【完結】劣情を抱く夢魔

朔灯まい

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8.翻弄される

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 毛玉ことアビリウスさん。
 彼は日光に弱く、人の形を保てなくなるとこうして毛玉の姿になり力を温存するという。

「聞いてもいないのに説明どーも」
「知りたそうな顔してたと思ったんだけど」

 そう話すアビリウスさんの姿は毛玉状態でいまだに毛布の中にいるため口を塞ぐことが出来ない。
 というか口あるのかな。

「だから僕に会えるのは夜だけだよ」
「あっそ」
「どんどん辛辣になっていくね」

 そう言う割には声色は明るく、私との会話を楽しんでいるようだった。
 いろいろと話してくれるのなら、正直聞きたいことが私にもある。

「…一体何者なの?」
「アビリウスさんはアビリウスさんであって何者でもないよ」
「……」
「嘘嘘!!冗談だから!!潰そうとしないで!!!優しく触って!!」

 黙ってぐりぐりと押さえつければ、そう言ってくるアビリウスさん。
 …なんともいえない触感が癖になりそうで少し腹立たしい…。

「イオリちゃんの敵ではないから安心して」
「何も安心できないから聞いてるんだけど」
「えー、こんな姿晒してるのに?」
「それのどこが安心材料に…?」
「うーん、どうしたら信じてもらえるかな…」
「……」

 多少の疑いはあるものの、結局のところ、こうして普通じゃない生き物と普通に会話をしているあたり、私もこの人に絆されてるんだと思う。
 理由が何かと問われれば、ただ漠然とこの人は私に危害を加えないだろうと感じる、それだけだった。
 でも本人には絶対言ってやらない、調子に乗りそうだから。
 ……昨日の一件を危害を受けたとするかでまた変わってくるけどあれは一旦ノーカウントとしたい。

「それよりご飯食べないの?お母さん作ってくれてるんでしょ?」
「正直アビリウスさんの方がご飯より重要なんだけど」
「えっ」
「ときめくな、そうじゃない」
「あ、痛い!痛い!!」

 再びぐりぐりと押さえつける。…やっぱ癖になりそう…。

「ほら、今僕弱ってるんだから!優しくして!」
「弱ってるような声色には聞こえないけど」
「…夜になったらちゃんと話すから!」
「夜?今じゃなくて?」
「今だといろいろ証明できないから…ね?」

 何を証明するのかわからないけど、夜になったら説明してくれるらしいので、手を離した。

「ん?ちょっと待って」
「?」

 納得しかけたところで、ふとある疑問が沸いた。

「夜までここにいるつもり?」
「うん、動けないし」
「……それは困る」
「どうして?」

 どうしても何も、いくら毛玉の姿とは言えお母さんに見つかったら大変だ。
 私の部屋にいたとしても見つからない保証はどこにもない。

「だって見つかったら…」

 そう言いかけて、携帯の着信音が響いた。かけてきた相手は…あれ?お母さん?

「電話出るから絶対喋らないでよ」
「わかった」
「……もしもし?お母さんどうしたの?」
「あ、伊織?ごめん今日帰れないかも」
「…え?」
「急遽出張になっちゃって……一人で大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。私の事は心配しなくていいからお仕事頑張って」
「ごめんねー!明日には帰って来れると思うから!」
「うん、じゃあね」

 ぷつりと電話を切る。
 こういった事は今回が初めてではない為、さほど問題ではない。…問題ではないが、アビリウスさんにとって都合が良すぎない??

「僕が見つかる可能性…なくなったね」
「……」
「いだっ!!!!」

 程よく家から追い出す理由がなくなった事と、それを見透かされた事に苛立ちを感じ、今日一番の力で直にアビリウスさん(毛玉)を握り締めた。

「このままお日様の前まで連れて行ってあげるね」
「あっ、ちょ、それだけは!!」

 毛布の中から持ち出そうと手を動かすが何故か一向に動かない。
 一体どうなっているの?そう思い毛布の中に顔を突っ込むと同時に煙が巻き起こった。

「……おお、ナイスタイミング」
「……」

 先程までの毛玉はあっという間に人の姿に変わり、私の顔の前には大変お顔のよろしいアビリウスさん。

「なっ?!」
「ん?」
「何で人の姿になってんの?!」
「ずっと保てないだけで、なれないとは言ってないよ」

 ニヤリと蠱惑的な笑みを浮かべるアビリウスさんに思わずどきりとする。
 
「このままイオリちゃんをベッドに引き摺り込んでもいいんだよ?」
「うっ?!!」
「どう?これでもまだ連れ出そうとする?」
「…っ!!!」

 握りしめていたはずの毛玉はいつの間にかアビリウスさんの手に変わって、やわやわと触る手つきがいやらしい。
 さらに至近距離で見つめてくる視線に耐え切れず、私は降参した。

「参りました、」
「ははっ、顔真っ赤」
「うるさい…この中熱いから!」

 顔を毛布から出し、無理やり手を離す。
 
「ご、ご飯食べてくる!!ここで大人しくしててよ!!!」
「ゆっくり食べておいで」
「言われなくても!!!」

 私が部屋から出る時には、こんもりとしていた毛布は平たくなっており、アビリウスさんは毛玉の姿に戻っていた。
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