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ハーベスタ国に仕官編
第2話 腐り切った国め、覚えていやがれ
しおりを挟む盗賊の集団となり下がった王国軍を放置すれば、今後もこの大陸は酷いことになるだろう。
リーズの手腕によって強化された軍のため、周辺の国に連戦連勝してアーガ王国はどんどんその領地を広げている。
そして侵略された領地の担当もアッシュが統べるのだから、植民地以下の扱いを受けているに決まっていた。
こんなことは終わらせなければならない。リーズが頑張っていたのはこんな地獄を作り出したかったからではない。
それにあのアッシュ、バベル、ボルボルのゴミ共は絶対に許さない。地平線の彼方まで追いかけて復讐してやる。
「そうなると……やはり王国に敵対する国を強化するのがよさそうだな」
王国の暴虐を防ぐにはまともな国に相対してもらうのが一番だ。
現状では王国軍に戦力で渡り合える国はいないが、そこは俺のチート生産能力を使って支援すればよい。
つまり仕官した国を俺の力で富国強兵にしてやるというわけだ。
重要なのはアッシュみたいなゴミが権力を得ることがないように、まともな主君を選んで仕えることだ。
「そうなると王が正しい人間である必要があるわけだが、とりあえず善政を敷いていると評判の国に行ってみるか。ちょうど隣国のハーベスタはよい噂を聞くし……もうすぐ王国に飲み込まれそうだけど」
そうと決まれば善は急げだ。
俺は近くに生えていた大樹に手をつけて【クラフト】魔法を発動。
すると大樹が光り輝いてリアカーに姿を変えた。
人や馬が引っ張るタイプで車輪なども全て木造である。
この【クラフト】魔法は物を好きな形に造り変える力。
対象物が何らかの加工、もしくは進化などで『成れる可能性のある物』にならなんにでも変更可能だ。
対象物はひとつだけではなく鉄やゴムなど複数を混ぜ合わせて、車を作り出すこともできる。
理論上は猿を人間にしたりもできるので、使い方によってはかなりヤバイ代物である。
「とりあえずこの辺の薬草を集めて、S級ポーションにして金を稼ぐか」
さっそく周辺の薬草をむしりまくった。
そして地面を掘って集めた土を【クラフト】で壺に変え、その中に薬草をいれてポーションにする。
壺の中になみなみと金色に輝く水がたまった。
これをリアカーで運んで町まで持って行って売れば、ハーベスタ行きの馬車の運賃になるはずだ。
さっそくリアカーを轢いて運ぼうとするが……やはり重い。壺二つ程度ならいけると思っていたが厳しいようだ。
仕方がないのでそこらの薬草を引き抜き、今度は掌の上で筋力増強ポーションに変異させる。
それを口に含んだらリアカーを軽々と運べるようになった。
……よく考えたらもう少し町の近くで造ればよかったな。
そうして近くの町へついて、ここで唯一の商店に入ってポーションを売ろうとしたのだが。
「このE級ポーションじゃあせいぜい銀貨五枚だな」
商店の親父は俺の持ってきたポーションを見てそう言い放った。
そんなことはあり得ない。E級ポーションは少し疲れが取れる程度の代物だ。
壺になみなみと入ったポーションたちは、俺が毒と怪我で死にかけていたのを治した物と同等。正真正銘のS級。
S級ともなれば小瓶ひとつでも捨て値で金貨数枚はくだらない。
そもそもS級は作れる者がほぼいない伝説級の代物だ。
俺はこのポーションで一財産築いて、それを手土産にハーベスタに仕官する予定なのに。
金色に光る液体であることがS級の証。
これらをE級などポーションのズブの素人ですら言わないだろう。こいつは俺のポーションを買い叩こうとしているのだ。
「そんなバカなことがあるか! どう見てもS級の超高品質ポーションだろうが!」
「あぁ? 文句言うなら他の店に行けよ? ただしこの町じゃうちだけがアッシュ中将からポーション買い取り許可を得ている。それと……ここで売らないなら夜道には気をつけるこったな。仮にS級の超高品質ポーションってなら強盗に狙われるだろうさ」
……ここで売らないなら後で力づくで奪うというわけか。
アッシュは各町の商人に働きかけて、様々な物を売る権利を許可制にしていた。
逆らえば捕縛されて殺されかねない上に、もちろん許可を得るには奴への賄賂が不可欠である。
まさにアッシュが自分の力を強めるための策であり、あいつの権力の働く場所ではまともな商売は成り立たない。
こんな状況で成り上がれる商人もまた、あのゴミと同じように心が腐っている奴で間違いない。実際に俺に脅してきているのだから。
「じゃあ銀貨五枚でいい」
「おお、身のほどを弁えているようだな」
商人はそう告げると俺の足もとに銀貨を投げ捨てた。
「ほれさっさと拾って去ね。またポーション持ってきたら《適正価格》で買い取ってやるよ。ああ、それと他の町に行っても無駄だぞ。お前の人相は伝えておいて、俺以外からの買い取りは不可にしておく」
「…………」
俺は無言で銀貨を拾うと、名残惜しそうなフリをしてポーションの入った壺に触る。
そして店から出て馬車乗り場へと走り出した。
銀貨五枚あればハーベスタ行きの乗り合い馬車には乗れるので、最低限の金は手に入った。
こんな国はもう御免だ。今はさっさと出て行こう。
だがいずれはまともな王国に戻してやる。そんな想いを抱きながら乗り合い馬車に乗るのだった。
あ、それとさっきのクソ野郎に儲けさせるの嫌だったから少し細工しておいた。
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「げっへっへ、バカな野郎だ。大量のS級ポーションを銀貨五枚で手に入れられるなんざ」
商店で店長の男は高笑いをしていた。
さっそくS級ポーションを手に入れたことをアッシュ中将に報告。
更にこの町での自分の権威を高めるため、献上する旨の手紙も出していた。
「これで更にアッシュ中将の覚えがよくなる! これでここの町長は俺だ!」
「アッシュ中将からの使いである。S級ポーションを取りに来たぞ」
商店に入ってきた軍人に対して、店長の男はすごく愛想よく笑いかけた。
「おお、よくぞ来てくださった! この私からの献上ということをなにとぞ忘れずに……」
「勿論だ。今回のS級ポーション入手の件は凄まじく大きい。すでにアッシュ中将は有力貴族たちに配る約束もしていて、貴様は大いに貢献することになる」
「そ、それはつまり……」
「お前をここの町長にしてやる」
店長の男は幸せのあまり破顔して震えだした。
「ありがとうございます!」
「では約束のブツを」
「ははっ! これにございます!」
店長の男は厳重にフタをした二つの壺を指さした。
軍人は頷いてフタを外しその中身を確認し……。
「おい。これはただの水じゃないか!」
「……は? いやS級ポーションで……」
「どこがS級だ! 金色になど光ってないぞ! そればかりかポーションですらないぞ!」
壺の中に入った液体は無色でどう見てもただの水であった。
先ほどまでの絶頂から一転し、店長の男は顔を青ざめて冷や汗を流し始める。
「そ、そんなはずは……!」
「貴様、わかっているのか!? すでにアッシュ様は有力貴族にS級ポーションを配ると宣言した! それが出来なかった場合、あのお方の顔に泥を塗ることになり貴様の首など……!」
「ひ、ひいっ!?」
だが伝説とまで言われるS級ポーションを用意する術など、そうそうあるものではない。
この男は見せしめに縛り首にされ、アッシュもまた貴族からの評価を落とすことになる。
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