77 / 141
第77話 パンに肉を挟んで喰らう。これ全にして一なり
しおりを挟む
昼飯は、旦那が店番をする必要があるということもあり、一階の事務所で取ることになった。
俺は二階に引き返すと、用意していた料理の前で爛々と目と口元を光らせ牽制し合っていた二人をどうどう、と引き離し、料理を持って一階に戻った。
「お待ちどおさん。人数分あると思うが、足りなかったら言ってくれ。パレルモとビトラも、待たせたな。ここで一緒に食べよう。ペトラさん、俺の連れも一緒しても構わんか?」
「……ええ、構いませんよ。食事は、大勢で囲んで食べる方が美味しいですから。可愛らしいお嬢さんが増えるのでしたらむしろ大歓迎ですよ」
にこりと、二人に笑顔を振りまくペトラさん。
「ならよかった」
取り急ぎペトラさんにパレルモとビトラを簡単に紹介し、事務所のテーブルに料理を並べてゆく。
「ほおーい。や、やっと食べられるよ……」
「む。この瞬間を待ちわびていた」
黄昏れたような表情で、魂が漏れ出てきそうな声を絞り出す巫女さま二人。
どんだけ必死に食欲に耐えていたんだこいつらは……
「ほおー、これは……牛ステーキと野菜をパンに挟んだのか。屋台なんかじゃ、よくあるヤツだが……」
旦那が待ちかねたように料理を一つ手にとり、まじまじと眺め……ばくりと食らいついた。
「……はぐっ。おほー、ほふっ、たまらんっ! この分厚く切ってあるのに中までほどよく火が通った牛肉……それに、柔らけえっ! ……ほう、これはバターと塩胡椒以外に……ふわりと香るのはクローブにナツメグ、それにコリアンダーか。ガーリックも香る。どれも肉の旨味を引き立てる香辛料だ。さらには……ほう、パンの裏にはバターと共にごく少量のビネガーを塗っているなッ!? おまけにパリパリの生野菜が食感のコントラストが生まれてッ! 口の中に楽しさが溢れてくるぜッ!! ライノお前、よーく分かってるじゃねーか!」
旦那は口にあるヤツを全部飲み込んでから食レポしようか!
グッ! と親指を上に向けて俺を称えるのはいいが、そのうち舌噛むぞ。
ちなみにオバチャンの買ってきたフィレ肉ブロックは全部使った。
旦那、許せ。
一方、巫女さま二人といえば……
「もうがまんしなくていいよね……わたし、『ごーる』してもいいんだよね……」
「む。パレルモはとても頑張った。だから、先に食べる資格がある。でも……私もすぐにパレルモの後を追う」
謎の茶番を演じていた。
腹減っている割には余裕じゃねーか。
いいからさっさと食え。
そんな俺の気持ちが伝わったのか伝わらなかったのかは分からないが、パレルモとビトラがパクッと一口料理を囓った。
「うん、ありがとう……もぐ……おいしい……」
「む。もぐ……美味……」
二人とも同時にじんわりとした顔になった。
美味かったらしい。
まあ、そこまで美味しそうに食べてくれるならば、作る甲斐があるというものだ。
「なるほど……このように具材をパンに挟み込めば、食事の時間も短縮できますし、手も汚れませんね。野外で食事をすることが多い冒険者ならではの知恵、ということでしょうか」
一方ペトラさんはキリッとした顔で料理を手にとり、まじまじと眺めている。
やはりその道のプロらしく、俺なんかの料理にも何かと見るべきところがあるらしい。
なんだか、照れるな。
とはいえ、この手の料理は普通に屋台とかで売っているし、なんならそのへんの宿屋などでも朝食としては定番の料理だ。
もちろん冒険者の専売というわけではない。
……なるほど。
彼女はプロだからこそ、あえて当然のことを再確認しているのかもしれない。
その辺りの深い考えについては、俺も彼女を計りきれないところがあるようだ。
なにしろ、隠れ名店の店主だからな。きっとそうに違いない。
ペトラさんはしばらく真剣な表情で料理を眺めたあと、ぱくっとかぶりついた。
「……にゃっ、おいしっ」
金色の目を大きく見開き、そうぽつりと呟く。
……んん?
彼女のクールな見た目からかけ離れた、ずいぶんと可愛らしい声が聞こえた気がするが、気のせいだろうか。
思わずペトラさんの顔を見る。
相変わらず、凜とした美しい顔立ちである。
美味いものを食べたとしても、クールに「……ふむ」とか言いそうな顔だ。
やはりさっきのは、俺の空耳だったのかも知れない。
最近いろいろあったからな。
日頃の疲れがどっと出たとかそういう感じなのだろう。
自覚はないが、きっとそうだ。
さて、俺も腹が減っている。
せっかく自分で作った料理を食べられないのは悲しいからな。
ちなみにパレルモとビトラはよく食べるので、きちんと二人用にたくさん盛った皿を用意して隔離してあるから大丈夫だ。
料理を一つ手に取る。
牛肉は厚切りにしただけあって、パン越しにもずっしりとした量感が手に伝わってくる。
息を吸い込むと、ほどよく火の通った厚めのステーキ肉や香辛料、それにパンの裏に塗ったバターの芳醇な香りが渾然一体となって鼻腔を吹き抜けてゆく。
……うむ。
大きく口を開き、がぶりと一口。
豪快に咀嚼すると、たっぷりとした肉の厚みが生み出す贅沢な噛み応えが否応なく俺の満足感を高めてゆく。
噛めば噛むほど染み出す肉の滋味。
口の中で弾ける、鮮烈な香辛料の香り。
バターの芳醇で暖かみのある舌触り。
シャキシャキとした歯ごたえとの葉野菜の爽やかな噛み心地。
それらが複雑に絡み合い、多層的な味と食感のコントラストを生み出してゆく。
美味い。
旦那の食レポは的確だったようだ。
『貪食』の力がある限り魔物肉を摂取することは止められないが、これからは普通の食材のみで調理する機会を増やしてもいいかもしれないな。
◇
「ふー。ご馳走様でした」
最後の一欠片をごくりと飲み込んだペトラさんが、満足そうな顔で息を吐いた。
「気に入ってもらえたようで、なによりだ」
「いえいえ、本当に美味しかったです。それにしても、ハーバートさんはやはり凄いですね。これほどの腕前の料理人とお知り合いだったなんて……」
「ま、まあな! 実のところ、俺も想像以上の美味さに驚いているところでな。ライノ、まさかお前がここまで『やる』思わなかったぞ」
ハーバートの旦那が腕組みをしながら、なにやらウンウンと頷いている。
つーか旦那、そういえば無駄にカッコイイ名前だった。
完全に忘れてたが。
そんな香辛料屋の主ことハーバートさんが話を続ける。
「確かに、料理自体に特別なところはねえ。ウチのやつが出す肉料理に比べて倍は分厚い肉ではあったが……それだけだ。だが、本質はそこじゃねえ」
「ええ、確かにあの厚みには冒険者の矜持が宿っていました」
ペトラさんもウンウンと深く賛同している。
特に冒険者の矜持なるものは込めた覚えはないが、それは言わぬが花だ。
さらに旦那が続ける。
「あの絶妙な肉の火の通り具合に旨味と風味を殺さないギリギリの綱渡りみてーなスパイス使い……一体どこで体得したんだ? 依頼の合間に料理番をただこなすだけの冒険者じゃ、ここまでレベルの高い料理を作れるわけがねえ!」
「そうですね。私にも是非教えて欲しいくらいです」
「お、おう?」
興奮気味に語り出す旦那とこくこくと大きく何度も頷くペトラさん。
正直そこまでベタ褒めだと、かなり気恥ずかしいぞ。
さきほど作ったのは、本当にありふれたパン料理なのだ。
特別なところなんて、何もないのだ。
もちろん肉の火の通り具合や塩、香辛料などは俺なりに食材にとってベストな状態を見極めたうえで調節しているつもりではある。
だが、それは料理を作る者ならば当然のことじゃないのか?
強いて俺が他の連中より秀でていそうな点を上げるとすれば……
それは魔物料理だろうか。
俺には、ダンジョンの奥底でクソ不味い魔物肉をどうにかするためにあらゆる調理法を試した経験値がある。
あの悪戦苦闘は、間違いなく俺の血肉となっているのだろう。
正直、パレルモとビトラは俺が作るものなら何でも喜んで食べてくれるから、特段料理スキルが高いとか、そういう実感がなかったからな。
もちろん彼女たち以外の連中に食わせた時も美味いと言ってくれはした。
だがそれは、依頼で山を歩きづめのクタクタのグダグダ状態で何を口に入れても「ウマい」以外のセリフが出てこない状況であったり、比較対象がダンジョン内で食べる行動食だったりとイマイチ客観的と言い切れる状況ではなかったからな。
そういう意味では、二人は食のプロだ。
だからまあ、多少は良い気分になっても構わないだろう。
……そう思うことにする。
「で、だ。ライノ、ものは相談なんだが……」
ひとしきり俺を称えまくったハーバートこと旦那が、急に真剣な顔になって話を切り出してきた。
「実は、『彷徨える黒猫亭』の先代のへルッコ爺とはウチとは長年の付き合いでな。ヤツとはよく酒を飲み交わす仲……だった」
そう言うと、旦那が暗い顔になった。
「まあ早い話、ここにいるペトラちゃんは、爺の孫娘でな。つい最近店を引き継いだばかりなんだわ。一応彼女は小さい頃から店を手伝っていただけあって、接客や店の経営についてはまずまずうまく回っている。だが、料理の方は爺が全部仕切っていてな。要するに、今のペトラちゃんは料理の素人同然なんだわ。爺の孫だけあって、筋は悪くねえんだがな」
「……残念ですが、ハーバートさんのおっしゃる通りです」
ペトラさんもそう言って目を伏せ、深いため息を吐いた。
確かに反応がその道の人間らしくない感じがしたが、料理人見習いだったとは。
「で、なんだ? 相談っつーのは」
ここまでお膳立てされていて察しが付くも付かないもあったものではないのだが、あえてそう聞くのは……まあ、お約束というものだ。
「ライノ。お前の料理の腕を見込んで、頼みがある。『彷徨える黒猫亭』で料理人をやってくれないか? だまし討ちみたいな形で悪いとは思ってはいるんだが……代わりが見つかるまでの間だけでもいい。もう、頼めるのがお前しかいねえんだ」
俺は二階に引き返すと、用意していた料理の前で爛々と目と口元を光らせ牽制し合っていた二人をどうどう、と引き離し、料理を持って一階に戻った。
「お待ちどおさん。人数分あると思うが、足りなかったら言ってくれ。パレルモとビトラも、待たせたな。ここで一緒に食べよう。ペトラさん、俺の連れも一緒しても構わんか?」
「……ええ、構いませんよ。食事は、大勢で囲んで食べる方が美味しいですから。可愛らしいお嬢さんが増えるのでしたらむしろ大歓迎ですよ」
にこりと、二人に笑顔を振りまくペトラさん。
「ならよかった」
取り急ぎペトラさんにパレルモとビトラを簡単に紹介し、事務所のテーブルに料理を並べてゆく。
「ほおーい。や、やっと食べられるよ……」
「む。この瞬間を待ちわびていた」
黄昏れたような表情で、魂が漏れ出てきそうな声を絞り出す巫女さま二人。
どんだけ必死に食欲に耐えていたんだこいつらは……
「ほおー、これは……牛ステーキと野菜をパンに挟んだのか。屋台なんかじゃ、よくあるヤツだが……」
旦那が待ちかねたように料理を一つ手にとり、まじまじと眺め……ばくりと食らいついた。
「……はぐっ。おほー、ほふっ、たまらんっ! この分厚く切ってあるのに中までほどよく火が通った牛肉……それに、柔らけえっ! ……ほう、これはバターと塩胡椒以外に……ふわりと香るのはクローブにナツメグ、それにコリアンダーか。ガーリックも香る。どれも肉の旨味を引き立てる香辛料だ。さらには……ほう、パンの裏にはバターと共にごく少量のビネガーを塗っているなッ!? おまけにパリパリの生野菜が食感のコントラストが生まれてッ! 口の中に楽しさが溢れてくるぜッ!! ライノお前、よーく分かってるじゃねーか!」
旦那は口にあるヤツを全部飲み込んでから食レポしようか!
グッ! と親指を上に向けて俺を称えるのはいいが、そのうち舌噛むぞ。
ちなみにオバチャンの買ってきたフィレ肉ブロックは全部使った。
旦那、許せ。
一方、巫女さま二人といえば……
「もうがまんしなくていいよね……わたし、『ごーる』してもいいんだよね……」
「む。パレルモはとても頑張った。だから、先に食べる資格がある。でも……私もすぐにパレルモの後を追う」
謎の茶番を演じていた。
腹減っている割には余裕じゃねーか。
いいからさっさと食え。
そんな俺の気持ちが伝わったのか伝わらなかったのかは分からないが、パレルモとビトラがパクッと一口料理を囓った。
「うん、ありがとう……もぐ……おいしい……」
「む。もぐ……美味……」
二人とも同時にじんわりとした顔になった。
美味かったらしい。
まあ、そこまで美味しそうに食べてくれるならば、作る甲斐があるというものだ。
「なるほど……このように具材をパンに挟み込めば、食事の時間も短縮できますし、手も汚れませんね。野外で食事をすることが多い冒険者ならではの知恵、ということでしょうか」
一方ペトラさんはキリッとした顔で料理を手にとり、まじまじと眺めている。
やはりその道のプロらしく、俺なんかの料理にも何かと見るべきところがあるらしい。
なんだか、照れるな。
とはいえ、この手の料理は普通に屋台とかで売っているし、なんならそのへんの宿屋などでも朝食としては定番の料理だ。
もちろん冒険者の専売というわけではない。
……なるほど。
彼女はプロだからこそ、あえて当然のことを再確認しているのかもしれない。
その辺りの深い考えについては、俺も彼女を計りきれないところがあるようだ。
なにしろ、隠れ名店の店主だからな。きっとそうに違いない。
ペトラさんはしばらく真剣な表情で料理を眺めたあと、ぱくっとかぶりついた。
「……にゃっ、おいしっ」
金色の目を大きく見開き、そうぽつりと呟く。
……んん?
彼女のクールな見た目からかけ離れた、ずいぶんと可愛らしい声が聞こえた気がするが、気のせいだろうか。
思わずペトラさんの顔を見る。
相変わらず、凜とした美しい顔立ちである。
美味いものを食べたとしても、クールに「……ふむ」とか言いそうな顔だ。
やはりさっきのは、俺の空耳だったのかも知れない。
最近いろいろあったからな。
日頃の疲れがどっと出たとかそういう感じなのだろう。
自覚はないが、きっとそうだ。
さて、俺も腹が減っている。
せっかく自分で作った料理を食べられないのは悲しいからな。
ちなみにパレルモとビトラはよく食べるので、きちんと二人用にたくさん盛った皿を用意して隔離してあるから大丈夫だ。
料理を一つ手に取る。
牛肉は厚切りにしただけあって、パン越しにもずっしりとした量感が手に伝わってくる。
息を吸い込むと、ほどよく火の通った厚めのステーキ肉や香辛料、それにパンの裏に塗ったバターの芳醇な香りが渾然一体となって鼻腔を吹き抜けてゆく。
……うむ。
大きく口を開き、がぶりと一口。
豪快に咀嚼すると、たっぷりとした肉の厚みが生み出す贅沢な噛み応えが否応なく俺の満足感を高めてゆく。
噛めば噛むほど染み出す肉の滋味。
口の中で弾ける、鮮烈な香辛料の香り。
バターの芳醇で暖かみのある舌触り。
シャキシャキとした歯ごたえとの葉野菜の爽やかな噛み心地。
それらが複雑に絡み合い、多層的な味と食感のコントラストを生み出してゆく。
美味い。
旦那の食レポは的確だったようだ。
『貪食』の力がある限り魔物肉を摂取することは止められないが、これからは普通の食材のみで調理する機会を増やしてもいいかもしれないな。
◇
「ふー。ご馳走様でした」
最後の一欠片をごくりと飲み込んだペトラさんが、満足そうな顔で息を吐いた。
「気に入ってもらえたようで、なによりだ」
「いえいえ、本当に美味しかったです。それにしても、ハーバートさんはやはり凄いですね。これほどの腕前の料理人とお知り合いだったなんて……」
「ま、まあな! 実のところ、俺も想像以上の美味さに驚いているところでな。ライノ、まさかお前がここまで『やる』思わなかったぞ」
ハーバートの旦那が腕組みをしながら、なにやらウンウンと頷いている。
つーか旦那、そういえば無駄にカッコイイ名前だった。
完全に忘れてたが。
そんな香辛料屋の主ことハーバートさんが話を続ける。
「確かに、料理自体に特別なところはねえ。ウチのやつが出す肉料理に比べて倍は分厚い肉ではあったが……それだけだ。だが、本質はそこじゃねえ」
「ええ、確かにあの厚みには冒険者の矜持が宿っていました」
ペトラさんもウンウンと深く賛同している。
特に冒険者の矜持なるものは込めた覚えはないが、それは言わぬが花だ。
さらに旦那が続ける。
「あの絶妙な肉の火の通り具合に旨味と風味を殺さないギリギリの綱渡りみてーなスパイス使い……一体どこで体得したんだ? 依頼の合間に料理番をただこなすだけの冒険者じゃ、ここまでレベルの高い料理を作れるわけがねえ!」
「そうですね。私にも是非教えて欲しいくらいです」
「お、おう?」
興奮気味に語り出す旦那とこくこくと大きく何度も頷くペトラさん。
正直そこまでベタ褒めだと、かなり気恥ずかしいぞ。
さきほど作ったのは、本当にありふれたパン料理なのだ。
特別なところなんて、何もないのだ。
もちろん肉の火の通り具合や塩、香辛料などは俺なりに食材にとってベストな状態を見極めたうえで調節しているつもりではある。
だが、それは料理を作る者ならば当然のことじゃないのか?
強いて俺が他の連中より秀でていそうな点を上げるとすれば……
それは魔物料理だろうか。
俺には、ダンジョンの奥底でクソ不味い魔物肉をどうにかするためにあらゆる調理法を試した経験値がある。
あの悪戦苦闘は、間違いなく俺の血肉となっているのだろう。
正直、パレルモとビトラは俺が作るものなら何でも喜んで食べてくれるから、特段料理スキルが高いとか、そういう実感がなかったからな。
もちろん彼女たち以外の連中に食わせた時も美味いと言ってくれはした。
だがそれは、依頼で山を歩きづめのクタクタのグダグダ状態で何を口に入れても「ウマい」以外のセリフが出てこない状況であったり、比較対象がダンジョン内で食べる行動食だったりとイマイチ客観的と言い切れる状況ではなかったからな。
そういう意味では、二人は食のプロだ。
だからまあ、多少は良い気分になっても構わないだろう。
……そう思うことにする。
「で、だ。ライノ、ものは相談なんだが……」
ひとしきり俺を称えまくったハーバートこと旦那が、急に真剣な顔になって話を切り出してきた。
「実は、『彷徨える黒猫亭』の先代のへルッコ爺とはウチとは長年の付き合いでな。ヤツとはよく酒を飲み交わす仲……だった」
そう言うと、旦那が暗い顔になった。
「まあ早い話、ここにいるペトラちゃんは、爺の孫娘でな。つい最近店を引き継いだばかりなんだわ。一応彼女は小さい頃から店を手伝っていただけあって、接客や店の経営についてはまずまずうまく回っている。だが、料理の方は爺が全部仕切っていてな。要するに、今のペトラちゃんは料理の素人同然なんだわ。爺の孫だけあって、筋は悪くねえんだがな」
「……残念ですが、ハーバートさんのおっしゃる通りです」
ペトラさんもそう言って目を伏せ、深いため息を吐いた。
確かに反応がその道の人間らしくない感じがしたが、料理人見習いだったとは。
「で、なんだ? 相談っつーのは」
ここまでお膳立てされていて察しが付くも付かないもあったものではないのだが、あえてそう聞くのは……まあ、お約束というものだ。
「ライノ。お前の料理の腕を見込んで、頼みがある。『彷徨える黒猫亭』で料理人をやってくれないか? だまし討ちみたいな形で悪いとは思ってはいるんだが……代わりが見つかるまでの間だけでもいい。もう、頼めるのがお前しかいねえんだ」
0
お気に入りに追加
1,006
あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる