
「叔母様! 私も多少はやりましたよ!」
「もちろんそれも見ていた。お前の新魔法で敵をかく乱できていたな」
「……あれは魔法じゃなくてリーズさんのなんかよくわからないやつです」
「なに? 違うのか?」

 エミリさんが花火を割とエイムよく打ちまくってくれて助かったが、魔法ではないからなぁ……。

 とはいえやはり彼女に任せてよかったようだ。

 アミルダ様ですら魔法と勘違いしたのだから、敵軍は完全に誤解してくれたのだろう。

 何となくだけど火薬の存在はまだ秘匿しておきたい。現状はクロスボウで何とかなっているし取り扱いも難しいからな。

「そういえばバルバロッサと民衆たちはどうした? 何をさせているのだ」
「え? 戻って来てないんですか?」
「森に入ったのを見てそれっきりだ。てっきり貴様が指示していると思っていたのだが」

 バルバロッサさん、いったい何をしているのだろうか。

 まあでもすでに戦いには勝利したからな。少し兵を休ませる必要もあるだろうし、戻って来るまで待てばよいか。

「まあバルバロッサさんなので大丈夫でしょう」
「バルバロッサだからな」
「オジサマですからね」

 抜群の信頼感である。一騎当千は伊達ではないからな、いや本当に。

 民衆たちも万が一の危険すらないだろう。彼らは森に慣れている上にバルバロッサさんを察知して獣たちが一斉に逃げたからな。

 むしろ平時よりも安全になっているだろう。

「リーズよ。今日はこのまま野営して、明日にはモルティ国へと進軍させたい。そのために兵に……」
「美味しい食事を用意しますね」
「任せた。兵糧はパンと米に塩、それにワインに干し肉を持ってきている、自由に使ってよい」
「米も用意できたのですか? まだそこまで出回ってないのでは」
「兵たちの間で人気があるからな。連戦を強いる以上、それくらいはせねば士気も持たぬ」

 流石はアミルダ様、しっかりと兵のことを考えている。

 麦に米に塩、それに干し肉……ようは牛か。

 それらで食事を造るとなると……よし、炊きたてご飯に塩味付けの肉だな!

「承知しました。では失礼します!」

 俺はアミルダ様に頭を下げて陣幕から出ていき、小荷駄の馬車が駐屯している場所に移動した。

 小荷駄隊とは兵站を運ぶ駄馬隊のことである。戦争において兵站とは特に重要なものなので、彼らは物凄く大切な部隊だ。

 アーガ王国では補給部隊は大して重視されてなかったけどな。

 あいつらはリーズの力ありきだったから、補給は滞らないのが当然みたいな感覚だったし。

 まあアーガ王国の補給部隊も腐っていたし、ロクに仕事してなかったから軽視もさもありなん。

「リーズ様、本日は何を作られるのですか?」
「最近は戦いに出るのも楽しみになってきたんですよ。なにせうまいメシが食える!」
「普段の硬いパンより遥かに美味いからなぁ」

 見張りの兵士たちが笑いながら話しかけてくる。

 もうアミルダ様からの伝言も来てないのだろう。俺もすっかり顔パスになったなぁ……。

 ちなみに俺のアイテムボックスで物資の大半は運べるのだが、アミルダ様はそれをよしとしていない。

 俺が倒れるなど不測の事態で使えなくなったら致命傷だからと。

「今日の飯は白ご飯と焼肉! 肉と米の相性は最高!」
「へえそうなんですか。米と言えば海苔とやらをつけるか、塩振って握って食べるものかと思ってましたよ」

 タッサク街では大量の民衆に対して、配給ありきの食事だったからな。

 おかずまで用意する余裕はなかったのでおにぎりばかりだったと。

 あ、ちなみに塩は岩塩を細かく砕いたものだ。実は現代地球でも出回ってる大部分の塩は岩塩だったりする。

「でも肉を焼くと言われても、皿なんて用意してませんよ? どうやって配るんですか?」

 兵のひとりが首を傾げた。
 
 俺の力ならば皿を三千人分用意するのは楽勝だ。何せ地面にはいくらでも素材になる土があるのだから。
 
 土から皿を造れば魔力もほぼ不要だしな。とはいえここで皿を用意するのはおにぎりの素人(?)のやることだ。

 冗談はさておきせっかくなので、おにぎりの可能性をもっと知ってもらおうとしよう。

 俺はクラフト魔法を発動し、近くに置いてある米俵に入った米と干し肉を融合!

 手元に三つのおにぎりを作成して兵士たちに手渡す。

「ほれ、食べてみろ」
「ありがとうございます。塩にぎりですか?」
「食えばわかる」

 兵士たちはおにぎりを一口食べてからうんうんと頷く。

「やっぱりうまいですね、塩むすびは。これなら兵士たちも喜ぶと思います」
「待て、その評価は最後まで食ってから再度聞こう」
「? よくわかりませんが当然全部頂きますよ」

 兵士は更にパクリとおにぎりにかぶりつき、そこでピタリと固まってしまった。

 目を見開いておにぎりを確認した後。

「な、な、中に肉が入ってる!? これうめぇぞ!? 肉汁と米の相性が抜群だ!」
「……そうか! 米は柔らかいしその場で炊いて握れるから、簡単に食べ物を詰め込められるのか!」

 兵士たちは興奮しながらおにぎりを見て叫んでいる。

 なんで誰も思いつかなかったの? と思う人もいるかもしれないが仕方がない理由がある。

 実はまだ米は民間の商会にはほとんど出回ってないのだ。

 基本的には俺子飼いのアミズ商会が配っているのがメインだし、それも米そのものではなく既に握り終えたおにぎりだ。

 民衆は自分で米を炊いてるわけではないので、おにぎりの中に何かを入れるという発想は出てこないだろう。

 それにまだ米は高級品なので、下手に余計なことして不味くしたくもないだろうしな。

「どうだ? 他の兵たちにも配ろうと思うが問題ないよな?」
「文句なんて出るわけありません! 塩にぎりでも泣きわめくくらい喜ぶでしょうに、更にこんな隠し味まであるなんて!」
「それに焼いた肉のよい匂いもたまりませんぞ! んん~! 米と何かを組み合わせるの最高ですぞ!」

 補給部隊のお墨付きも出たので、焼肉おにぎりを配り始めることにした。

 本当なら焼肉のタレ味のほうが良いのかもしれないが、そこはご愛敬である。

 ついでに疲労回復としてワインにD級ポーションも混ぜた。今回は無味無臭なので味は変わらないので問題ない。

「うめぇ! うめぇ!」
「戦場で焼いた肉が食えるの最高だな!」
「……はっ!? おい、アーガ王国軍の死んだ騎馬いるだろ! あいつら捌いて焼いておにぎりに混ぜたらうまいんじゃね!?」
「「「天才かお前!」」」

 ……馬肉と米の相性ってどうなんだろ。

 馬刺ししか食ったことないから分からんが……まあ食えないことはないだろ、肉だし。

 そんなことを考えていると、補給部隊の隊長が俺の元へ走り寄って来た。

「た、大変ですリーズさん! 米が……米が足りません!」
「えっ? いやあの、ちゃんと一日分の兵糧を使ったはず……」
「皆美味しいからっておかわりを要求してきます!? どうしましょう!?」

 ……それは計算外だなぁ!?

 俺は布陣の中にいるアミルダ様の元に、米追加の要望をお願いしに出向いた。

 彼女も美味しそうにおにぎりを食べていた。

「リーズか、これは以前の肉まんと同じような発想だな。だが味などは大きく違うので面白い。それに匂いがよいな、ふむ……匂いか……これは使えるやも」
「アミルダ様! そんなことより米の追加を頂きたいのですが!?」
「ない。アーガ王国軍の馬でも食わせておけ」

 ……仕方がない。馬刺しでも作るか? 
 
 馬って焼いたら美味しいのかなぁ。ジンギスカンとかならよく聞くけど……。

 
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