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第11話 掃除係……兼、祭壇の護り手
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パレルモは祭壇の裏でのびていた。
額にかすり傷があるが、それ以外に外傷はなさそうだ。
存外頑丈だな。
一応、岩か何かの破片が当たっていたような気がしたが。
まあ、無事ならいいか。
「おい、パレルモ。おい。大丈夫か?」
ゆさゆさと揺すってみる。
「むにゃむにゃ……んー。もう……食べられないよー」
……おい。
さっきの騒ぎの中、余波を喰らって昏倒したはずだったよな? コイツ。
なんでそんな幸せそうに眠りこけているんだ。
というか、美少女が絶対してはならないアホ面晒してるぞ。
口の端からなんか垂れてるし……
「ん、んふふー……あと、もうちょっとだけ……今日のお掃除は、お昼からー」
ごろん、と床の上で寝返りをうつパレルモ。
「んふふー」じゃねえよ。
地下のダンジョンに昼も夜もないだろーが。
幸せそうなのはいいが、さっさと起きろ。
しばらくぺしぺしと頬を叩いていると、だんだんと目が覚めてきたようだ。
とろんとした目で、ごろごろと石でできた床を転がっていたが……
突然目をカッ! と見開くと、
「んらばマッッ!?」
と叫び、起き上がった。
なんだそれは。
食い物なのか? そうなのか?
「……ハッ!? 挑戦者ライノ! えーと、魔物は? 魔物は?」
目覚めたパレルモが、慌てて辺りを見回す。
「もう退治したよ。おはようさん、巫女のパレルモ」
「……え? え? 誰が?」
まだ寝ぼけているようだが、一応記憶の混乱はなさそうだ。
「ほれ」
百聞は一見にしかず、だ。
俺は持ってきていた大蛇の首をパレルモの前にドン! と置いた。
パレルモはしばらく大蛇の首を呆けたように見つめていたが、急に目を見開くと、
「ギャアアアァァ!? 魔物おおおおぉぉっっ!!」
また涙目で絶叫した。
一瞬、何が起きたのか分からなかったらしい。
まだ寝ぼけてるのか。
「おい落ち着け。もう死んでる。よく見ろ。コイツ、頭だけだろ? あっちには胴体もあるぞ」
腰を抜かしてしまったパレルモに、切断面を見せてやる。
「……おぷっ」
今度は青い顔でうずくまってしまった。
忙しい巫女さまだな。
長生きの割にはこっちの耐性がないらしい。
どっかの勇者ご一行様の女騎士様みたいだな。
まあいい。
コイツの安否確認の他、確かめたいことがあった。
「なあパレルモ。このへん、どっかに薬草とかハーブとかが生えているところって、ないか?」
「……はーぶ?」
「ハーブ。いい匂いがする草だよ。あそこの肉を全部食い尽くさなけりゃならないんだ。臭みを抜くのがあるといいだが、知ってるか?」
「はへ?」
首のない大蛇を指さして言うが、パレルモはいまいちピンときていない様子だな。
ダンジョンで、というのがその理由か?
もっとも、今までの様子を見るにコイツにそのあたりの知識があるか怪しいところだが。
薬草や香草のほとんどは、もちろん地上の森や草原に生育している。
しかし、ある種の植物は、ダンジョンの魔力溜りなどを好んで生育しているものも少なくない。
代表的なものは、食用ではないがホタル苔だな。
こいつは高級な回復薬の主原料になるほか、冒険者たちの必須携行装備である魔素灯の発光媒体でもある。
ホタル苔に限らず、特殊な薬理作用や用途のものはダンジョン内で採れるものが多い。
今回は単独でも可能な依頼だったが、たいていはダンジョンの奥深くに生育しているから、それなりに装備を整えた冒険者パーティーで挑むことが多いが。
まあ、余談だな。
大蛇肉の泥臭さを消すとなると、コリアンダーとか月桂樹の葉があるといい。
ただ、どちらも地上の植物だし、そもそもこのあたりには生育していない。
どこか、結構遠くの地方が産地だったかな。
なくて当然だが、もしやと思ったんだが……
はあ。
やっぱりダメ、か……
そう思って、諦めかけた、そのとき。
「あああああぁぁぁぁーーー! せっかく掃除したのにーーーー!」
大声で嘆く声が聞こえた。
もちろん声の主はパレルモだ。
見れば、パレルモが松明で作った薪の前で四つん這いの格好で、ぷるぷるしている。
俺が考え事をしているうちに、移動していたようだ。
「なんだ、騒がしいな。どうしたんだ?」
俺が近寄って声をかけると、彼女は肩をぴくん、と一度震わせたあと、首だけをこちらに傾けた。
おぉ……目に光がないな。
本当にどうしたんだ?
と、パレルモはビシッ! と俺に指を突きつけて、言った。
「挑戦者ライノ! もう! 本当に、もう!! 確かに、ニーズヘッグを倒してくれたのは感謝するよ!? というか、ビックリだよ! すっごい強そうな挑戦者でも、この子たちを一目見たら泣きながら逃げていくのに! でも、でも……」
あ、この大蛇、そんな名前なのか。
パレルモは物知りだな。
やっぱり強かったのか。まあそうだろうな。
ふんふん、と聞いていると、パレルモの目がだんだんと目が吊り上がってきた。
そして……
「なんでここで薪なんてしちゃうのさ! それに、この死骸と血の池! 昨日掃除したばっかりだったのに! ていうかこんなの、どう掃除すればいいのー!?」
うわああ! と頭を抱えるパレルモ。
ああ、そういえばこの子はこの広間の掃除係……兼祭壇の護り手だったな。
これは悪いことをした。
でもまた昼から掃除するんだろ?
なら別にいいだろ?
とはさすがに口に出さない。
俺は空気が読める男だからな。
「そうは言ってもだな。メシを喰おうにも調理する設備も場所もないだろ」
「うう……たしかにそうだけど! ……こんなモノをお料理する場所なんて……あっ」
考え込んでいたパレルモが何かを思いついたらしく、こっちを見た。
「あるのか?」
ここがダメなら、ハーブ探索がてら、開いた出入り口の外で焼こうと思ったんだが。
「えっ、あ、あるには、あるんだけど……でも……」
思いついたわりに歯切れが悪いな。
「その……でも、ライノはもう魔王さまっぽいし……わたしは魔王さまの巫女だから……」
急にもじもじし始めるパレルモ。
こっちをチラチラ見ながら、小声でなにやらブツブツ言っている。
しかし、顔が赤いな。
具合でも悪いのか?
それとも、石の床で寝転んでいたから、身体が冷えて具合でも悪くなったのか。
さっきはいろいろあって放置気味だったし、ちょっと心配だな。
「パレルモ、大丈夫か? ずいぶん顔が赤いな。熱でもあるのか?」
彼女の額にかかる前髪を手でのけて、俺の額とくっつけてみる。
ん? ずいぶん熱いな?
本当に具合が悪いのか?
「はわっ……!? ら、ら、ライノ!? いいいいきなり何してっ……!?」
とたん、パレルモが目を白黒させて俺の手を払った。
おっと。
結構力が強いな。
ちょっとさっきのはマズかったかな?
ヤバイ、顔が真っ赤だ。
どうも、怒らせてしまったようだ。
これはマズったな。
故郷にいる妹には、別に怒られたことなんてなかったんだが……
いや、そういえば以前、アイラがダンジョンで毒に冒され高熱を出したときにやったら、同じ反応をされたことがあったな。
あのときは何故かサムリも怒り出すし、イリナには説教されるしで散々だった。
なんだか、パレルモは初対面の時と印象とは違って、喋っているとどうも故郷の妹を思い出してしまう。妙に人なつっこいところとか、距離感とか、よく似ているんだよな。
だが、やはり他人を家族と同じように扱うのはダメだな。
以後、気をつけよう。
「ああ、すまんパレルモ。ちょっと故郷にいる妹を思い出してしまってな。ちょうど同じくらいの年格好だったからな。悪かったよ」
「い、妹……?」
俺が謝ると、パレルモが眉を寄せた。
そこからしばらく何かを考えていたようだが、「あっ」と声を上げたと思ったら、「はあー」と大きなため息をついて、肩を落としてしまった。
何か俺、変なこと言ったか?
「お、おい、パレルモ?」
声に反応してこちらに顔を向けるパレルモ。
瞳にさっきよりも光がないぞ。
まるでゾンビだな。
いや。
これこそが……三千年ものあいだ、魔王の力を守護していた巫女の眼だ。
多分。
「だ、だいじょうぶだよー? 魔王ライノさま? こちらへどーぞ? 早くしてね? ほらー」
ジト目になったパレルモが、こっちこっちと手を振る。
なんか、ぞんざいな態度になったな。
というか、俺のこの力は、やはり魔王なのか。
たしかに、それっぽいが。
しかし、特に世界を滅ぼしたいとかは思わないんだが、それは別にいいんだろうか?
それに、そんな魔王様の武器も杖とか魔剣とかじゃなく、包丁だし……
まあ、そんなことよりを考えるよりも、今はやることがあるな。
正直、あとどのくらい時間があるのか分からんからな。
「で、この肉を料理できる場所ってのは、どこなんだ」
「こ、こっちだよ!」
パレルモが祭壇の奥に向かって、大股でずんずんと歩いて行く。
そんなところに何かあったっけ?
「おい、どこだよ。そっちは壁しかないぞ」
と俺が言ったところで、パレルモが振り向いた。
「むふー。まあ、見てなよー」
ちょっと鼻息が荒い。
なんでそんなドヤ顔なんだ。
「――《解錠》」
パレルモが広間最奥部の壁に手を触れ、呪文を呟く。
すると、彼女の手を中心に、淡い光を伴って魔法陣が浮かび上がった。
――ガゴン。
目の前で重たい音がした。
すこしだけ埃が舞い、同時に正面の壁面に亀裂が走る。
いや、亀裂というか、裂け目だな。
目の前で、四角く切り取られた壁面がゆっくりと後退していく。
ようやくそこで、それが扉だったのだと、はっきり認識することができた。
なるほど。
遺跡の機構か。魔術式の隠し扉だな。
ほどなくして、ひと一人が通れるほどの通路が出現した。
「よーこそ、私のお部屋へ! ここに招待したのは、ラ、ライノが初めてなんだから、ね?」
なんとなくやけくそな感じで、パレルモがそう言った。
額にかすり傷があるが、それ以外に外傷はなさそうだ。
存外頑丈だな。
一応、岩か何かの破片が当たっていたような気がしたが。
まあ、無事ならいいか。
「おい、パレルモ。おい。大丈夫か?」
ゆさゆさと揺すってみる。
「むにゃむにゃ……んー。もう……食べられないよー」
……おい。
さっきの騒ぎの中、余波を喰らって昏倒したはずだったよな? コイツ。
なんでそんな幸せそうに眠りこけているんだ。
というか、美少女が絶対してはならないアホ面晒してるぞ。
口の端からなんか垂れてるし……
「ん、んふふー……あと、もうちょっとだけ……今日のお掃除は、お昼からー」
ごろん、と床の上で寝返りをうつパレルモ。
「んふふー」じゃねえよ。
地下のダンジョンに昼も夜もないだろーが。
幸せそうなのはいいが、さっさと起きろ。
しばらくぺしぺしと頬を叩いていると、だんだんと目が覚めてきたようだ。
とろんとした目で、ごろごろと石でできた床を転がっていたが……
突然目をカッ! と見開くと、
「んらばマッッ!?」
と叫び、起き上がった。
なんだそれは。
食い物なのか? そうなのか?
「……ハッ!? 挑戦者ライノ! えーと、魔物は? 魔物は?」
目覚めたパレルモが、慌てて辺りを見回す。
「もう退治したよ。おはようさん、巫女のパレルモ」
「……え? え? 誰が?」
まだ寝ぼけているようだが、一応記憶の混乱はなさそうだ。
「ほれ」
百聞は一見にしかず、だ。
俺は持ってきていた大蛇の首をパレルモの前にドン! と置いた。
パレルモはしばらく大蛇の首を呆けたように見つめていたが、急に目を見開くと、
「ギャアアアァァ!? 魔物おおおおぉぉっっ!!」
また涙目で絶叫した。
一瞬、何が起きたのか分からなかったらしい。
まだ寝ぼけてるのか。
「おい落ち着け。もう死んでる。よく見ろ。コイツ、頭だけだろ? あっちには胴体もあるぞ」
腰を抜かしてしまったパレルモに、切断面を見せてやる。
「……おぷっ」
今度は青い顔でうずくまってしまった。
忙しい巫女さまだな。
長生きの割にはこっちの耐性がないらしい。
どっかの勇者ご一行様の女騎士様みたいだな。
まあいい。
コイツの安否確認の他、確かめたいことがあった。
「なあパレルモ。このへん、どっかに薬草とかハーブとかが生えているところって、ないか?」
「……はーぶ?」
「ハーブ。いい匂いがする草だよ。あそこの肉を全部食い尽くさなけりゃならないんだ。臭みを抜くのがあるといいだが、知ってるか?」
「はへ?」
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ダンジョンで、というのがその理由か?
もっとも、今までの様子を見るにコイツにそのあたりの知識があるか怪しいところだが。
薬草や香草のほとんどは、もちろん地上の森や草原に生育している。
しかし、ある種の植物は、ダンジョンの魔力溜りなどを好んで生育しているものも少なくない。
代表的なものは、食用ではないがホタル苔だな。
こいつは高級な回復薬の主原料になるほか、冒険者たちの必須携行装備である魔素灯の発光媒体でもある。
ホタル苔に限らず、特殊な薬理作用や用途のものはダンジョン内で採れるものが多い。
今回は単独でも可能な依頼だったが、たいていはダンジョンの奥深くに生育しているから、それなりに装備を整えた冒険者パーティーで挑むことが多いが。
まあ、余談だな。
大蛇肉の泥臭さを消すとなると、コリアンダーとか月桂樹の葉があるといい。
ただ、どちらも地上の植物だし、そもそもこのあたりには生育していない。
どこか、結構遠くの地方が産地だったかな。
なくて当然だが、もしやと思ったんだが……
はあ。
やっぱりダメ、か……
そう思って、諦めかけた、そのとき。
「あああああぁぁぁぁーーー! せっかく掃除したのにーーーー!」
大声で嘆く声が聞こえた。
もちろん声の主はパレルモだ。
見れば、パレルモが松明で作った薪の前で四つん這いの格好で、ぷるぷるしている。
俺が考え事をしているうちに、移動していたようだ。
「なんだ、騒がしいな。どうしたんだ?」
俺が近寄って声をかけると、彼女は肩をぴくん、と一度震わせたあと、首だけをこちらに傾けた。
おぉ……目に光がないな。
本当にどうしたんだ?
と、パレルモはビシッ! と俺に指を突きつけて、言った。
「挑戦者ライノ! もう! 本当に、もう!! 確かに、ニーズヘッグを倒してくれたのは感謝するよ!? というか、ビックリだよ! すっごい強そうな挑戦者でも、この子たちを一目見たら泣きながら逃げていくのに! でも、でも……」
あ、この大蛇、そんな名前なのか。
パレルモは物知りだな。
やっぱり強かったのか。まあそうだろうな。
ふんふん、と聞いていると、パレルモの目がだんだんと目が吊り上がってきた。
そして……
「なんでここで薪なんてしちゃうのさ! それに、この死骸と血の池! 昨日掃除したばっかりだったのに! ていうかこんなの、どう掃除すればいいのー!?」
うわああ! と頭を抱えるパレルモ。
ああ、そういえばこの子はこの広間の掃除係……兼祭壇の護り手だったな。
これは悪いことをした。
でもまた昼から掃除するんだろ?
なら別にいいだろ?
とはさすがに口に出さない。
俺は空気が読める男だからな。
「そうは言ってもだな。メシを喰おうにも調理する設備も場所もないだろ」
「うう……たしかにそうだけど! ……こんなモノをお料理する場所なんて……あっ」
考え込んでいたパレルモが何かを思いついたらしく、こっちを見た。
「あるのか?」
ここがダメなら、ハーブ探索がてら、開いた出入り口の外で焼こうと思ったんだが。
「えっ、あ、あるには、あるんだけど……でも……」
思いついたわりに歯切れが悪いな。
「その……でも、ライノはもう魔王さまっぽいし……わたしは魔王さまの巫女だから……」
急にもじもじし始めるパレルモ。
こっちをチラチラ見ながら、小声でなにやらブツブツ言っている。
しかし、顔が赤いな。
具合でも悪いのか?
それとも、石の床で寝転んでいたから、身体が冷えて具合でも悪くなったのか。
さっきはいろいろあって放置気味だったし、ちょっと心配だな。
「パレルモ、大丈夫か? ずいぶん顔が赤いな。熱でもあるのか?」
彼女の額にかかる前髪を手でのけて、俺の額とくっつけてみる。
ん? ずいぶん熱いな?
本当に具合が悪いのか?
「はわっ……!? ら、ら、ライノ!? いいいいきなり何してっ……!?」
とたん、パレルモが目を白黒させて俺の手を払った。
おっと。
結構力が強いな。
ちょっとさっきのはマズかったかな?
ヤバイ、顔が真っ赤だ。
どうも、怒らせてしまったようだ。
これはマズったな。
故郷にいる妹には、別に怒られたことなんてなかったんだが……
いや、そういえば以前、アイラがダンジョンで毒に冒され高熱を出したときにやったら、同じ反応をされたことがあったな。
あのときは何故かサムリも怒り出すし、イリナには説教されるしで散々だった。
なんだか、パレルモは初対面の時と印象とは違って、喋っているとどうも故郷の妹を思い出してしまう。妙に人なつっこいところとか、距離感とか、よく似ているんだよな。
だが、やはり他人を家族と同じように扱うのはダメだな。
以後、気をつけよう。
「ああ、すまんパレルモ。ちょっと故郷にいる妹を思い出してしまってな。ちょうど同じくらいの年格好だったからな。悪かったよ」
「い、妹……?」
俺が謝ると、パレルモが眉を寄せた。
そこからしばらく何かを考えていたようだが、「あっ」と声を上げたと思ったら、「はあー」と大きなため息をついて、肩を落としてしまった。
何か俺、変なこと言ったか?
「お、おい、パレルモ?」
声に反応してこちらに顔を向けるパレルモ。
瞳にさっきよりも光がないぞ。
まるでゾンビだな。
いや。
これこそが……三千年ものあいだ、魔王の力を守護していた巫女の眼だ。
多分。
「だ、だいじょうぶだよー? 魔王ライノさま? こちらへどーぞ? 早くしてね? ほらー」
ジト目になったパレルモが、こっちこっちと手を振る。
なんか、ぞんざいな態度になったな。
というか、俺のこの力は、やはり魔王なのか。
たしかに、それっぽいが。
しかし、特に世界を滅ぼしたいとかは思わないんだが、それは別にいいんだろうか?
それに、そんな魔王様の武器も杖とか魔剣とかじゃなく、包丁だし……
まあ、そんなことよりを考えるよりも、今はやることがあるな。
正直、あとどのくらい時間があるのか分からんからな。
「で、この肉を料理できる場所ってのは、どこなんだ」
「こ、こっちだよ!」
パレルモが祭壇の奥に向かって、大股でずんずんと歩いて行く。
そんなところに何かあったっけ?
「おい、どこだよ。そっちは壁しかないぞ」
と俺が言ったところで、パレルモが振り向いた。
「むふー。まあ、見てなよー」
ちょっと鼻息が荒い。
なんでそんなドヤ顔なんだ。
「――《解錠》」
パレルモが広間最奥部の壁に手を触れ、呪文を呟く。
すると、彼女の手を中心に、淡い光を伴って魔法陣が浮かび上がった。
――ガゴン。
目の前で重たい音がした。
すこしだけ埃が舞い、同時に正面の壁面に亀裂が走る。
いや、亀裂というか、裂け目だな。
目の前で、四角く切り取られた壁面がゆっくりと後退していく。
ようやくそこで、それが扉だったのだと、はっきり認識することができた。
なるほど。
遺跡の機構か。魔術式の隠し扉だな。
ほどなくして、ひと一人が通れるほどの通路が出現した。
「よーこそ、私のお部屋へ! ここに招待したのは、ラ、ライノが初めてなんだから、ね?」
なんとなくやけくそな感じで、パレルモがそう言った。
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