80 / 141
第80話 来客
しおりを挟む
翌日の朝。
俺は『彷徨える黒猫亭』の厨房で、レシピの書かれた紙片とにらめっこをしていた。
「ええと、ウコン、クミン、鷹の爪、それにコリアンダーも……と」
俺は片手に持った紙片と見比べながら、厨房の棚から香辛料の入った小瓶をひょいひょいと取り出してゆく。
キッチンカウンターに並べた小瓶は、かなりの数だ。
小瓶から取り出した香辛料はすり鉢とすりこぎでゴリゴリと砕き粉状にしたり、フライパンで炒ったりして仕込み作業を進めてゆく。
とはいえ、基本的には今までやってきた魔物肉の調理と大して変わらない。
違いと言えば、使用する香辛料の数がずっと多いことと、毒抜きの工程が不要な点くらいか。
「ええと、あとはフライパンで溶かしたバターに小麦粉を混ぜて……と」
そうこうしているうちに、『カリー』の『ルウ』が出来上がった。
一応、味見してみる。
「……ふむ。さすがにオバチャンのものと比べるのは、まだ早いか」
……ごくわずかにだが、辛みが弱い。
それに、昨日食べたものに比べると、味の深みも足りない気がする。
香辛料粉末を炒る時間が足りなかったか?
レシピに書かれている香辛料の配合バランスや炒める時間などは、かなりザックリした記述が多い。
『鷹の爪、適量』とか書かれていると、ノウハウのない俺にはどうしようもないからな。
だがまあ、魔物料理で培った勘や技術は『カリー』作りと共通点が多いのは助かった。
どちらも、香辛料の使い方がキモだからな。
だがまあ……ひとまず客に出せるくらいの出来にはなっているとは思う。
なにより、これは初回だからな。
おいおいオバチャンの味に近づけていけばいいだろう。
店の壁にかけてある時計を見れば、開店までまだ時間がある。
市場へ食材の買い付けに行ったペトラさんも、そろそろ帰ってくる頃合いだ。
ここらで、一息つくか。
俺は仕込みの終わったカリーの鍋に蓋をしてから厨房を出た。
「ふう……」
一応、今日の『彷徨える黒猫亭』は昨日と同じ場所だ。
これは料理人である俺まで初日に迷子にならないようにとの気遣いらしいのだが……
店の窓から、外を覗いてみる。
人ひとりが通れるかという細い路地には、人っ子ひとり見えないどころか、猫の一匹すら見かけない。というか、すでに午前も半ばに差し掛かろうとしているのにも関わらず、正面の路地は薄暗い。
これ、今日人来るんだろーか……
立地が立地なだけに一抹の不安が俺の胸をよぎる。
さすがに仕込んだカリーが全部廃棄処分になるのは悲しいからな。
そのときは屋敷で留守番をしているパレルモとビトラを呼んで全部食べてもらうか。
二人には昼食も夕食も準備しておいたが、余裕だろう。
パレルモなんかは『おいしいものは別腹だよー?』とかいって残さず全部食べそうな気がするし。
しかし……
昨日のオバチャンにはほとほと困った。
あのあと、ペトラさんはオバチャンに事情を話したのだが……
『やっぱり、お兄さんだったんだねえ。何でも、凄腕の料理人なんだって? なら、もう味は覚えただろう? じゃあ、明日からよろしく頼むねえ』
などと、店主でもないのにものすごく気軽な様子で俺に丸投げしてきたのだ。
それを当たり前のように了承する本物の店主ペトラさんもペトラさんだが……
ただ、もちろん本当に適当に丸投げしてきたという訳ではないらしい。
オバチャンによれば、俺が旦那に料理を振る舞うその大分前に、すでに目星を付けていたらしいのだ。
詳しく話を聞くと、どうやら最近香辛料屋に出入りするようになった、冒険者と兼業で飲み屋をやっているヤツから俺の話を聞きつけたらしい。
誰だ、それ? 心当たりがない。
ギルドで噂でも出回っているのだろうか。
自分の知らないところで、やたら高評価をされているというのは、正直なんともいえない妙な気分だ。
「ライノさん、ただいま戻りました。仕込みの方は順調ですか?」
そんなことを考えていると、ペトラさんが買い付けから戻って来た。
「ああ。ルウの方はいましがた終わったとこだ」
「ええ? もうですか? ライノさん、カリーの仕込みって今日が初めてですよね!?」
今日一日分の食材を厨房に運びこみつつルウの入った鍋を見て、「確かにもう終わってますね……」と目を丸くするペトラさん。
「確かに初めてだが、香辛料を扱うこと自体はそれなりに経験があるからな」
「そ、そうなんですか。でも、ソフィアさんより早いですよ……」
ペトラさんが感心したようにそう言うが、そんなものだろうか。
あまり実感がない。
だがまあ、たしかに俺は魔物肉を美味しく調理するために、香辛料の適切な使い方や各種の調理法をさんざん研究したからな。
カリーのルウを作るにあたっては、それらを応用したことは間違いない。
家庭料理のみを作ってきたであろうオバチャンとの差は、その辺だろうか。
「とにかく、他の仕込みもさっさと済ませてしまおう」
俺はペトラさんが仕入れてきた食材を厨房に並べると、レシピどおりに処理してゆく。
大きさなどはかなりざっくりした指定だったが、ここは自分の判断でも問題なかろう。
「わ、私も手伝います!」
自分も何かすべきだと思ったのか、ペトラさんも厨房に入り俺の隣で根菜の皮をむき始めた。
手際は……正直いいとは言えない。
というか、かなりたどたどしい。
「ふ、ふー。だ、大丈夫。落ち着くのよペトラ。私だって包丁の扱いくらい、お手の物なんだから……」
そんなことを自分に言い聞かせているが、手元がプルプルしている。
見ているこっちがハラハラしてくるぞ……
そういえば彼女はこの店の主だが、全部を引き継いだのは最近で料理の方は素人同然なんだっけ。
「あの、あとの仕込みは俺が全部やっとくから、ペトラさんは……」
「だ、大丈夫です! 私はここの店主ですから。いくらライノさんが料理上手でも、任せっきりは悪いですっ!」
そう言って、半笑いのような引きつった顔をこちらに向けてくるペトラさん。
つーか汗ダラダラだし、完全に瞳孔が開いているんだが。
完全にテンパってるときのやつだコレ!
「そ、そうか。なら頼むが……」
責任感が強いのはおおいに結構だ。
だが、そんなガチガチで包丁握って手を切らないか……心配だ。
そんなこんなしているうちに、ついに開店の時間がやってきた。
◇
結論から言うと、営業時間内の来客はゼロだった。
「ま、まあ、ここのところはいつも、こんな感じなんですけどね……はあ」
壁に掛かった時計で営業終了を確認したペトラさんが、悲しそうにそう呟く。
「まあ、俺は初日だからな。また明日に期待するよ。食材が無駄になってしまったのは残念だが」
ペトラさんによると、先代のヘルッコ爺さんが厨房に立っていたときは毎日のように来客があったそうだが、それも今は昔。
現在は、数日に一度来客があれば良い方だそうだ。
一応常連はいるらしく、店を畳むつもりはないそうだが……
「……まあ、明日はパレルモとビトラを呼んで、ここで昼食を食べさせるつもりだ。もちろん、二人分の金は払う」
ちょっとしたフォローのつもりでそう言った……刹那。
「ほんとー!? やったービトラちゃん、『カリー』食べ放題だよ!」
「む。ライノは食べ放題とは言っていない。さすがに自重すべき」
バン! と勢いよく扉が開かれ、パレルモとビトラが店内になだれ込んできた。
……えっ。
「い、いらっしゃいませ!?」
「おいお前ら、なんでここまで来たんだ!? 夕食は用意しておいただろ」
確かに残った料理は二人を呼んで食べさせてやろうかとは思ったが、それは明日からの話だ。それに、その話は帰ってからするつもりだった。
つーか、なぜ二人がここにいる?
まさかこいつら、今までこの店の外で張っていたのか……!?
「久しいな、ライノ殿。まさか貴方がこんなところで働いているとはな」
戦慄する俺だったが、聞き覚えのある声が聞こえ我に返った。
半開きになった扉から、見知った顔が覗いている。
「……イリナか。お前もこの店のウワサを聞きつけたのか? 目ざといな」
思わぬ来客だ。
まさかこんな場所で彼女に出会うとは。
「そこにいるパレルモ嬢とビトラ嬢に案内してもらってな。それと、確かに空腹には違いないのだが……残念だが、今はそんな余裕はない」
「そ、そうですか……」
客ではないと判明した途端、ペトラさんがちょっと残念な顔をする。
俺はパレルモとビトラが暇をもてあました末奇行に走ったわけではないと知り、ほっと胸をなで下ろす。
「で? 用事ってなんだ」
しかし、イリナだけで俺を訪ねてくるというのは妙な話だ。
肝心なヤツが、ひとり足りない。
イリナはちらりとペトラさんを一瞥してから、逡巡した様子を見せ……意を決したように口を開いた。
「それは直接見て貰った方が早いだろう。……ライノ殿、外で話せるか」
ペトラさんにいったん断ってから、俺は店を出た。
店に面した細い路地には、所在なさげに佇む小柄な影があった。
フードを目深に被り、厚手のローブを羽織った少女だ。
「ひ、ひさしぶり、にいさま」
イリナと一緒にいるのが誰か?
分からないハズがない。
「おう久しぶりだな、アイラ。治癒魔術の研究は順調か?」
「ええ、おかげさまで。でも、今日はその話をしにきたわけじゃないの。……これを見てもらえるかしら?」
そう言って、アイラは警戒するように何度か辺りを見回したあと……目深に被ったフードをとめくり上げた。
「……! これは……!?」
アイラの白磁のような首元から頬にかけて生える、滑らかな竜鱗。
ふわふわの金髪から突き出した、拗くれた角。
よく見れば、ローブの裾からは尻尾のようなものが見え隠れしている。
「にいさま……これ、どうしよう!?」
涙目のアイラが、そう言ってペタンと地面に崩れ落ちた。
アイラは、半竜半人の――『眷属』状態になっていた。
俺は『彷徨える黒猫亭』の厨房で、レシピの書かれた紙片とにらめっこをしていた。
「ええと、ウコン、クミン、鷹の爪、それにコリアンダーも……と」
俺は片手に持った紙片と見比べながら、厨房の棚から香辛料の入った小瓶をひょいひょいと取り出してゆく。
キッチンカウンターに並べた小瓶は、かなりの数だ。
小瓶から取り出した香辛料はすり鉢とすりこぎでゴリゴリと砕き粉状にしたり、フライパンで炒ったりして仕込み作業を進めてゆく。
とはいえ、基本的には今までやってきた魔物肉の調理と大して変わらない。
違いと言えば、使用する香辛料の数がずっと多いことと、毒抜きの工程が不要な点くらいか。
「ええと、あとはフライパンで溶かしたバターに小麦粉を混ぜて……と」
そうこうしているうちに、『カリー』の『ルウ』が出来上がった。
一応、味見してみる。
「……ふむ。さすがにオバチャンのものと比べるのは、まだ早いか」
……ごくわずかにだが、辛みが弱い。
それに、昨日食べたものに比べると、味の深みも足りない気がする。
香辛料粉末を炒る時間が足りなかったか?
レシピに書かれている香辛料の配合バランスや炒める時間などは、かなりザックリした記述が多い。
『鷹の爪、適量』とか書かれていると、ノウハウのない俺にはどうしようもないからな。
だがまあ、魔物料理で培った勘や技術は『カリー』作りと共通点が多いのは助かった。
どちらも、香辛料の使い方がキモだからな。
だがまあ……ひとまず客に出せるくらいの出来にはなっているとは思う。
なにより、これは初回だからな。
おいおいオバチャンの味に近づけていけばいいだろう。
店の壁にかけてある時計を見れば、開店までまだ時間がある。
市場へ食材の買い付けに行ったペトラさんも、そろそろ帰ってくる頃合いだ。
ここらで、一息つくか。
俺は仕込みの終わったカリーの鍋に蓋をしてから厨房を出た。
「ふう……」
一応、今日の『彷徨える黒猫亭』は昨日と同じ場所だ。
これは料理人である俺まで初日に迷子にならないようにとの気遣いらしいのだが……
店の窓から、外を覗いてみる。
人ひとりが通れるかという細い路地には、人っ子ひとり見えないどころか、猫の一匹すら見かけない。というか、すでに午前も半ばに差し掛かろうとしているのにも関わらず、正面の路地は薄暗い。
これ、今日人来るんだろーか……
立地が立地なだけに一抹の不安が俺の胸をよぎる。
さすがに仕込んだカリーが全部廃棄処分になるのは悲しいからな。
そのときは屋敷で留守番をしているパレルモとビトラを呼んで全部食べてもらうか。
二人には昼食も夕食も準備しておいたが、余裕だろう。
パレルモなんかは『おいしいものは別腹だよー?』とかいって残さず全部食べそうな気がするし。
しかし……
昨日のオバチャンにはほとほと困った。
あのあと、ペトラさんはオバチャンに事情を話したのだが……
『やっぱり、お兄さんだったんだねえ。何でも、凄腕の料理人なんだって? なら、もう味は覚えただろう? じゃあ、明日からよろしく頼むねえ』
などと、店主でもないのにものすごく気軽な様子で俺に丸投げしてきたのだ。
それを当たり前のように了承する本物の店主ペトラさんもペトラさんだが……
ただ、もちろん本当に適当に丸投げしてきたという訳ではないらしい。
オバチャンによれば、俺が旦那に料理を振る舞うその大分前に、すでに目星を付けていたらしいのだ。
詳しく話を聞くと、どうやら最近香辛料屋に出入りするようになった、冒険者と兼業で飲み屋をやっているヤツから俺の話を聞きつけたらしい。
誰だ、それ? 心当たりがない。
ギルドで噂でも出回っているのだろうか。
自分の知らないところで、やたら高評価をされているというのは、正直なんともいえない妙な気分だ。
「ライノさん、ただいま戻りました。仕込みの方は順調ですか?」
そんなことを考えていると、ペトラさんが買い付けから戻って来た。
「ああ。ルウの方はいましがた終わったとこだ」
「ええ? もうですか? ライノさん、カリーの仕込みって今日が初めてですよね!?」
今日一日分の食材を厨房に運びこみつつルウの入った鍋を見て、「確かにもう終わってますね……」と目を丸くするペトラさん。
「確かに初めてだが、香辛料を扱うこと自体はそれなりに経験があるからな」
「そ、そうなんですか。でも、ソフィアさんより早いですよ……」
ペトラさんが感心したようにそう言うが、そんなものだろうか。
あまり実感がない。
だがまあ、たしかに俺は魔物肉を美味しく調理するために、香辛料の適切な使い方や各種の調理法をさんざん研究したからな。
カリーのルウを作るにあたっては、それらを応用したことは間違いない。
家庭料理のみを作ってきたであろうオバチャンとの差は、その辺だろうか。
「とにかく、他の仕込みもさっさと済ませてしまおう」
俺はペトラさんが仕入れてきた食材を厨房に並べると、レシピどおりに処理してゆく。
大きさなどはかなりざっくりした指定だったが、ここは自分の判断でも問題なかろう。
「わ、私も手伝います!」
自分も何かすべきだと思ったのか、ペトラさんも厨房に入り俺の隣で根菜の皮をむき始めた。
手際は……正直いいとは言えない。
というか、かなりたどたどしい。
「ふ、ふー。だ、大丈夫。落ち着くのよペトラ。私だって包丁の扱いくらい、お手の物なんだから……」
そんなことを自分に言い聞かせているが、手元がプルプルしている。
見ているこっちがハラハラしてくるぞ……
そういえば彼女はこの店の主だが、全部を引き継いだのは最近で料理の方は素人同然なんだっけ。
「あの、あとの仕込みは俺が全部やっとくから、ペトラさんは……」
「だ、大丈夫です! 私はここの店主ですから。いくらライノさんが料理上手でも、任せっきりは悪いですっ!」
そう言って、半笑いのような引きつった顔をこちらに向けてくるペトラさん。
つーか汗ダラダラだし、完全に瞳孔が開いているんだが。
完全にテンパってるときのやつだコレ!
「そ、そうか。なら頼むが……」
責任感が強いのはおおいに結構だ。
だが、そんなガチガチで包丁握って手を切らないか……心配だ。
そんなこんなしているうちに、ついに開店の時間がやってきた。
◇
結論から言うと、営業時間内の来客はゼロだった。
「ま、まあ、ここのところはいつも、こんな感じなんですけどね……はあ」
壁に掛かった時計で営業終了を確認したペトラさんが、悲しそうにそう呟く。
「まあ、俺は初日だからな。また明日に期待するよ。食材が無駄になってしまったのは残念だが」
ペトラさんによると、先代のヘルッコ爺さんが厨房に立っていたときは毎日のように来客があったそうだが、それも今は昔。
現在は、数日に一度来客があれば良い方だそうだ。
一応常連はいるらしく、店を畳むつもりはないそうだが……
「……まあ、明日はパレルモとビトラを呼んで、ここで昼食を食べさせるつもりだ。もちろん、二人分の金は払う」
ちょっとしたフォローのつもりでそう言った……刹那。
「ほんとー!? やったービトラちゃん、『カリー』食べ放題だよ!」
「む。ライノは食べ放題とは言っていない。さすがに自重すべき」
バン! と勢いよく扉が開かれ、パレルモとビトラが店内になだれ込んできた。
……えっ。
「い、いらっしゃいませ!?」
「おいお前ら、なんでここまで来たんだ!? 夕食は用意しておいただろ」
確かに残った料理は二人を呼んで食べさせてやろうかとは思ったが、それは明日からの話だ。それに、その話は帰ってからするつもりだった。
つーか、なぜ二人がここにいる?
まさかこいつら、今までこの店の外で張っていたのか……!?
「久しいな、ライノ殿。まさか貴方がこんなところで働いているとはな」
戦慄する俺だったが、聞き覚えのある声が聞こえ我に返った。
半開きになった扉から、見知った顔が覗いている。
「……イリナか。お前もこの店のウワサを聞きつけたのか? 目ざといな」
思わぬ来客だ。
まさかこんな場所で彼女に出会うとは。
「そこにいるパレルモ嬢とビトラ嬢に案内してもらってな。それと、確かに空腹には違いないのだが……残念だが、今はそんな余裕はない」
「そ、そうですか……」
客ではないと判明した途端、ペトラさんがちょっと残念な顔をする。
俺はパレルモとビトラが暇をもてあました末奇行に走ったわけではないと知り、ほっと胸をなで下ろす。
「で? 用事ってなんだ」
しかし、イリナだけで俺を訪ねてくるというのは妙な話だ。
肝心なヤツが、ひとり足りない。
イリナはちらりとペトラさんを一瞥してから、逡巡した様子を見せ……意を決したように口を開いた。
「それは直接見て貰った方が早いだろう。……ライノ殿、外で話せるか」
ペトラさんにいったん断ってから、俺は店を出た。
店に面した細い路地には、所在なさげに佇む小柄な影があった。
フードを目深に被り、厚手のローブを羽織った少女だ。
「ひ、ひさしぶり、にいさま」
イリナと一緒にいるのが誰か?
分からないハズがない。
「おう久しぶりだな、アイラ。治癒魔術の研究は順調か?」
「ええ、おかげさまで。でも、今日はその話をしにきたわけじゃないの。……これを見てもらえるかしら?」
そう言って、アイラは警戒するように何度か辺りを見回したあと……目深に被ったフードをとめくり上げた。
「……! これは……!?」
アイラの白磁のような首元から頬にかけて生える、滑らかな竜鱗。
ふわふわの金髪から突き出した、拗くれた角。
よく見れば、ローブの裾からは尻尾のようなものが見え隠れしている。
「にいさま……これ、どうしよう!?」
涙目のアイラが、そう言ってペタンと地面に崩れ落ちた。
アイラは、半竜半人の――『眷属』状態になっていた。
0
お気に入りに追加
1,006
あなたにおすすめの小説
パーティから追放された雑用係、ガチャで『商才』に目覚め、金の力で『カンストメンバー』を雇って元パーティに復讐します!
yonechanish
ファンタジー
雑用係のケンタは、魔王討伐パーティから追放された。
平民に落とされたケンタは復讐を誓う。
「俺を貶めたメンバー達を最底辺に落としてやる」
だが、能力も何もない。
途方に暮れたケンタにある光り輝く『ガチャ』が現れた。
そのガチャを引いたことで彼は『商才』に目覚める。
復讐の旅が始まった!
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
七瀬美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
のろま『タンク』と言われ馬鹿にされた「重戦士」───防御力をMAXにしたら「重戦車」(ティーガーⅠ)に進化した
LA軍@9作書籍化(@5作コミカライズ)
ファンタジー
勇者パーティで壁役(前衛タンク職)のアルガスは、不遇な扱いを受けている。
中堅冒険者で年長でありながら、肉壁タンクになれといわれてしまい、貴重なポイントを無理やり防御力に極振りさせられた。
そのため、足は遅く、攻撃力は並み。
武器も防具も、「タンク」のための防御一辺倒のクソ重い中古品ばかり。
ある日、クエストの大失敗から魔物の大群に飲み込まれたパーティ。
リーダーはアルガス達を置き去りに逃げ出した。
パーティのために必死に防戦するアルガスであったが、囮として捨てられた荷物持ちの少女を守るため孤立してしまう。
ただ一人、少女を守るため魔物に集中攻撃されるアルガス。
彼は最後の望みをかけて、残ったステータスポイントを防御力に全て注いでマックスにした──────。
そのとき、奇跡が起こる。
「重戦士」から進化、彼は最強の存在…………「重戦車」にランクアップした。
唸る700馬力エンジン!
吼える88mm戦車砲!!
ティーガーⅠ化したアルガスが魔物をなぎ倒し、最強の戦車に変身できる強者となって成り上がる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる