32 / 134
四国同盟編
第32話 戦場で輝く女
しおりを挟む真っ暗の闇を松明の光が照らし、少なくとも周囲がぼんやりと見えるくらいの明るさはある。
そんな中でハーベスタ傭兵部隊はアーガ王国の陣に向けて進軍していた。
不意をつく夜襲ではない。単に夜に攻撃を仕掛けているだけだ。
ちなみに俺達は最後尾にいて、傭兵たちが逃げ出さないように見張っている……ような雰囲気を醸し出している。
敵軍の兵も陣幕から出てきて、陣形をとって俺達に対して迎撃態勢を取り始めた。
ここまで松明を炊いていれば当然敵軍からも光が見えるしな!
そして更に敵軍との距離がつまっていき、もうすぐ接敵しそうなところまで近づく。
「どうするんですか? このまま戦ったら条件は互角ですし、普通に負けてしまうのでは……」
エミリさんが心配そうに俺に近づいてきた。
そろそろ頃合いかな。俺は【クラフト】魔法で切り札を作成し始めた。
-----------------------------------------------------------
アーガ王国軍騎馬隊の兵士たちは、松明を煌々と焚いて仕掛けてくる相手を馬鹿にして笑っていた。
「おいおい、あいつらバカだろ! 夜襲の癖に松明焚きまくってやがる!」
「意味ねぇ! 意味ねぇ! 夜の闇に紛れられてねぇ! 馬鹿だ! アッハッハ!」
弓兵部隊の兵も同様に相手を見下して笑みを浮かべている。
その一方で……歩兵たちだけは顔を青くして、接近して来る敵に身構えていた。
ハーベスタ国と初めて戦う騎馬隊と弓兵部隊と違い、彼らは二度の敗北で恐怖している。
だがそんな彼らもハーベスタ軍の様子がいつもと違うことに気づいた。
「おい待て。あいつら金属鎧着てないぞ?」
「あの変な弓もない……あの装備の整ってなさは……もしかして傭兵か!」
「…………あれ? 今回は勝てるんじゃね!? こちらは騎馬隊も弓兵部隊もいるんだぞ!?」
気落ちしていた歩兵たちも士気を取り戻し始めた。
今まで散々惨敗していたハーベスタ軍ではなく、傭兵ならば俺達でも勝てるのだと。
「とうとう……とうとうハーベスタ国に攻められる!」
「やった! やっと女を犯せる!」
「今までの恨み、全部ぶつけてやらぁ! 略奪してやる!」
「来るぞ! 敵から目を離さず、背を向けるな! 今回こそ我らが勝てるのだ!」
アーガ王国の兵士たちは槍を構えて、近づいてくるハーベスタ軍を警戒する。
「来るぞ……! 今度こそ俺達が……! 覚悟しやがれ……今までの恨み、全部ぶつけてやるっ!」
確実に詰まっていく距離。
「はっ。盾すら持たずに突っ込んでくるなんてな、バカすぎるだろ」
アーガ王国軍の弓兵部隊が矢を手にとって放つ準備をする。
「歩兵なんぞ俺達騎馬隊が蹴散らしてやる……!」
そして弓兵部隊が矢をつがえて弓を引き絞った瞬間。
「エミリさん、お光りください!」
ハーベスタ軍の最後方から凄まじい光が発生した。
それはつまりアーガ王国軍の真正面から発生し、彼らはその直撃を受けてしまったわけで……。
「め、めがあぁぁぁぁぁ!?」
「な、なんだぁぁぁぁっぁぁぁ!?」
「ヒヒイィィィィィィィィン!?!?!?!?」
あまりの眩しさと驚きで弓兵は全員が弓を手から落としてしまう。
歩兵たちもとても槍を持っていられず手で自分の目を抑えた。
騎兵に至っては悲惨だ。馬が驚きのあまり立ち上って、兵たちは地面に勢いよく振り落とされた。
そして……全員が眩しさで目をくらんだ状態になってしまった。
「今だ! 全員突撃! 叫べ叫べ! 敵を怯えさせて混乱させろっ!」
「「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」」」」」
その混乱に乗じてハーベスタ傭兵部隊は、アーガ王国軍に襲い掛かった!
「ひ、ひぃっ!? みえねぇ!? やめろっ!? やめてくあああああぁぁぁ!?」
「な、なにが起きてあああぁぁぁ!?」
アーガ王国兵は視力が戻らない間にひたすら蹂躙された。
そこまで強い光ではないので、すぐにある程度見えるようにはなったが……すでに戦線は完全崩壊。
二百の精鋭騎馬隊は全員が馬から振り落とされ自滅、完全に接近されたので弓兵など無意味。
しかも隊列も何もあったものではない。敵傭兵にひたすら蹂躙されてもはやどうしようもなかった。
「に、にげろぉ!」
「ゆ、ゆるしてぇ!」
アーガ王国軍の兵士たちは勝手に散り散りに逃げていく。
「し、死ねぇェェェェ! お前の装備をよこせぇぇぇぇぇ!」
またハーベスタ傭兵軍の中で獅子奮迅の活躍をしている者達がいた。
彼らは十人程度であるがとても傭兵とは思えぬ阿吽の連携で、アーガ王国の兵を屠っている。
しかもアーガ王国の手の内を知っているかのように、敵兵の動きを予測して敵を打ち破っていた。
「ひ、ひいっ!? なんだこいつら!? 本当に傭兵か!?」
「いや待て!? あいつらの装備って偽装されてるけど俺達のぎやああああぁぁあ!?」
それもそのはず、この十人の男たちはアーガ王国が忍ばせた密偵だ。
ハーベスタ国は千人の傭兵を寄せ集めたため、当然ながら間者も紛れ込んでいた。
彼らはハーベスタ国の作戦を逐一漏らして、ついでに隙あれば暗殺なども命令されていた。
だが寄せ集め傭兵団の取った作戦は、夜に明かりを焚いて進軍するという漏らす必要もないもの。
その後の光についてはリーズが直前まで誰にも話さず黙っていたので、彼らは知ることが叶わなかった。
つまり密偵としては大失敗で戻っても叱責されるのは目に見えていた。
しかもボルボルの二回の進軍に帯同もしていて、ずっと負けっぱなしで鬱憤も溜まっている。
そんな中で彼らはこの一方的な蹂躙を見て、アーガ王国の不利を悟って瞬時にひらめいたのだ。
『そうだ、ハーベスタ国行こう』と。
「このまま首級をあげてハーベスタ国に仕えるんだ! アーガ王国にいても未来はねぇ!」
「みんな! あそこの茂みに伏兵が忍んでいるぞ!」
「陣幕の中に隠れている兵に気をつけろ! 思ったよりも多いから近づかずに松明で燃やしたほうがいいぞ!」
アーガ王国軍も今回は決して無策ではなかった。
だがエミリフラッシュと、裏切りによる作戦の漏れでフルボッコにされてしまう。
こうして戦いはハーベスタ軍の完全勝利で終わった。
-----------------------------------------------------
無様に逃げていくアーガ王国軍を、俺達は立ち止まって眺めていた。
夜の闇の中で散らばった敵を追うのは難しいからな……それこそ同士討ちする未来しか見えない。
そして今回のMVP、敵軍を無力化して戦場で輝いたエミリさんはと言うと……すごくむくれていた。
「…………」
「いやぁエミリさん素晴らしい活躍でした。今日の勝利は完全にエミリさんのおかげで……」
「…………」
「あのエミリさん、ふくれっ面で黙るのやめてください……」
「……わかります? あの人たち全員、私の方を向いて『目がぁ!』って言ったんですよ!? あんまりじゃないですか!?」
どうやら乙女心を傷つけてしまったようだ。
別にエミリさんの見た目じゃなくて、純粋に光で眩しかっただけなんだけどね。
「しかしこのレンズの魔道具はすごいですね。エミリの光魔法を強化するなんて」
セレナさんが巨大ガラスレンズを見て感心している。
この台付きで地面に立っているガラスレンズ、なんと3m以上の高さを誇るのである。
イメージ的には光源のないスポットライトだろうか? それをエミリさんの前にいくつも並べていた。
ちなみにセレナさんが言った魔道具とは、魔法の力を利用して作動する道具である。まんまである。
「まさかエミリの魔法が大勢に対する攻撃に使えるようになるなんて……よくこんなこと思いつきましたね」
「いやぁ、ちょっとこういう使い方をしている場所を知ってまして」
「……恐ろしい戦場ですね」
……ただのアイドルライブなんですけどね。
あそこで眩しかったスポットライトとかで思いついただけで。
「でもエミリもよかったじゃない。これで『光る煙突』じゃなくなるかも」
「……それは少し嬉しいかも」
「そうですよ。それに敵を撃退したのもエミリさんの手柄ですよ!」
「…………えへへ」
エミリさんも少し機嫌を直してくれたようだ。
「さてと……じゃあ俺はアミルダ様の援軍に行きます。セレナさんは傭兵を見張っておいてください」
「わかりました」
セレナさんは銀雪華の異名を持っていて有名なので、傭兵たちも言うことを聞くはずだ。
「エミリさんはまだ光れるならついてきて欲しいんですが」
「もう魔力切れです」
……電池切れの間違いではと思ってしまったのは内緒だ。
「わかりました、なら俺だけで行きます。後はよろしくお願いしますね!」
俺は魔動車に乗ってアミルダ様たちの元へ急いだ。
なお後日知ることになるのだが、エミリさんの異名は……【眩しい煙突】になった。
6
お気に入りに追加
2,144
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる