【完結】劣情を抱く夢魔

朔灯まい

文字の大きさ
上 下
32 / 37

32.疑心暗鬼

しおりを挟む
 今日一日、ずっと考えていたアビリウスさんとの関係性。
 考えれば考えるほど、答えがそこにしか行きつかなくて私の気分は最悪だった。

「悪い方に考えなければいいんだけど…」

 出会いから仕組まれていたものだとしたら?
 キール君も、あの瞳ですら演出だったのでは?と悪い方にばかり考えが及んで、もう自分の中では到底処理できなくなっていた。
 だからと言ってアビリウスさん本人に、私達の関係って体だけ?なんて聞く勇気も勿論ない。

「…はぁ…」

 アビリウスさんの事を疑っている自分にも辟易として溜息ばかり溢れる。
 夜会いに行くのはやめておこうか、そんな風に思っていると着信が入る。

「ん?…あ、真実」

 画面には【真実】の文字。そういえば、何も言わずに帰ってきたなと電話を取る。

「伊織?今大丈夫?」
「うん、どうしたの?」

 なんて事ない日常的な会話をしながら、わざわざ電話してくるなんて珍しいなと思っていた時だった。

「うん…ねえ、ちなみに何だけどさ…今日の夜って…」
「よっ、夜?!!!」

 思わず大きな声が出てしまった。
 真実と遊ぶことはあっても、それは夜ではない。まさかの問いかけに心臓がどくりと跳ねた。
 もしかして南さん同様、真実も何か怪しんでいる?
 
「あー、ごめん、夜はちょっと用事が…明日の放課後なら、」
「ううん、私もいきなりごめんね!じゃあ、また明日!」
「うん、またね」

 電話が切れてもなお心臓の鼓動が早い。

「嘘ついちゃった…」

 真実がただ夜に遊びに行きたいだけならとても申し訳ない事をしたが、今まさに夜にしか会えない彼のことを考えていた私にとってその単語は自分を冷静に保てなくなるものだった。

「良くないなあ…」

 朝はあんなに幸せな気持ちだったのに、今じゃこんなにどんよりと陰っている。
 
「やっぱり会いに行く…で聞く?」

 聞いて、アビリウスさんの口から語られるものが必ずしも私が喜ぶものではないとしたら?

《全部お前を食うための演技だよ、演技》
《お前みたいな女に僕が優しくするわけないじゃん》

「っ!!」

 勝手に自分の中で妄想して、そんな事言われた事もないのに、もしそう思っていたらと傷付くくらいには私の中のアビリウスさんという存在はとても大きなものになっていた。

「…はぁ…」

 アビリウスさんがそんなことを言うはずない、そう頭では思っていても、実際に彼が考えてる事が全てわからない以上それが本心かもわかりようがない。
 
「信じたいのに…信じれない…」

 自己嫌悪と疑心暗鬼に精神が不安定になる。

「…っはは」

 こんなに心を乱されるとは思いもしなかったなと一人自嘲した。

「…弱いなあ…」

 もはや依存に近い感情をこんな短期間で抱くとは思わなかった。
 そこまで不安になるなら聞かずに現状維持すればとも思うが、一度芽生えた思いがそれを許さない。

 いつのまにか彼の心すら欲している私は不安を抱きながらも結局アビリウスさんに会いに行った。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】素直になれない私が、得体の知れない薬のおかげで幼馴染との距離を強引に縮めた話。

夕月
恋愛
薬師のメルヴィナは、かつてないほどに焦っていた。ちょっとした正義感を発揮した結果、催淫剤を飲んでしまったのだ。 優秀な自分なら、すぐに解毒剤を調合できると思っていたのに、思った以上に身体に薬が回るのが早い。 どんどん熱くなる身体と、ぼんやりとしていく思考。 快楽を求めて誰彼構わず押し倒しそうなほどに追い詰められていく中、幼馴染のフィンリーがあらわれてメルヴィナは更に焦る。 顔を合わせれば口喧嘩ばかりしているけれど、本当はずっと好きな人なのに。 想いを告げるどころか、発情したメルヴィナを見てきっとドン引きされるはずだ。 ……そう思っていたのに、フィンリーは優しい笑みを浮かべている。 「手伝うよ」 ってそれは、解毒剤の調合を? それとも快楽を得るお手伝い!? 素直になれない意地っ張りヒロインが、催淫剤のおかげで大好きな人との距離を縮めた話。 大人描写のある回には★をつけます。

【番外編】わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~メイド達と元伯爵夫人のその後~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、ようやく夫から離縁してもらえた。夫のディマスは爵位を剥奪され、メイド達は解雇される。夫に愛されないフロレンシアを蔑み、虐待したメイドや侍女のその後。そしてフロレンシアを愛する騎士のエミリオの日常のお話です。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

寝込みを襲われて、快楽堕ち♡

すももゆず
BL
R18短編です。 とある夜に目を覚ましたら、寝込みを襲われていた。 2022.10.2 追記 完結の予定でしたが、続きができたので公開しました。たくさん読んでいただいてありがとうございます。 更新頻度は遅めですが、もう少し続けられそうなので連載中のままにさせていただきます。 ※pixiv、ムーンライトノベルズ(1話のみ)でも公開中。

美形な兄に執着されているので拉致後に監禁調教されました

パイ生地製作委員会
BL
玩具緊縛拘束大好き執着美形兄貴攻め×不幸体質でひたすら可哀想な弟受け

離縁しようぜ旦那様

たなぱ
BL
『お前を愛することは無い』 羞恥を忍んで迎えた初夜に、旦那様となる相手が放った言葉に現実を放棄した どこのざまぁ小説の導入台詞だよ?旦那様…おれじゃなかったら泣いてるよきっと? これは、始まる冷遇新婚生活にため息しか出ないさっさと離縁したいおれと、何故か離縁したくない旦那様の不毛な戦いである

同じクラスの子が書いてた鬼畜エロ小説の不憫ヒロインに転生してしまった

アズサ
恋愛
おんなじクラスの女の子が書いてあった設定に無理がありすぎるエロ小説の不憫ヒロインになってしまっていた。 その設定はヒロインは体重33キロで身長152センチ、トップバスト105センチ、アンダーバスト、59センチ、ウエスト52センチ、すぐ貧血で倒れ、ものすごく病弱、継母たちのもとで虐められていたが舞踏会に参加して、皇帝の番だと言うことがわかってからは番の儀式を行ったり、皇帝の鬼畜プレイに付き合わされ、碌に外に出してもらえない。その上、皇帝は身長189センチ、筋肉がムキムキで巨根。みたいな設定だった気がする。 そんな小説に転生してしまう主人公の話、なお主人公はそのことについて覚えていない クソみたいな話です。設定と内容が違うかも

初めてなのに中イキの仕方を教え込まれる話

Laxia
BL
恋人との初めてのセックスで、媚薬を使われて中イキを教え混まれる話です。らぶらぶです。今回は1話完結ではなく、何話か連載します! R-18の長編BLも書いてますので、そちらも見て頂けるとめちゃくちゃ嬉しいですしやる気が増し増しになります!!

処理中です...